3.今日はセクハラしたい気分だったらしい
私たちは毎日、放課後になると人の目を避けながら更衣室裏へ通うようになった。そんな秘密の日課が始まってもう三日は経っただろうか。休日を明日に控えた金曜日の今日、亜希は憂鬱そうな顔で落ち込んでいた。
「お休みなんかいらないって思ったのは生まれて初めてよ」
最初よりも手慣れた手つきで私を縛り上げながら、亜希はぽつりと呟いた。
「ごめん。でもだからって、私だけ留守番ってわけにもいかないでしょ」
次の土日を利用して、私は家族と一緒に遠い田舎のおばあちゃんの家でお泊まりすることになっている。
亜希は一日をまるまる使って私と遊ぶことを楽しみにしていたらしく、その期待が裏切られてショックを受けたみたいだ。
今の今まで話しそびれていた私がいけないのだけど、一日中私を縛り続けるつもりだった亜希もどうかと思う。
「よし、できた。土日は会えないんだから、今のうちにたっぷり堪能しておかないとね。捕らわれのお姫様、さあ私の胸に飛び込んでごらん」
「捕らえたのは亜希じゃないの」
「いいのかなぁ、そんな生意気なこと言っちゃって。……私の予定を覆してくれたキィには、たっぷりおしおきしておかないとだめかな~?」
意地悪そうな話し方で言いながら私の脇腹をつついてくる。
「お、おしおきっ?」
おかげで聞き返す声が裏返ってしまった。それで何を勘違いしたのか、亜希が嬉しそうにニヤニヤし始めた。
「そうよー。悪い子にはおしおきして、たっぷり反省させないと」
私の脇腹から背中、そしてその下へと手を延ばしていく亜希に、私は「いい加減にしなさい」という気持ちをこめて身体を揺すってみせる。
「大丈夫、変なことはしないから。するのはただのおしおき。極々一般的な、ね」
ぱんっ、と音がなる。続けて二回、三回と、亜希の手は私のお尻を叩いていく。
「ちょっと、なに勝手に……!」
「痛かった? もうちょっと優しく叩こっか」
すると次は優しい叩き方になったけど、代わりに叩かれるというよりも撫でられているような感覚になった。こんなチカン染みたことをされるぐらいならしっかり叩いてくれるほうがいくらかマシだ。
「痛くていいからもっと強く……って!」
違う! そうじゃないでしょ、私!
「りょーかい」
「あんっ」
ぱんっぱんっ。動けないのをいいことに私の声を無視してひたすら叩かれる。
まあ、こんなことで機嫌を直してくれるなら、別にいいかな……。
「キィさ、なんか喜んでない?」
ギク。
「そんなことない! すっごく恥ずかしくて嫌なんだけど、私のせいで亜希をがっかりさせたのは本当だしっ、反省してるの!」
「あ、ちゃんと悪いって思ってるんだ? だったらキィのほうからお願いするべきだよね。お尻を叩いてください、ってさ」
亜希がこんなに意地悪なことを言うなんて。本音ではがっかりさせられたことをかなり怒っているのかもしれない。
だけど、だからっていつまでもされるがままの私じゃない。身体を縛らせてあげるだけでも大サービスなんだから、そんなことまで言わされる筋合いなんかないはずだ。
「悪かったとは思うけど、叩かれるほどのことじゃないでしょ」
「そういうこと言うんだね。じゃあ……」
亜希の指先が脇腹を刺激する。
「ひあっ」
「キィに催眠術をかけます。あなたはだんだん、お尻を叩かれたいって思うようになるー」
「あっははははっ、やめてくすぐるなんてずるい! あはははっお願い叩いて、叩いていいからー!」
「こちょこちょこちょ」
「あははははっ私が悪かったです、おしおきしてっ、お尻を叩いてくださいっあはははっ!」
「よろしい」
縛られてしまった私はどうあがいても亜希には勝てないのだ。少しずつ上下関係が作られているようで、怖いような……嬉しいような。
夕日に鳴くカラスの声が聞こえ始めた頃。
縄を解いてもらったはいいものの、私はお尻に残る刺激のおかげでなかなか立てずにいた。
「亜希、途中から本気で叩いてなかった……?」
「うーん、どうだろ。手が疲れてきたから、弱くならないようには頑張ったかな」
スカート越しに叩かれていたとはいえ、これだけ痛みを感じるんだ。脱いでみたら真っ赤になってしまっているかもしれない。誰に見せるわけでもないけど、猿みたいになってたら嫌だなぁ。
「キィが可愛い声出してるからいけないのよ。いじめてくださいって感じでさ」
「だからって、強過ぎ!」
「はいはい、ごめんなさい。回復するまで撫でてあげるから」
お尻に触れた亜希の手が上下左右、隅から隅までゆっくり撫で回す。あまりに舐め回すような手つきがいやらしかったので、亜希の手をぺしっと払いのけた。
「いったーい。まだ縛っとけばよかった」
今回のことでしっかり分かった。亜希は調子に乗ると見過ごせない行動に出ることがあるということが。
縛られている時に変なことをされてしまわないよう、今のうちからしっかり釘をさしておかないと。
「あんまり変なことしないでよね」
「変なことって?」
「お尻撫でたりとか、そういう変態チックなこと!」
すると亜希は残念そうに眉を下げ、「つまんない」とでも言いたげな視線を寄越してくる。
だめなものはだめ。
今回のテーマは「スパンキング」でした。