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第4章「優しさは武器じゃないのに、世界は勝手に争いの火種にする」

直人ちゃんの女の子生活は、まだ三日目。

なのに、世界はもう彼女を“特別”に扱い始めてしまいます。


男子たちの優しさはエスカレートし、

女子の視線はじわじわと刺さり、

文研メンバーとの距離も微妙に揺れ動く。


本人はただいつも通りにしたいだけなのに、

“優しさ”という無自覚な力が、周囲を思わぬ方向へ――。


そんな中、クラスのヒロイン・藤原彩香が

ついに本音をぶつけてくる瞬間が訪れます。


直人ちゃんの心が揺れ始める第4章、どうぞお楽しみください。

◆ 朝 ―― 昨日の“異常な人気”を姉に相談する


 翌朝。

 椅子に座り、姉がブラシで髪を整えてくれている。


「……ねぇ、お姉ちゃん」


「ん? どうしたの直人。髪ひっぱるから顔上げて」


「昨日……ちょっと、色々あって……」


 姉は手を止めず、しかし目だけこちらを向く。


「ふんふん、男子たちが群がって、女子がピリピリして、部活のみんなも混乱して……ってやつ?」


「……なんで分かるの!?」


「そんなの、だいたい予想つくわよ」


 姉は苦笑しながら言う。


「直人は、女子の“無自覚な強さ”を理解してないからね」


「無自覚な……強さ?」


「そう。

 女の子って、何もしなくても“誰に好かれてるか”で立ち位置が決まっちゃうのよ」


「えっ、そんな……僕は別になにも……」


「でも、男子に優しいでしょ?」


「当たり前だよ。それは人として――」


「その“当たり前”が、めちゃくちゃ強いのよ」


 姉は軽くため息。


「男子からすると、優しさ=好意に見える。

 女子からすると、優しさ=賢い武器に見えるの」


「武器……?」


「直人が武器に使ってないのは分かってるよ。

 でもね、あんたの“自然な優しさ”は、女の世界では最強クラスなの」


 むしろ、姉の声は少し誇らしげ。


「女子の世界はね、男の子の視線と、女子同士の距離感で成立してるの。

 そこにあんたみたいな“序列を気にしない天然の美少女”が入ったら……」


「……入ったら?」


「そりゃ、全員が騒ぐに決まってる」


「…………」


 なんだその“理不尽な仕組み”……。


「でも、直人は直人のままでいいからね。

 競争しない、悪口言わない、媚びない。

 そういう子は、最終的に一番強いの」


「強い……のかな……?」


「強いよ。

 だから余計に狙われるけどね」


 姉はアハハと笑っているけど、最後の一言だけ、小さく重い。


(……狙われる……)


「昨日より、今日のほうが大変だと思うよ?

 覚悟しときなさい」


 姉は僕の髪にリボンを付けながら微笑んだ。


「はい、今日もとんでもなく可愛い。

 ほら、行ってきなさいヒロインさん」


「ヒ、ヒロインはやめて……!」


◆ 一限前 ―― 男子の“優しさ”が暴走し始める


 登校してすぐ、空気がおかしいと気づく。


「中村さん、おはよう! 今日はこっち歩いて!」

「階段危ないから、俺らが前歩くから!」


(え、えぇ……)


 まるで“護衛”みたいな距離感。

 昨日までは「かわいい!」と騒いでただけなのに、

 今日はもう“争奪戦”の雰囲気。


挿絵(By みてみん)


 階段では男子Aが僕の腕を掴んで支えようとして――


「えっ……?」


「あっ、ご、ごめん!! 落ちたら危ないから……!」


「ちょっとあんた、直人ちゃんに触りすぎ!!」


「いや俺が守って――」


 男子同士がぶつかり合う。


(守る……? 僕、そんなに危なっかしいかな……?)


