叶え屋、仲を取り持つ(2)
3ヶ月ぶりなので少し書き方が変わってるかもしれません。
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「ああもーう!むかつく!」
叶え屋にお願いをしてから一週間が過ぎた日の昼休み。私―三木谷 秋穂は教室で頭を抱えていた。
「どうしたのアイちゃん、そんな大声あげちゃって。もしかしてイライラしてる~?」
心配するような台詞をかけてきたのは私の向かいに座っているカンちゃん―公閂であった。台詞とは裏腹に、カンちゃんは目の前にあるお昼ごはんを口に頬張りながら笑顔を浮かべている。
「そりゃ、イライラもするわよ。カンちゃんに教えてもらったあの叶え屋、ひっきりなしに情報を送ってくるのよ?しかもどうでもいいようなことばっかり!」
そう言いながら私はスマートフォンのロックを解除し、メッセージ画面を彼女に見せつける。そこには同じ相手からの一方的な通知がズラリと並んでいた。
「うわー、ほぼ2分おきに連絡してきてるじゃん」
カンちゃんは口元を覆いながらそう答えた。と同時に、スマートフォンが細かく振動した。バイブレーション機能だ。ということはつまり・・・。
「あ、また新しいやつきた」
私はうんざりとしながらスマートフォンを確認する。
「もう少し頻度をしてくれないかなー、こんなにどんどん出されちゃったら、見る気失っちゃうよー」
そりゃ大変だ。と言いながらもカンちゃんは箸の動きを止めない。エビの天ぷらを尻尾から食べ始めた。
「ふぉれはあ、うぉえふぁいひへうぃはは?」
「え?なんて言ったの?一旦食べきってから言って」
そう言うとカンちゃんは口から出ていた部分の天ぷらを口に入れ込んだかと思ったら口の中にあったものをまるごと飲み込んでしまった。そんな一気に食べてしまって、大丈夫なのだろうか・・・。
ぷはっ、と息を吐きだすとカンちゃんは箸を私に向けながら答えた。
「それじゃあ、お願いしてみたら?って言ったの。その人ってどんなお願いも叶えてくれるんでしょ?」
「で、でしょって・・・これカンちゃんが教えてくれたことでしょ?」
「あはははー。そりゃそうなんだけどさー、ぶっちゃけ本当に叶え屋なんてあるなんて思ってなかったからね」
見つけたのはアイちゃんなんだし。と付け加えるとカンちゃんはバックの中から水筒を取り出すとゴクゴクと飲み始めた。やはり先程の行為はけっこう危険なものだったようだ。
しかし、そうか。もう一回お願いすればいいのか。お願いというより、迷惑行為に対する請求のような気もするが・・・。
私はメッセージ画面を再び開き、返信ボタンを押す。
タイトルは無視して、本文を短くまとめる。
『次からは重要な情報だけ送ってきてください。』
送信。これでどうだろうか・・・。
返事は一分もたたずにきた。
『了解いたしました。これからは重要な情報だけをこちらで吟味させていただきます。この他にももしなにかご要望がございましたら何なりと申し付けください。同じ依頼の範疇であれば叶えさせていただきます。それでは』
私はふぅ、と息を漏らした。
「あ、うまくいったみたいだねー。」
カンちゃんはニヤニヤしながら私を見つめていた。気付いたらカンちゃんが使っていたランチボックスがなくなっていた。
「なくなっていたって、私目の前で片付けしてたでしょ?もしかして気付いてなかったの?」
「そりゃまあ、メールに集中してたし・・・」
アイちゃんってさ。と、私の弁明を無理やり分断する形でカンちゃんは話し始めた。
「アイちゃんってさ、結構集中力あるよねー。集中力っていうか、一つのことに対する執念っていうか」
そうなのかな・・・?自分では気付かなかったし、親や友達からもそんなこと一度も言われたことなかった。
