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精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第二章

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第三十話

「あー……なんかまだスッキリしねぇ……」


そう言うと二日酔いのマックスは、食堂のテーブルに突っ伏した。


「いくら区切りが着いたとは言え、飲み過ぎだ」

「ほんの出来心、って奴っすよ」


──薬を作らないとだもの ──

──二日酔いに効く薬 ──


誰かの声が蘇る。


「二日酔いに効く薬があっただろう? 飲めばいいじゃないか」


そのまま口にした俺に、マックスはガバッと顔を上げて俺を見てきた。


「なんだよ?」


マックスは何度か口を開け閉めした後で、キツく口を結んだ。


「どうした?」

「……もうねぇんすよ、その薬は!」


そう言うと、「もう一度寝てくる」と吐き捨てるように告げ、マックスは部屋に戻って行った。

……薬がない?

常備薬はあるはずだし、そもそも作ってくれたはずだ。


「……作ってくれた……?」


自分で言っておきながら、その表現に引っ掛かりを覚えた。

誰が?

薬を作れるような奴いたか?


──君は本当に薬師だったんだね。手際が良い──


不意に蘇る自分の言葉。

だが……いつ、誰に言ったのかが、どうしても思い出せずにいた。


その日の夜 ──


それまでとは違い、誰かの泣き声は聞こえてこなかった。

場所は、どこかの薬屋。

確か……買い替えた傷薬の効きが悪いからと言って、ここへ来たんだ。


「待ってたんだよ。あんたのところの薬が一番人気で、売り切れちまって」

「すみません。今日は多めに持ってきました」

「助かるわー!」

「……✕✕✕?」


目深にフードを被り、顔を隠しているが、その声にははっきりと聞き覚えがあった。


「レオ!」


そうだ。

俺を「レオ」と呼ぶのは、✕✕✕しかいない。


「君が薬を卸してるの?」

「そう。高値で買ってくれるから」

「この子の腕は確かだからね」


今思えば、一目惚れだったんだろう。

出逢った時から、青みがかった黒髪の隙間から覗く瞳が、これまで見たどんな色よりも綺麗だと思った。


「なら、余った分は俺の気持ちだ」


俺は自分の立場を理解している。

家を空けることは多く、危険も多い。

特定の女を作ったとしても、言えないことが多く、長く続かないのは目に見えている。

だから程よく、つかず離れずの関係の人間がいればいい。

──そう、思っていたんだが。


「知ってる? 偶然に三度出逢ったら、それはもう運命だ、って話」


自分でも馬鹿なことを言ったと思った。

だが、顔を赤らめてむきになるその姿に、ひどく満足してしまった。


「……朝か……」


久しぶりに、心地よい眠りについた気がする。

夢を見ていたような気もするが、はっきりとは覚えていない。

ただ ──胸の奥が温かくなるような、ずっと見ていたくなるような ──そんな夢だった、気がした。


「……腕のいい薬師を見つけないとな……」


常備薬も揃えなければならない。

腕のいい薬師なら……今日のような、心地よい眠りにつける薬を、知っているかもしれない。

そう思いながら、ゆっくりと体を起こした。

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