◆ 休み時間 ―― “嬉しくない可愛い”を初めて経験する


「直人ちゃん、今日の髪型……すっごく似合う」


 男子Aが、目の奥のギラついた笑顔で言う。


「かわいい。マジでかわいい。

 ……誰に見せたいの?」


(……っ)


 昨日までの「かわいい」と違う。

 なんだろう、この……怖い感じ。


「えっ、誰にも……別に……」


「え、ほんと? 俺以外に見せてないよね?」


(……いやいやいやいや!)


 突然の“独占欲”に背筋が冷える。


◆ 女子の視線が刺さるように強くなる


「なんか……中村さんって天然だよね」

「男子があれだけ騒いでても平気なんだ……」

「むしろ計算じゃない? あれ」


(え……計算なんてしてないのに……)


 昨日と違って女子も露骨にザワつき始めた。


 そこへ、静かに優雅な足取りで現れる。


◆ そしてまた、藤原 彩香さん


「おはよう、中村さん」


「……藤原さん」


(う……やっぱり今日も来た……)


 彼女はいつも完璧な笑顔。

 でも目は笑ってない。


「今日も……目立ってるね?」


「そ、そうかな……」


「うん。すっごく目立ってるよ。

 男子があなたを見る目、気づいてる?」


(き、気づきたくない……)


 彩香は僕のリボンを、優しく触れながら言う。


「でもね、あなたの“無自覚なところ”……嫌いじゃないよ?」


(な、なんでそんな距離で……!)


 男子たちが微妙にざわつく。


「ただし……“気をつけたほうがいい”よ?」


「え……?」


 彩香は笑顔なのに、声が氷のように冷たい。


「あなたが悪くなくても、周りが勝手に争うの。

 それが……“女子の世界”」


(……女子の世界……なんだか凄く息苦しい……)


◆ 放課後 ―― 文研の空気が“昨日と違う?”


 教室から逃げるように文研室へ向かった。

 けれど、ドアを開けた瞬間――胸の奥が痛む。


「……あ、直人くん……」


 慎太郎が、少しだけ距離を置いて立っていた。


「お、おつかれ……今日は、すごかったね……」


 その声は優しいけれど、どこかぎこちない。


(昨日と……違う……)


 西園寺先輩も机に本を積んだまま、まっすぐこっちを見ようとしない。

 頬が赤く、視線が落ち着かない。


 長谷川くんだけは、落ち着かない様子で椅子を揺らしている。


(……なんで……?)


「直人くん、座る? ……いや、椅子、このへんのがいいかな……?」


「なんでそんな気を遣うんですか……」


 思わず言ってしまい、三人が一瞬固まった。


(気を遣われるの、こんなに……苦しいんだ……)


 長谷川くんが、勇気を出したように話しかけてくる。


「……なおと……今日も、大変そうだった……」


「へへ……ちょっとだけね」


 いつもの僕なら、ここで笑って冗談を言える。

 でも今日は、胸が締めつけられる。


 慎太郎が気まずそうに言う。


「……あのさ。直人くん……その……無理してない?」


「え……?」


「男子が……あんな風にしてくるの、直人くん、嫌なんじゃないかって……」


 勇気を振り絞るような声。


「俺たち……なんか、直人くんを見るの、慎重になっちゃって……ごめん」


「ごめん……」


 西園寺先輩も同じタイミングで言う。


(……“ごめん”って言われるの……一番つらい……)


「そんな……みんな謝らないでよ……

 僕、みんなと話すの、好きなんだよ?」


 心から言ったつもりだった。


 でも、三人は顔を見合わせて――怖いほど静かになった。


(伝わらない……今の僕の言葉、重くなってる……)


 “女の子の言葉”は、想像以上に強くて、

 優しく言ったつもりでも、相手の心を揺らしてしまう。


「……なおと……」


 長谷川くんがぽつりと言った。


「ぼくは……なおと、変わってないと思うよ」


「え?」


「女の子になっても……なおと、なおとだよ。

 ……むしろ……前より、話しやすい……」


 その言葉だけが胸にすっと入ってきた。


「ありがとう……長谷川くん……」


 長谷川くんの顔がみるみる赤くなる。


「ひっ……!? ちがっ……その……ありがとうって言われると……っ!」


 とたんに机にぶつかって派手に転んだ。


「だ、大丈夫!? 長谷川くん!」


「い、痛いけどだいじょ……なおとが触ると……無理……!!」


(……えぇぇぇ……)