「そりゃそうだよー。なんたって、私が噂程度にきいた『叶え屋』の話を信じて、すぐに街中探しまわったんだからさ」
「さ、探しまわった・・・?」
私はカンちゃんの言葉を鵜呑みにする事はできなかった。私の中に探しまわったという記憶はない。私はまっすぐ『叶え屋』に向かっていたはずだ。商店街を抜けて、裏路地にはいって、道順は今でも覚えている。ここから最短の手段で『叶え屋』へ向かっていたはずだ。
「あー、アイちゃんの中ではそうやって処理されちゃってるのかー」
カンちゃんは私の考えを見透かしたかのようにそう言うといつの間にか出していたヘアゴムを手元で弄んでいた。
「うん、じゃあいいや。その話これでおしまいー」
「え?」おしまいって・・・、なにか落ち着かない。もしかしてカンちゃんは私の知らない何かを知っているのではないだろうか。「ねえ、探しまわったって・・・」
「それでさ、結果はどうだったの?」
「け、結果って・・・?」
「そりゃもう。彼氏さん、阿知須圭さんは本当に浮気なんてことをしてたのって話しよ?」
カンちゃんはすでに、それまでの話に関する事を話す気はなさそうであった。私の心のなかで何かが折れる音がした。しかたない。その話はまたいつかしてくれるだろう。私はカンちゃんの質問にこう返した。
「ええ、やっぱり彼、浮気してた。」
■ ■
『小郡雪凪』それが彼、阿知須くんが浮気をしている相手の名前だ。彼女とは半年ほど前から付き合い始めたそうだ。私と付き合い始めたのがそれより数ヶ月前なので、付き合ってすぐに新しい女に近づいていたということだ。とんだ男だと彼をすぐに呼んで散々怒鳴り散らしてやろうとも考えたのだが、しかし彼が私に対して少し引くようになったのはつい数週間前のことであった。ということはそれまで相手にされなかったのは小郡さんの方なのである。だから、といっても彼に問題があるのであり、小郡さんは何ら関係ないのだが、彼女の寂しそうな姿をつい想像してしまい怒りがすぼんでしまうのだ。
それよりも私は、小郡さんの方に興味がいってしまった。彼女は現在20歳。一浪しながらも阿知須くんと同じ大学、同じ学科にに入学。そこの学科単位でのオリエンテーション企画の時に出会って、付き合い始めたみたい。だけど彼女は、国家資格を取るためにはいってしばらくは学業に専念していたそう。その資格を一年のうちに取るのが彼女の目標だったそうで、その間は彼も彼女とは疎遠になっていったみたい。私とよく遊びに出かけていたのは彼女に会えない反動もあったのかもしれないと思うと、癪だけれど、それでも彼女には嫉妬なんて感情は湧き上がらない。むしろ恋愛に縛られずに一生懸命励む彼女の姿には感動さえ覚えるわ。
そしてつい先月、彼女は見事資格を習得して、第一目標を達成することができた。阿知須くんはそれをお祝いするのと同時に、今まで稼げなかった分のポイントを必死に集めるために、つい私から離れて彼女一辺倒になってしまったというのが数週間前、つまり浮気発覚の兆しである。
■ ■
「・・・というわけなの」
私の話をカンちゃんは静かに聴いていた。そして頭のなかで何かを整理しているかのようだった、目を閉じながら頭を少し捻らせている。
「・・・なるほどね。そういうことだったの」
カンちゃんはそう言うと目を開き、こちらを見つめながらニヤニヤとした表情に戻った。うう、なんだか見透かされている気分になる。
「たいへんだねーこれからは。もっと彼氏に好き好きアピールでもするのかしら?」
と言いながら彼女はヘアゴムを伸ばしたり戻したりして遊んでいる。
「・・・いえ、このままにしておこうと思うの」
「ほう?そりゃどうして」
そう言いながらもカンちゃんはヘアゴム遊びを止めない。両手の親指と小指にヘアゴムをかけて長方形を作っていた。
