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精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第二章

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第二十八話

「ここしばらく、お前から避けられてるのかと思ってたよ」


久しぶりにラシャと時間が合った俺は、二人で飯を食いに行くことにした。


「……私がレオンを避ける意味がないでしょ」

「それもそうか」


今日はラシャが行ってみたいと言った、中央広場を少し行った先にある店に来ている。

運ばれてきた料理は、匂いからして香辛料が効いてそうな物だった。


──何これ!? すごく辛いっ! ──


不意に、まったく覚えのない言葉が脳裏をかすめた。


「……お前、それ、食べれるのか?」


思わず口を開いていた。


「え? なんで食べれないの?」

「いや、辛いんじゃないかと思って……」

「はぁ? これくらい大丈夫よ。……まさか私に食べさせない気?」


そう言って、ラシャは出された物を口にした。

昔からずっと近くにいたからか、俺とラシャは味の好みが似ている。

それはわかってはいたが……。

……ならこれは、誰との会話だ?


「レオン、頭痛いの?」


無意識にこめかみを抑えていた俺に、ラシャが聞いてくる。


「いや……。最近、記憶障害というか、記憶の混乱というかが起こって、頭痛がするんだよ」


何気なしに言った言葉に、ラシャは食べる手を止めた。


「……怪我した時の記憶、戻ってきそうなの?」


目線を落としたまま、ラシャは言う。


「うーん……。どうだろうなぁ……。話を聞く限り、ただの積荷の落下らしいし、俺自身大して思い出す必要がないと思ってるからな」


怪我どうのの記憶よりも、まず、あの部屋の住人の記憶がまるごと抜け落ちていることの方が問題だ。

何故、女を入れたのか。

何故、隣の部屋にしたのか。

そして何故、女は消えたのか……。


「っ……」


そこまで考えると、やはり頭痛が起こる。

ならこの頭痛の原因は ──

その女に触れようとしたから……とも、取れなくもない。


「無理に思い出す必要、ないわよ」


そういうラシャはどこか、元気がないように思えた。


「こんなことで無理なんてしないさ」


思い出さなかったとしても、日常になんの支障もない。

だから無理に思い出す必要は、ない……の、だが。

……そう思っている自分と、思い出さなければならないと思う自分がせめぎ合っているような不思議な感覚だ。


その日の夜 ──


──女が泣いている。

いや、泣き崩れている。

その目の前には、横たわる ──老人。


「……ごめんなさいっ……」


その老人の手を取り、人目も憚らず彼女は泣いている。


「……私のっ、せいで……」


そう耳に届いた瞬間、違う、と思った。

これは ──俺のせいだ。

気づくのが遅れた、俺のせいだ。

✕✕✕は何も悪くない。


「ずっと、守ってくれたのに……」


そう、この人は、✕✕✕を人目につかないように、ずっと守ってきた。

最期の瞬間まで、✕✕✕の心配をしていた。

こんな形で亡くなっていい人じゃない。


「私を、一人にしないでぇ……」


俺の判断ミスで、こうなってしまった。

そのせいで、彼女の世界を壊してしまった。

守れなかった人の思いを受け継がなければいけない。

彼女の世界を、取り戻さなくてはならない。

彼女を一人にしない。

この人の代わりに、必ず俺が守る。

例え✕✕✕を閉じ込めてでも、彼女を俺が守らなければ ──


「……はっ……」


目を開けると、何事もなかったかのように、朝の日差しがカーテンの隙間から差し込んでいた。


「……泣いているのか?」


目尻にいつもとは違う感触があると思い、触れてみると指先が、はっきりと濡れていた。

……俺は夢を見て泣いたのか?

いつもの夢とは、違うような気がするが、思い出せない。

でもいつもと同じで、泣いてる子がいた……気がする。

酷く悲しそうに、泣きながら何か言っていたような気がするが……。


「……元々、夢をはっきりと覚えてるタイプじゃないし、これ以上は無理か……」


あれが誰で、いつのことなのかわからない。

でもあの時に重要な決断をした気がする。

それが何かも思い出せない。


「……そのうち気が狂いそうだ……」


そんなことを呟きながら、何もわからないまま、朝の日差しを部屋に入れた。

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