表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/30

第二十三話

レオの部屋は薄暗く、明かりとりのためにカーテンが半分開いていた。

頭部に包帯を巻かれたまま横たわるレオに、一歩ずつ近づく。

月明かりに照らされているレオは、いつもよりも青白い顔をしている。

その顔に手を伸ばそうとするけど……。


『何も知らないこんな女のために、なんでレオンは身体を張ったのよっ!!』


不意にラシャさんの言葉が蘇ってきて、手を引っ込めた。


『レオンに何かあったら、あんたを一生許さない』


「……言われなくても、わかってるわ……」


『あんたなんか大っ嫌いよ』


「……そんなの、私が一番っ、私を嫌いよっ……!」


じじ様も、ばば様も、……レオも……。

みんな、私のせいで傷ついてしまう。

こんな力さえなかったら。

謝っても、許されない。

私がいなければ、レオはこんなことにはならなかった。

一度思ってしまったことは、取り消しようがなくて……。

……それまで堪えていた涙が、堰を切ったように流れ落ちた。

俯いてスカートを握りしめてる、その手の甲に、フッと何かが触れた。

勢いよく顔をあげると ──


「……泣……かない……で……」


掠れた声を絞り出すようなレオの声。

ソッと私の手の甲に触れた、レオの左手。

薄っすらと目を開けている緑色の瞳と、視線が合った。


「レオッ! 気がついたのね! 大丈夫!?」


思わずベッドの横に膝をついて、顔を覗き込んだ。

どこか朦朧とした目をしながらも、私を捉え、何度かゆっくりと瞬きをした後。


「……怪我、は……?」


力なく私の頬に触れながら、掠れた声を出した。

……どうして、あなたは……。


「大丈夫。どこも怪我してないわ」


こんなになってもまだ、私の心配をしてくれるの?

私の言葉に、微かにレオの口角が上がった気がした。

……こんなに優しい人を、もうこれ以上傷つけてはいけない。

袖で涙を拭って、ベッドに腰を下ろした。


「ねぇ、レオ。薬飲める?」


返事はなく、レオの目が彷徨う。


「ばば様がね、怪我や病気をしたら、薬を飲んでたくさん寝るとすぐ治るわって言ってたの」

「……くすり……?」

「うん。痛み止めと……ぐっすり眠れる薬よ」


レオは少しの間の後で、小さく頷いた。

……レオが気がついてしまったなら、引き止められるかもしれない。

でも、もうここには居られないから……。


「少し苦いけど、我慢してね」


そう言って水を口に含み、レオの顔に近づいた。


初めての口づけは、苦い、薬の味がした。


顔をあげると、緑色の優しい瞳が、私を映していた。


「……あなたのこの瞳、大好きよ」


いつも優しく私を見つめてくる緑色の瞳。

身体を起こして、レオを見ると、少しずつ瞬きが遅くなっているのがわかる。


「ねぇ、レオ」


きっともうすぐ薬が効いて、レオは眠り始めるだろう。


「私、あなたに会えて良かった」


あなたがいてくれたから、あの日、あの瞬間に、私は一人じゃなかった。


「次に目が覚めたら、もう危ないことはなくなってるわ」


いつも私を守ってくれた、……大好きな人。


「だから今はゆっくり休んで。……私ももう行くわ」


そう言って立ち上がった。

瞬間。


「……まっ、て……」

「レオ! まだ起き上がっちゃダメよ!」


レオは身体を起こそうとした。

慌ててレオの身体を横に寝かせる。

レオは、私の右手を掴んだ。


「……い、くな……」


どきりと心臓が跳ねた。

何かを感じたレオは、引き止めようとしている。

でも……。

……もうすぐ、薬が効き始める。

だから私は ──


「ア、シャン……」


レオに掴まれている手とは反対の手で、そっとレオの瞼を覆う。


「……大丈夫。きっと、よく眠れるから」


ほんの数回、起き上がろうとする力が手のひらに伝わった。

それもやがて収まり、私はゆっくりと瞼から手を離した。

レオの寝息が、静かに聞こえてくる。


「……今まで、ありがとう。元気でね……」


そう言って立ち上がった時、右腕に、引っ掛かりを覚えた。

見ると、レオが、私にと昼間買ってくれた腕輪に、指をかけていた。


「……そう、ね」


小さく息を吸い、


「あなたからもらった物は全部、置いていくんだから……これも、置いていかないとね……」


パチン、と小さな音を立てて、腕輪を外す。


「……これも、返すわ……もう、あなたは、私を守らなくていいんだから」


眠るレオの手のひらに、私の腕輪を、そっと乗せた。

そして静かに、レオの部屋のドアを締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