表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/31

第三十一話

「ゴホッ、ゴホッ……」

「なんだ、風邪か? 珍しいな」


怪我をしてから体が鈍ったのか、久しぶりに風邪を引いてしまった。


「風邪薬あっただろ? 飲んだのか?」


ガルドが、少しだけ眉を寄せて聞いてくる。


「あー……そうだな」


──怪我や病気をしたら、薬を飲んで、たくさん寝るとすぐ治るわ ──


不意に、柔らかな声が頭を掠めた。

次の瞬間、胸の奥がひやりと冷える。

……違う。

薬は、飲んじゃいけない。

理由はわからない。

ただ、そうしなければならないと、身体が拒んでいた。


「レオン? 」


ガルドの声で我に返る。


「あ、いや……」

「そんなに体調が悪いなら、持ってきてやるぞ?」


一瞬、喉まで「頼む」と言いかけて ──飲み込んだ。


「……薬は、いい」

「早めに飲んだ方がいいぞ」

「まぁ……そのうち、な」


自分でも曖昧な返事だと思う。

だが、それ以上踏み込めなかった。

ガルドは少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は何も言わず、「無理するな」とだけ残して去っていった。

一人になると、胸の奥に残った違和感が、じわりと広がる。

俺は、どうして薬を避けた?

誰かに飲まされたのか?

考えようとした瞬間、頭の奥が鈍く痛み、それ以上、思考を進めることができなかった。


そして見事に風邪は悪化し、熱が出た俺は、長い夢を見た ──


「どうした? そんな顔して」


話があると、俺の部屋を訪ねてきたのはバイルだった。

立ったまま、視線を泳がせている。

いつもの落ち着きが、まるでない。


「……自分を責めてるのか?」


なかなか切り出そうとしない様子に、そう声をかけると、バイルの肩がびくりと跳ねた。


「っ……すみませんでしたっ!!」


堰を切ったように、バイルは頭を下げた。


「俺のせいで、こんなことに……! 頭も俺に任せてくれたのに……っ」

「……」

「俺がもっと早く走らせていたら……あの人だって、死なずに済んだかもしれないのに……っ!!」


必死に言葉を紡ぎながら、拳を強く握りしめている。

震えているのは、声だけじゃない。


「……本当に、すみませんでした……」


お前のせいじゃない。

そう言ってやるのは、簡単だ。

だが、俯いたまま、自分を罰するように言葉を吐き出すバイルに、今、必要なのはそれじゃない。


「……お前は、精霊師を知ってるか?」


あまりに脈絡のない問いに、頭を上げたバイル。


「精霊師……って、昔話とかで聞く、あの……?」


片眉を上げ、何故今その話をするのか測りかねている様子だ。


「精霊師は実在する。……普通なら目に見えない者の声を聞き、普通じゃ考えられないことを成す存在だ」

「……はぁ……?」

「だからこそ、その力を悪用されないために、精霊師一族には“守り人”がつく。備え、隠し、守るための人間だ」


俺は一度息を吐き、真正面からバイルを見る。


「精霊師の特徴はいくつかあるが、最も有名で、そして確実なものが一つある。……宝石眼。その名の通り、宝石のような光を宿す瞳だ」

「……まさか……」


バイルは、はっきりと目を見開いた。


「あの人は最期の瞬間まで、彼女のことを心配していた」

「……はい」

「家族としての情と、守り人としての責任。その両方があったんだろうな」


俺の言葉に、バイルは再び、手を強く握りしめた。


「……お前が自分のせいだと思っているなら、お前に任せた俺も同罪だ」

「い、いや、それは……」

「だが……いや、だからこそだ」


一度言葉を切り、続ける。


「俺は、あの人の意思を受け継がなければならない。俺の全てを賭けてでも、守り抜く」

「頭……」

「お前は、どうする?」


一瞬の沈黙。

バイルは目を閉じ ──そして、再び開いた。

そこに、もう迷いはなかった。


「俺も、やります。やらせてください。それが、俺なりのあの人への罪滅ぼしです」


その目を見て、こいつなら任せられる ──そう、はっきりと思った。


「……宝石眼は、透明に近いほど精霊との親和が高い。つまり、それだけ力を持つ精霊師ということだ」

「……じゃあ、あの目は……」

「ああ。あの人も、それまで見たことがないと言っていた。普通は契約して初めて精霊と交流できるが……彼女は、すでにできている」

「……想像以上、ってことですね」


ゆっくりと息を吸い、バイルを真正面から見据える。


「場合によっては、本当に命を賭けてもらうことになる。……止めるなら、今だ」


俺の言葉に、バイルは一つ、深く息を吐いた。


「俺も、頭から見たらまだまだなんですね。……でも、その程度で怯むようなら最初から口にしてません」

「……そう言ってもらえると、助かる」


こうして俺は、バイルと二人で✕✕✕を守ると決めた。

バイルは年は下だが、✕✕✕は兄様のようだと言っていた。

いつの間にかすっかり打ち解けていて ──それを見て、俺は少しだけ、胸の奥がざわついたのを覚えている。


──ゆっくりと、目を開ける。

まだ靄のかかった頭に手を当てた。

……そうだ。

バイルに、何かを任せた気がする。

とても、大事な何かを。

それを放り投げて、あいつが抜けるとは思えない。

そんな無責任な男じゃなかったはずだ。

そう考えながら、俺はもう一度、目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