第2章「女の子になって初登校したら、世界が違って見えた」
第2章を読んでくださりありがとうございます!
今回はいよいよ――
「女の子になった直人、初登校!」 です。
・クラス中が騒然
・男子も女子も反応が変わる
・“優しさ”の裏にある距離感
・そして謎めく藤原 彩香の意味深な行動……
直人にとって、初日からかなり波乱の展開になります。
ジェンダーによる扱われ方の違い、
そして“変わったのは自分だけじゃない”と気づく瞬間を、
ぜひ楽しんでいただければ嬉しいです。
時計を見ると、もう正午を大きく回っていた。
いつの間にこんな時間に……って、原因はわかってる。
姉の“女の子レッスン”だ。
「はい、もっと背筋! ほら、胸張って!」
「いや、ムリだってば!」
「大丈夫大丈夫、あたしの妹なんだから自信もちな!」
朝からテンションMAXで、どう見ても面白がっている姉。
僕は頭のてっぺんからつま先まで、完全に“女の子仕様”に仕上げられていく。
髪は整えられ、肌はうっすらメイクされ、歩き方も仕草も矯正され――。
気づけばお昼。
「もうお昼なんだけど……」
「まあまあ! 女の子って支度に時間かかるのよ!」
いや……女の子って大変すぎない?
言い分は正しいんだろうけど、僕の心の準備がまったく追いつかない。
母は「今日は休んだら?」と心配してくれたけど、
姉はニヤニヤしながら制服を持ってきた。
「ここまで可愛くしといて、お披露目なしとかありえないでしょ。行ってこい!」
「いや、行きたくないよ!?」
「大丈夫。あんた可愛いんだから」
「意味わかんない!」
姉に背中を押され、玄関に立たされた僕は、
スカートのすそを押さえながら深呼吸する。
「よし、準備万端! いよいよ初陣ね!
がんばって教えたんだから、この美和様に恥をかかせないでね!」
ローファーを履き、「じゃあ行ってくるね」と自信なさげに呟いた。
緊張で震える手でドアノブをつかむ。
秋の日差しが眩しい。
涼しい風が、長い髪をふわりとなびかせた。
昼過ぎの静かな街を歩く。
人が少ないのはありがたい……けど、すれ違う人が僕を見るたび表情が変わっていく。
(うわ……やっぱり見られてる……)
男だった頃、通学路なんて風景の一部だったのに。
ただ歩くだけで恥ずかしいなんて、考えたこともなかった。
「……はぁ。こんなんで学校、大丈夫かな……」
校門が見えた瞬間、足が自然と重くなる。
昼休み直前、生徒は教室にほとんど揃っている。
一番“注目を浴びる”タイミング。
嫌だ……正直めっちゃ嫌だ……。
でも逃げられない。
(いくしかない……)
ぎゅっと制服のリボンを握る。
姉が結んでくれた大きめの赤いリボン。
もう後戻りできないって宣告されてる気がした。
震える手で下駄箱から上履きに履き替える。
靴を取ろうとかがむと、少し胸元が気になった。
まるで悪いことをしているみたいに、心臓がドキドキ鳴り続ける。
校舎に入ると、廊下にいた男子が固まった。
「……だれ?」
「やっば……かわ……」
「見たことない子……?」
僕は目をそらし、息を殺して教室へ向かう。
心臓が痛い。足が震える。
ヒールじゃないのに、コツンコツンと音が響く気がする。
教室の前に立つと、息が止まるほどの緊張が走った。
(やだ……入りたくない……)
でも、入らなきゃ。
僕は中村直人で……今日は午後の授業を受けなきゃいけない。
震える指で、ガララッとドアを開けた。
その瞬間、空気が弾けた。
「……え? 誰?」
「転校生?」
「かわ……え……?」
もう前を真っ直ぐ見れず、うつむきながら自分の席へ向かう。
カバンをそっと机の横にかけ、最後の力で椅子を引いた。
目の前が真っ白で、机の真ん中から視線を動かせない。
そこへ後ろの席の小田が声をかけてくる。
「ねぇ、きみ誰? 転校生? そこ直人の席だよ」
喉をひりつかせながら、僕は答えた。
「……中村……直人、です……」
一瞬の静寂。
「「「えええええええええ!!?」」」
叫び声が爆発する。
(ああ……やっぱり……こうなるよね……)
僕の“初めての午後”は、波乱の幕開けだった。
僕の声が届いた瞬間、
クラスはまるで爆竹でも落としたみたいに大騒ぎになった。
「うそだろ!? 直人ってあの直人!?」
「昨日まで普通に男だったよな!?」
「いやいやいや、顔可愛すぎでしょ!?」
「メイク!? コスプレ!?」
「ちょっとスマホ出して写真撮っ――」
「ダーメ♡」
突然、目の前にすっと影が差し込む。
巻き髪がふわり揺れ、ほのかに甘い香水の香りが広がった。
藤原 彩香だ。
クラス女子の中心に立ち続ける、まさに“ヒロイン枠”。
浮かべる笑顔は完璧なのに、その奥がまったく読めない。
クラスの注目を一身に集める人。
綺麗だなと思ったことはあったけど、
僕なんか相手にされるはずもなく、一度も話したことがない。
「みんな、騒がないの。中村さんが困ってるじゃん?」
口調は優しいのに、声には絶対的な圧。
一瞬でクラスが静まり返る。さすがカースト頂点……。
彩香がゆっくり僕へ近づく。
「……本当に直人くんなの?」
