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1.親友の告白

※ガールズラブの描写はありませんが、ほのかに百合要素が含まれております。苦手な方は了承した上で読んでいただくか、読まないことをおすすめいたします。

※ソフトなSMプレイがテーマですが、性的描写は一切ありません。

 ほんの少し、ほんの少しでいいから、ドキドキするようなことが起こらないかな。

 中学生として制服に袖を通すようになってから早くも一ヶ月が過ぎた。新生活が始まってまだ一ヶ月だというのに、私はじわじわと退屈を感じ始めていた。

 終わってしまったゴールデンウィークを懐かしみ、教室の窓から青空を眺める。何でもない日常は平和でのんびりできるからいいのだけど、すぐに飽きてしまう。

 背中を何かにつつかれた。

「ね、キィ。あんたは好きな子っているの? どいつが好きなの?」

 下校時刻が迫っているためにそわそわした雰囲気の中で、ホームルーム中であるにも関わらず私――キィっていうのはニックネームね――に話を振ってくる。

 担任教師に気付かれないように、顔を少しだけ横に向け、色恋話に興味津々の彼女に答えた。

「好きな子はいないし、どの子も好きじゃないよ」

「ふーん、へー。じゃあ私のことも好きじゃないんだー。友達だと思ってたのにー」

「そういうこと言ってるんじゃないでしょっ。亜希のばか」

「冗談だって。じょーだん。拗ねないで」

 後ろの席の女の子、亜希は中学校で新しくできた友達だ。

「よしよし、いい子いい子」

「もう」

 亜希は私の頭を撫でると、髪の毛の中に指を絡めてくる。

 いつものパターンだった。私をからかって、怒らせて、なだめるという名目で髪の毛を触ってくる。亜希が言うには「ふわふわしたものが好き」らしく、私の髪質はズバリ亜希の好みにはまってしまったようなのだ。

 別に迷惑ってわけじゃないし、髪を気に入られるのはむしろ嬉しいことだけど、同級生に頭をなでなでされるのはちょっとだけ恥ずかしい。頭を軽く振って「いい加減にしなさい」と合図を送っても通じることはなく、先生の号令がホームルームを終わらせるまでの間、私はずっと亜希の人形にされていた。



 帰ろうにもホームルームが終わって間もない内は混雑していて、とてもじゃないけど廊下へ出る気にはなれない。もう少し人が少なくなるまで、いつものように亜希とお喋りして時間を潰す。

「さっきは何だったの。いきなり好きな子がどうとか」

「ちょっとね。私らもそろそろ秘密の話とかし合ってもいいんじゃないかなーって思って」

「……ふーん」

 秘密の話。魅力的なフレーズに、私は一瞬にして心を奪われた。

 出会って一ヶ月くらいだけど、私たちは短い間にとても仲良くなれたと思う。週末もほとんど一緒に遊んでるし、ゴールデンウィークにはお泊り会だってやった。

 照れくさいけど、親友だって思ってる。

 だから知りたい。亜希がどんな秘密を持っているのか。教えてくれるのなら聞かせてほしい。

「亜希には好きな子とかいるわけ?」

「んー、どうでしょうっ?」

「何よそれー」

 こんなこと失礼だから言えないけど、恋する亜希なんて想像できない。むしろ男子連中のことは眼中になくて、趣味のぬいぐるみ集めに夢中なのが亜希なのだ。

「……キィ。私の秘密、教えてあげよっか」

「え?」

 亜希は少しだけ顔を赤くしていた。亜希ってこんな恥じらった表情するんだと驚いた。

「キィだから教えるんだよ」

 私たちはついこないだまで小学生だった。誰それが好きだなんて話してしまえば、言い振らされることはなくても毎日からかいのネタにされていただろう。

「……聞きたい。教えて」

 だけど今は中学生。からかうことも馬鹿にすることもない。真剣に話して、真剣に聞く。前まではそんな簡単なこともできなかったけど、今は違うんだ。

「キィ以外の子には絶対聞かれたくないから、場所変えよ。誰も来ない場所があるんだ」



 プール開きにはまだまだ遠い。にも関わらず、亜希が私の手首を引っ張って連れて来た場所はプール用更衣室の裏だった。

「ここ、本当に誰も来ないから」

 草が伸び放題でまるで手入れされていない。更衣室の壁と塀に挟まれて誰の目も届かないこの空間は隠れ場所としては確かに最適だ。

 亜希は誰も来ないこの場所で、人の目を気にせずめいっぱい内緒話をするつもりなのだ。なんだか気合いが入り過ぎな気もするけど。

「それで、亜希の好きな子って誰なのよ」

「え?」

 亜希はぽかん、と言った具合に目を丸くして首を傾げた。

「あっ、違う違う。私の秘密っていうのは好きな子とかじゃないの。キィってば早とちりなんだから」

 私の頭をぽんぽんと叩きながらけらけら笑う。

「キィってほんと、ふわふわしてるよね。髪の毛も、キィ自身も。天然?」

「自分ではしっかり者のつもりなんだけど」

「キィがしっかり者なんて、ないない。あはは」

 ぽんぽんと叩く手が次第に私の髪の毛を絡めとっていく。

 背丈も同じくらいなのに、亜希からは子供扱いされてばかり。だけど人前ではないせいか、恥ずかしいと思うどころかちょっとだけ嬉しく思ってしまった。

「……それでね、キィ。私の秘密なんだけど」

 本題に入る。亜希は私の目を見つめながら、不安そうな表情を浮かべていた。

 なんだろう。今日は亜希の珍しい表情ばかり見ている気がする。

「この秘密を聞いたら、ひょっとしたら幻滅するかもしれない。私のこと、気持ち悪いって思うようになるかもしれない。私の秘密はそういうものなの」

 幻滅なんて、気持ち悪いだなんて思うわけない。そう言い返そうとする前に、亜希は立て続けに言葉を並べた。

「私が気持ち悪い秘密を持ってても、キィは、私の友達でいてくれる……?」

 決まってる。

「そんなの当たり前っ!」

 亜希さえ良ければ、私はいつまでだって友達でいるつもりだから。

「ありがと……」

 不安に染まっていた表情が次第に明るくなっていく。

「それじゃ、今から話すね! ちょっと待ってて」

 早くも心を切り替えた亜希は茂みへ駆け寄っていき、そこから大きな鞄を取り出した。

「見つかったらやばいから、早朝に隠しておいたんだ」

 言いながら鞄のジッパーを開けていく。その中に亜希の秘密が隠されているようだ。

 何が出てくるのだろう。ひょっとしてエッチな本でも集めているのだろうか。ちょっとドキドキする。

「これを使って、その……キィを、ね」

 ついに晒される亜希の秘密。

「後ろ手にして、動けないようにしたいんだ。ぎっちぎちに」

 丁寧に束ねられた黄土色のそれは、ドラマなんかでたまに見かけるものの、直接見るのは初めてだ。

「キィの身体、縛らせて」

 その手に握られていたのは、一束の縄だった。

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