 やっぱり近づいたらダメなのか……。


 慎太郎が焦ったように言う。


「ちょっと涼! ずるいぞ、直人くんに心配してもらえるなんて……!」


「し、心配されてるわけじゃ……!」


「俺だって今日すごい怪我したし! 見て直人くん!」


「やめなさい慎太郎、シャツをめくるな!」


(なんでここでも争うんだよぉ……!)


 せっかく落ち着ける場所だったのに、

 僕が来ただけで空気が乱れてしまう。


(もしかして僕……文研まで壊しちゃうの……?)


 胸が痛い。

 この“優しさが重荷になる感覚”が、こんなに苦しいなんて。


◆ 帰り道 ―― 孤独感に襲われる


 文研を出て夕焼けの道を歩く。

 今日は、男子が遠巻きに見てくる足音すら怖い。


(……僕、誰も困らせたくないのに)


 胸がじんと熱くなりそうだった。


 そのとき――


「中村さん?」


(……え?)


 声の方向を見ると、街灯の下で彩香が一人立っていた。


◆ 夜の放課後、ついに“本音”をぶつけてくる彩香


「ちょうどよかった。あなたを探してたの」


「探して……?」


 彩香は近づく。

 昼のような柔らかい笑顔じゃない。

 もっと……“素の顔”だ。


「ねぇ、中村さん。

 あなた、自分で気づいてないんでしょうけど――」


 目が、氷みたいに冷たい。


「あなたの“その優しさ”、男子を狂わせるよ」


(く、狂わせる……!?)


「そして女子を不安にさせる。

 あなたが自分の順位に興味がなくても、周りは興味あるの。

 “どの男子に好かれてるか”“誰を選ぶのか”。

 そういうもの全部が、あなたの一挙一動で変わるの」


「僕は……選んだりしないよ……!」


「中村さん。

 女子の世界は、そう簡単じゃないよ?」


 彩香は一歩近づいて、僕の頬に触れた。


(ひっ……!?)


「“優しいだけの女の子”はね、

 一番、狙われやすいの」


(……っ)


「守ってくれる男子が多いほど、敵も増えるの。

 あなた自身が悪くなくても、勝手に争いが生まれる。

 ……もう気づいてるでしょ?」


「それは……」


 今日の男子たちの独占欲、

 女子たちの冷たい視線、

 文研でのぎくしゃく。


(全部……僕のせいなの?)


「違うよ直人さん。

 あなたのせいじゃない。

 でも――“あなたが変わらなきゃ”、もっとひどくなるよ」


「変わる……?」


「そう。もう“ただの直人”じゃいられないってこと」


 彩香の声は、まるで忠告のようで――

 でもその裏に、


“見逃さないよ。あなたを見張ってるから”


という圧が確かにあった。


(……彩香……)


「明日、もっと大変な日になると思うよ。

 その準備、しといたほうがいい」


 そう言い残して、彩香は夜の道へ消えていった。


 残された僕は、ただ立ち尽くすしかなかった。


(……僕……どうすれば……?)


挿絵(By みてみん)


――第4章 完。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


第4章は、直人ちゃんが初めて“女子としての世界の重さ”を

真正面から感じる章でした。


男子の優しさは時に暴走し、

女子の距離感は複雑で、

文研メンバーとの関係性にも影が落ち、

そして藤原彩香からの圧……。


直人ちゃん自身は変わっていないのに、

周囲が勝手に動き始める――

そんな理不尽さと切なさを描いてみました。


次回、最終章では、いよいよ物語の核になる“事件”が動き出します。

直人ちゃんの優しさが、思わぬ形で試されることに……。


ぜひ続きも読んでいただけると嬉しいです!

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