11.水着で過ごす一日
今年もまた夏がやって来た。誰もがすっかり衣替えして肌の露出を増やすこの頃、窓を全開にしてもまだまだ暑い気温の中で、クラスメイト達の瞳は朝から輝きが溢れ出していた。
今日はみんなが待ちに待ったプール開きだ。学校中の生徒が水泳の授業を心待ちにしている!
だというのに、体育の先生ときたらとんでもないことを言いだした。
「うっかり他の学年と授業が被ってしまった。ごめんなさい! 水泳の授業は中止にして全員自習ってことで!」
もちろんクラス中の生徒は絶叫に近い大ブーイングで猛抗議する。先生は申し訳無さそうな顔をしながら同学年の別クラスにも水泳中止のお知らせに向かった。間もなく隣の教室からも似たような絶叫が湧き起こる。
「あーあ、残念。ま、自習になっただけよしとしますか」
亜希は大してショックなわけでもないようだ。反対に私は水泳の授業が潰れてしまったことで一つの大きな問題を抱えていた。
制服の下、水着なんですけど……。
着替える手間を省きたくて家を出る前から着てきたのが裏目に出るなんて、なんてこった。今日は一番最初の授業が水泳の予定だったから好都合だったのに。
次の休み時間にトイレにでも行って着替えようかな。だけどプールバッグを教室から持ちだしたりしたら服の下に水着を着ていることがばれてしまうかもしれない。それはとんでもなく恥ずかしい!
暑いけど帰るまで我慢することにする。これに凝りて、もう横着な真似はしないようにしよう……。
「キィ、水着着てるでしょ」
肩がびくっと飛び跳ねる。私が驚愕のあまり目を見開いていると、亜希はくすっと笑ってからひそひそと教えてくれた。
「背中にスク水の紺色がちょっと浮き出てるよ。よーっく見ないと分からないけど」
「そんなぁ……」
こんな間抜けが他にいるだろうか。いいや、私ぐらいなものだ。恥ずかしい……。
他の誰にも気づかれたくない。放課後まで決して油断はできない!
出歩く時も給食の配膳で並ぶ時も亜希に背中をガードしてもらい、なんとか放課後まで持ちこたえられた。
「亜希、私の背中から離れないでよ!」
「キィは気にし過ぎだって。誰も何とも思わないよ」
そんなことない。恥ずかしいし。
ホームルームが終わるとすぐに更衣室の裏へと向かう。活動を始めた水泳部員に見つからないよう慎重になりながら到着すると、私は早速制服を脱ぎ捨てた。
ようやく着替えることができるんだ。とっとと水着との因縁を断ち切らせてもらおう。
「水着に靴下って斬新なファッションね」
亜希は私の全身を舐め回すように観察してくる。
「ちょっと、着替えるんだから見ないでよ」
私の言葉を無視して、亜希は強引に私の腕を掴むとぐいっと背中に回させた。
「ねえ、亜希……?」
「まだ着替えないで。水着のキィはレアだから」
いつの間にか手に持っていた縄でするすると私を縛ってしまう。まったくもう、亜希ってばそればっかりなんだから。
「でーきた。痛くない?」
「うん。平気」
衣替えで薄着するようになってからは今まで以上に気を遣ってくれる。縄の痕が残らないようにしてくれるのは嬉しいけど、ぎゅっと締めつけられる感覚が恋しくなる。
一度でいいから、痛くなるほど締めつけられてみたい。亜希は絶対に駄目って言うけど……。
「キィの水着、ちょっと小さくない?」
「えっ」
あんまり気にしてなかったけど、言われてみると少しぴっちりしてるかもしれない。
「小学校で使ってたのそのまま着てるから」
「ふーん」
腰や脇腹をぺたぺた触られる。何してんのよ。
「身体のラインが綺麗にしっかり見えてるよ。まるで裸みたいな格好」
またそういう意地悪なことを言う。せっかく意識してなかったのに、突き刺さる亜希の視線がすごく気になり始めた。
「裸は言い過ぎかな。うーん、そうね。こんな薄い布しか着けてないんだから、下着姿ってところね」
さっきよりもいやらしい表現だと思うのは気のせいだろうか。
亜希の手が私の太ももを這ってきた。陶芸の職人が壺を作るように繊細でなめらかな動きで脚を撫でられる。ぞわぞわっとした感覚が全身に走った。
「すべすべしててもちもちしてる。美味しそう」
「なに言ってんのよ……」
「それ!」
まるでタックルするかのように両足へ抱きつかれる。倒れないようにバランスを保っていると、気づいた時には亜希が私の脚に頬ずりしていた。
「はぁ、はぁ」
こんな気持ち悪い子でも私の友達なんだと思うと不思議な気持ちになる。
「この太もも、縛りたいなぁ……そろそろ新しい縄でも買おっかな……」
「もう、着替えるから一旦解いてよ」
「あとちょっとだけこのままでいさせて」
亜希は家でもこんな感じでぬいぐるみを抱きしめ続けているのかな。ほつれまくりになっているであろうぬいぐるみ達に同情する。
もう水着姿のまま縛らせないようにしよう。脚にばっかりまとわりついて大変だからね。




