第三十話
「あー……なんかまだスッキリしねぇ……」
そう言うと二日酔いのマックスは、食堂のテーブルに突っ伏した。
「いくら区切りが着いたとは言え、飲み過ぎだ」
「ほんの出来心、って奴っすよ」
──薬を作らないとだもの ──
──二日酔いに効く薬 ──
誰かの声が蘇る。
「二日酔いに効く薬があっただろう? 飲めばいいじゃないか」
そのまま口にした俺に、マックスはガバッと顔を上げて俺を見てきた。
「なんだよ?」
マックスは何度か口を開け閉めした後で、キツく口を結んだ。
「どうした?」
「……もうねぇんすよ、その薬は!」
そう言うと、「もう一度寝てくる」と吐き捨てるように告げ、マックスは部屋に戻って行った。
……薬がない?
常備薬はあるはずだし、そもそも作ってくれたはずだ。
「……作ってくれた……?」
自分で言っておきながら、その表現に引っ掛かりを覚えた。
誰が?
薬を作れるような奴いたか?
──君は本当に薬師だったんだね。手際が良い──
不意に蘇る自分の言葉。
だが……いつ、誰に言ったのかが、どうしても思い出せずにいた。
その日の夜 ──
それまでとは違い、誰かの泣き声は聞こえてこなかった。
場所は、どこかの薬屋。
確か……買い替えた傷薬の効きが悪いからと言って、ここへ来たんだ。
「待ってたんだよ。あんたのところの薬が一番人気で、売り切れちまって」
「すみません。今日は多めに持ってきました」
「助かるわー!」
「……✕✕✕?」
目深にフードを被り、顔を隠しているが、その声にははっきりと聞き覚えがあった。
「レオ!」
そうだ。
俺を「レオ」と呼ぶのは、✕✕✕しかいない。
「君が薬を卸してるの?」
「そう。高値で買ってくれるから」
「この子の腕は確かだからね」
今思えば、一目惚れだったんだろう。
出逢った時から、青みがかった黒髪の隙間から覗く瞳が、これまで見たどんな色よりも綺麗だと思った。
「なら、余った分は俺の気持ちだ」
俺は自分の立場を理解している。
家を空けることは多く、危険も多い。
特定の女を作ったとしても、言えないことが多く、長く続かないのは目に見えている。
だから程よく、つかず離れずの関係の人間がいればいい。
──そう、思っていたんだが。
「知ってる? 偶然に三度出逢ったら、それはもう運命だ、って話」
自分でも馬鹿なことを言ったと思った。
だが、顔を赤らめてむきになるその姿に、ひどく満足してしまった。
「……朝か……」
久しぶりに、心地よい眠りについた気がする。
夢を見ていたような気もするが、はっきりとは覚えていない。
ただ ──胸の奥が温かくなるような、ずっと見ていたくなるような ──そんな夢だった、気がした。
「……腕のいい薬師を見つけないとな……」
常備薬も揃えなければならない。
腕のいい薬師なら……今日のような、心地よい眠りにつける薬を、知っているかもしれない。
そう思いながら、ゆっくりと体を起こした。




