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2.少しずつ、変わってく

 背中で束ねた腕が締めつけられていく。痛くはない。だけど腕を固定するには十分な力強さで、亜希は少しずつ私の自由を奪っていく。

「ごめんね、キィ。一番最初にあんたを見かけた時からずっと、こうやって縛りあげることしか考えてなかった」

 縄尻を持ち上げられ、ぐいっと前かがみにさせられてしまう。

「よしよし」

 亜希はしっかり縛ることができたか確認しているようだ。

 そして胸の上、胸の下……順当に私の身体に巻き付けられた縄は脇に通され、最後にはぎゅっと絞り上げられてしまった。

「はい、終わり。動いてみて」

「って言われても……」

 上体に密着した腕は動くどころか身体から一センチだって離すことはできない。一体どこで覚えてきたのか、とてもただの女の子ができるわざとは思えなかった。

「あ、亜希、これ……」

「動けないでしょー。今まで散々ぬいぐるみを縛ってきたからね。このくらいお茶の子さいさいなの」

 思いっきり力を入れても縄が緩むことはなく、むしろしっかり固定されたことを感じさせる。

 たった一本の縄だけで、こんなにされるなんて……。

「ふっふっふ。今のキィ相手なら、くすぐろうがスカート捲ろうが何もできない。逆らえないよ」

 今までに聞いたことのない、冷ややかな声だった。

「なんてね。冗談よ、じょーだん」

「冗談に聞こえなかったんだけどっ」

 言われなくたって、この状態では何をされても全く抵抗できないのは分かってる。だからこそ、縛らせてあげたことをちょっとだけ後悔する。

『キィの身体、縛らせて。今回だけじゃない。これから毎日でも、キィを縛っておもちゃにしたい』

 私は亜希がどんな秘密を持っていても友達のつもりだと言った手前、断ることができなかった。さっきまでは思いのままに動かせた両腕を、こともあろうに自分から封じさせてしまったのだ。

 心の中で少しずつ、何かが変わっていくのを感じる。

「はぁっんっ」

 勝手に漏れた自分の声に耳を疑った。

 なんて声を出してるのよっ……。

「私ってさ、ふわふわしたものが好きでしょ? でも本当のところは少し違うの」

 そんなことを話しながら亜希は私の前に回り込み、縛られた私の姿をじっくり舐め回すように観察する。

「ぬいぐるみって抱き締めたらぎゅっと縮むよね? そのぎゅっと縮ませる感覚がどうしようもなく好きなのよ。自分でもどうしてかは分からないんだけど……こういうのを性癖っていうのかな」

 亜希の腕は私の頭を抱き締めた。

 温かい。

 縛られてしまった私は、自分では何もできない小さな存在。亜希の腕に収められてしまったことで、また少しずつ……見える景色が変わっていく。

「キィには一目惚れだった。髪の毛だけじゃない、身体の肉付きも、挙動も、その声も……不思議なくらい全部がふわふわしていて、堪らないほど私好みだったから。こうやって締めつけてみたかったんだ」

「んぅっ」

「もっと聞かせて。搾り出されたキィの声がもっと聞きたいの」

 上を向いた時、空が見えた。

 壁や塀に四方をほとんど囲まれて、長方形の枠に収まった青い空。

 もっと大きな空を見ることは、この固い縄が私を締めつけている限り叶わない。

 既に私はとりこになっていた。亜希が作った檻の、虜に……。

 ふと、亜希の指先が脇腹に触れた。

「ひうっ」

「あっ、ごめん。ここ弱かった?」

 謝ってるくせに指が離れてくれない。

 脇腹をつんつんと繰り返しつついては、私の反応を見て面白がっている。

「こ、こらっ。やめてっ、もうっ」

 いくら抵抗しても亜希の手は止まらない。人形やぬいぐるみを扱うように、私の全てが、亜希一人の気分次第でもてあそばれる。

 こんなことされたら、身体が……熱い。

「キィはどう? こうやって縛られてみて、どんな気持ち?」

 気が済んだら早く解いてね。そう答えることが、これから先の立場を保つためにはベストだと思った。

 そもそも、それが普通の答えなのだ。縛りあげられてどんな気持ち、だなんて聞かれたら、早く解放されたいと思うのが当たり前。

「うぅ……」

 できなかった。普通じゃない気持ちが私の中にあったから。

「キィ、あんたひょっとして」

 亜希がぐっと顔を寄せてくる。鼻と鼻がくっついてしまいそうな至近距離で見る亜希の瞳は輝いて見えた。そして同時に、私の心を覗き込んでいるようでもあった。

「……キィの口から聞きたいな。悪い子でもないのに縛られてしまった、可哀想なキィの気持ちをさ」

 もう、見破られているんだ。

 ためらう意味を失った私はほとんど無意識に、かすれそうなほどの弱々しい声で答えていた。

「とっても、いい気持ち……」

 亜希の手が私の頭をそっと撫であげる。指に髪の毛を絡ませていき、とても優しい手つきで、人形の私を大事にしてくれる。

「やっぱりね」

 亜希はいたずらっぽく笑うと、空が赤くなるまでずっと、私で遊んでくれた。

短いですが、ゆっくりペースで投稿していきます。

読んでいただいた方へ。これからよろしくお願いします!

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