第十九話
なかなか寝つけないし、眠ってもすぐ目が覚めてしまう。
少し寝不足だ。
今日も朝が来て、いつものようにレオが部屋に来ると思う……けど。
……それも、私の甘えなのかな……。
「おはよう。実は昨日、君に似合いそうなヘアピンを見つけてね。今日はこれを使って ──」
「もう、こういうの、やめにしない?」
レオは、誰にでも優しい。
なのに私が引き止めるから、みんなに優しくなくなった?
なら、それは正さないといけない……。
「もうやめるって、何を?」
レオの声は、怒っていないけど、顔を上げられずにいた。
「だから、こうやって毎朝あなたを部屋に入れることよ。私も自分のことは自分でしなくちゃだし、自分でしようと思うし」
レオの顔を見れないまま、まくし立てるように早口で言った。
レオは短く、ふむ、と小さく唸った。
「……わかった」
自分で言ったことなのに、頷かれたことで胸が痛んだ。
「じ、じゃあ、そういうことだから ──」
「ちょっとごめんね」
「え? きゃあっ!?」
「そういうことだから ──」とドアを閉めようとした瞬間、レオが中に入ってきて、私を軽々と抱き上げた。
バタン、とドアが閉まる音が響く。
そのままテーブルの上に私を座らせ、逃げられないようにとでもいうように、両手を私の足のすぐ横のテーブルについた。
「それで?」
「え?」
「誰に何を言われたの?」
レオは私を真正面に見据えて言う。
「べ、つに、誰にも」
「……ねぇ、アシャン。君は嘘が下手な自覚ある?」
レオはほんの一瞬、少しだけ悲しそうな顔をした。
「誰かに何か言われたから、今の結論になったんだろう?」
「……ち、違うわ」
思わず目を逸らした私を、ただ黙って見つめるレオの視線が刺さる。
「俺に言うつもりはない?」
レオの声が、どこか悲しそうに聞こえる。
「何も言うことなんてないもの」
「……そう」
一言、そう答えた後で、レオは押し黙った。
自分からはどう言ってみようもなく、どうしたらいいのかと考えていた時。
「今日はダメだけど……明日時間作るから、久しぶりに二人で出かけようか」
レオがいつもの優しい声でそう提案してきた。
「明日?」
「本当はこれからすぐにでもが良いんだけど、ちょっとやらなければいけないことが多くてね……。だから明日、一緒に出掛けてくれる?」
そう言われて見上げたレオの顔には、優しさの中にやっぱり、悲しさが滲んでいた。
「それは、うん。大丈夫よ」
「良かった。……じゃあ今日はもう行くけど、せめてこれ使ってくれる?」
手の平の上に載せ、差し出されたヘアピンを受け取る。
瞬間 ──思い切り腕を掴まれ、抱き寄せられた。
「ちょっ、レオ!?」
「ねぇ、アシャン」
何するの、と言う前に、レオが口を開く。
片手で私の腕を掴み、片手で私の頭を抱き締めるように、でも優しく触れていた。
「俺は我慢強い方だと思っていたけど……違うみたいだよ」
「え?」
この鼓動は、私のものだろうか。
それとも、レオのものだろうか……。
「君が俺を信用できないなら、……信用させるまでだ」
そう言って私から体を離していく。
「わ、私は別に信用していないわけじゃないわ!」
慌ててレオの腕を掴むけど……。
レオは、もう悲しい顔をしていなかった。
「わかってるよ。でも君は、俺から離れようとしているだろう?」
「わ、たし、は……」
「つまり今のままじゃ駄目だってこと。ならやり方を変えるだけだ」
口の端だけ上げて、レオは笑った。
「……なんだか楽しそうだわ」
私の言葉に、レオは笑う。
「君が俺をどう評価しているかわからないけど、与えられた情報から色々考え、答えを導き出すのは得意なんだ」
こめかみあたりをトントンと叩きながら言うレオ。
その言葉はやっぱり、私が思い描いていた傭兵とは違う。
レオは傭兵という言葉を使わず、便利屋と言っていたから、それが原因かとは思うけど……。
じゃあ明日と、レオは部屋から出て行った。
レオは、どこか楽しそうに見えた。
じゃあ怒ったわけじゃないってこと?
でも私をテーブルに座らせた時は明らかに空気が変わった気がする。
「やっぱり人の気持ちが一番難しいわ……」
ため息をつきながら、レオが置いていったヘアピンをセットした。