「まあ、これまでは私に注いでいた愛情が、私が気に入ってしまった人にも均等に分けられる事になっただけの話であって、だけどこのままでも彼なら、阿知須くんなら私たち二人を愛し続けてくれるだろう。そんな気がするの」
「歪んだ信頼ですこと」
カンちゃんはヘアゴムをかけていた指を同時に外した。途端、ヘアゴムは両手の間に収縮され、パンという小さな音を出しながら机の上にポトリと落ちた。
「ん?今なんか言った?」
「いやぁ別にー。そんなことよりさ、ちゃんとしなくちゃいけないよ」
「?ちゃんとってどういうこと?」
「このままの関係でいたいんだったら、アイちゃんはこれ以上深く関わるべきじゃないってこと」
無闇に情報を手にしすぎても余るだけだよ?そう言いながらカンちゃんはヘアゴムを小指、親指、人差し指の先にかけて、銃口を私に向けるかのように、指で銃の構えをしてみせた。
「多すぎる情報に惑わされて、復讐なんて考えちゃダメだよ」
と言いながらカンちゃんはヘアゴムを私に飛ばしてきた。そこまで速くなかったのでラクラクとつかむことはできた。右手でひょいと掴んで私は答えた。
「大丈夫だよ、きっと」
不意に、机が細かく振動した。ドゥルルル ドゥルルルという人工音が響いてくる。原因は私のスマートフォンだった。バイブレーション機能が働いて本体がブルブルと振動している。
「もしかして、また叶え屋からの情報?まだ連絡してから30分も経ってないじゃん」
私は震えるスマートフォンを掴みあげてながら言う。
「それでも全然、いつもよりはありがたいわ・・・」
と言いながら画面内に表示された文章は一文だけだった。
『重要情報入手。』
その下には動画プレイヤーが起動してあった。どうやら動画ファイルを添付して送ってきたらしい。私はスマートフォンを机の上に再び置いて、その画面をカンちゃんに見せた。
「へぇ、映像なんかも撮って来てくれるんだ叶え屋って」
「いや、そんなことは今まで一度もなかったんだけど・・・」
と言ってる間に受信が完了したようだ。動画プレイヤーに再生ボタンが表示される。私はそのボタンをプッシュする。
すると映像が流れ始めた。動画時間は30秒と短い。
映像には彼氏・阿知須圭。そして浮気相手・小郡雪凪が向かい合って座っていた。それ以外に人影は見当たらない。どうやらここは個人宅のようだ。レイアウトから鑑みるに、小郡さんの部屋なのだろう。
10秒ほど沈黙が続く。先に口を開いたのは小郡さんであった。
「あ、あのねっ。びっくりしないでね・・・?」
かなり動揺しているのか、小郡さんはおぼつかない様子で話し始めた。
「えっとね・・・その・・・」
動画終了まで5秒を切っていた。一体何を話したいのだろうか。
「私達の・・・子どもができたみたいなの・・・」
動画はそこで終了した。そして私の意識もその時から消えることになる。
ということで第2話でした。
叶え屋から送られてくるメッセージをどう表現したものか考えるうちに色々めんどくさくなって3ヶ月も延びてしまいました。本当に申し訳ないです。
最近は『万能鑑定士Q』シリーズにハマっておりまして。楽しく読ませてもらっています。
なんで最近読んでいる本を紹介したかというと、自分は結構影響されやすいタイプなので、ストーリーは同じだけれど表現方法が変わってたりすることが多々ありまして。自身では気付いてないのですがもしかしたら今回もその影響が出ているのではないかと不安になったので一応参考までに書いておきました。
事件簿Ⅻ巻の小笠原さんの「almost」のくだりはアンジャッシュが面白いというよりも、なんだか恥ずかしさのほうが出てきてしまいました。ああ何やってるんだ恥ずかしい。小笠原さんと自分を少し重ね合わせているのかもしれませんね。自分は彼ほどイケメンではないのですが・・・。
というわけで次で最終回です。
また3ヶ月後に投稿になってるかも・・・・?そうならないように善処します。それでは。