「え、えっと……はい……」
「ふぅん……」
彩香は僕の前髪をつまみ、軽く持ち上げる。
その指先がひんやりしていて、心臓がどくんと跳ねた。
「――可愛いねぇ」
「か、かわ……っ!?」
「その反応も可愛い」
「彩香〜、ちょっと意地悪〜」と取り巻き女子が笑う。
うわ、やっぱりだ。
この子……絶対なにか考えてる。
表面上は優しいのに、僕を“観察”してる気配がする。
「ねぇ直人くん。今日って、具合悪くて遅れてきたの?」
「い、いや……その……ちょっと家で……」
「そっか。……まぁ、色々事情あるよね♪」
そう言いながら、彩香は僕の耳元でそっと囁く。
「でも、こういう変化って――気をつけた方がいいよ?」
「……え?」
「ううん、なんでもないよ」
意味深すぎるよ彩香さん……。
そんな不穏な空気を残したまま、
僕の“午後の学校生活”は強制スタートした。
◆午後の授業:優しさの雨が降る
午後の授業が始まる前、僕は先生に呼び出され職員室へ向かった。
どうやら、学校に来る前に姉が電話で“事情説明”をしてくれていたらしい。
保健の先生とも軽く話をして、特に問題もなく教室へ戻る。
しかし席に座っても、視線が止まらない。
「中村さん、午前の授業のノート貸そうか?」
「それ私のプリント、見やすい位置に置いていいよ」
「大丈夫? 気分悪かったら保健室行こ?」
男子も女子も、みんな優しい。
(……いや、優しいっていうか……)
扱いが柔らかすぎる。
まるで僕が“割れ物”になったみたいだ。
昔、教科書を落としても誰も拾ってくれなかったのに。
男の頃は「キモ」とか言われて終わりだったのに。
「……はぁ」
胸がざわつく。
“嬉しい”と“怖い”の真ん中みたいな感情。
(僕は変わった。
でも、僕が求めてた“優しさ”って……これでよかったんだっけ?)
そんなモヤモヤを抱えたまま、午後の授業が終わっていった。
◆放課後:文研部室へ避難
すべての授業が終わると、
僕は迷わず文研(現代文学研究会)の部室へ逃げた。
コンコン。
「……入ります……」
「お、おおおおお!? な、何か御用でしょうか!?」
西園寺先輩が立ち上がった。
「あっ、ごめんなさい。僕です、中村です」
「中村さん? ……えっ、もしかして……直人くん!?」
慎太郎は目をぐるぐるさせながら、
「なお、と……すご……な、なんか……ええ……」
語彙力を完全に失っていた。
やっぱり、この反応が一番“直人として見てくれている”気がして落ち着く。
「……っ、むり……女の子……」
四人目の部員、長谷川くんが机越しに隠れる。
地味で内気で、女子が苦手なのは知っていた。
「そんなに見ないでよ……」
席に着いても、視線が刺さる。
「そ、そりゃ見るだろ! だって……あの直人が……!」
先輩が深刻な顔で尋ねてくる。
「本当に大丈夫なのか? なんか嫌なこと言われてないか?」
「いや……大丈夫。でも……みんな優しすぎて逆に怖くて……」
「……ああ」
先輩は深くうなずく。
「直人、お前……“変わっちまったんじゃなくて、扱いを変えられた”ってことに気づいたんだな」
「……うん」
「お前はお前だよ。男でも女でも関係ねぇ。俺らはいつも通りだ」
「そ、そういうこと……だな……」
慎太郎が照れながら目をそらす。
長谷川くんは相変わらず女子アレルギーだけど、
さっきより少しだけ目を合わせてくれた気がした。
(……やっぱり、この部室が一番安心する)
でも――
その安堵の中に、ほのかな違和感も混ざる。
「あっ、慎太郎、これこの間借りたラノベ、すっごい面白かったよ!」
「あ、あぁ……それならよかったよ」
慎太郎は僕と目を合わせようとしない。
ラノベを渡そうとした瞬間、僕の指先に触れた彼は――
びくっと肩を震わせ、ひったくるように本を奪った。
「……えっ?」
「あっ、ごめん、なさい……!」
ショックというより、ただ驚いた。
耳まで真っ赤にして返したラノベをしまう。
(慎太郎の態度も……
先輩の視線も……
少しだけ、距離がある……)
(僕が“女の子になった直人”として見られ始めたから……?)
胸が重くなる。
◆帰り道:夕焼けが違う色に見えた
部室を出て、夕焼けの中を歩く。
弱い風でスカートが揺れ、
すれ違う人が自然と道をあけてくれる。
優しさは確かにある。
でもそこには、“配慮”や“警戒”や“距離”も混ざっていた。
(今日一日……疲れたな……)
変わったのは僕なのに、
世界のほうが先に変わっていくみたいだった。
(明日から……どうなるんだろう)
夕日を見上げたそのとき――
背後から、氷のような視線を感じた。
振り返る。
校舎の影から、
藤原 彩香がじっと僕を見ていた。
(……え?)
目が合った瞬間、
彩香はスマホを意味深に操作しながら、にこっと笑って手を振った。
でも、その笑顔は――
昼に見た優しい顔でもない。
取り巻きに見せる完璧な笑顔でもない。
そしてなにより目が笑っていない。
そのどれでもない、
僕だけに向けられた“探るような目”だった。
(藤原……彩香……
絶対、なんか企んでる……)
そう確信したとき、
僕の“女の子としての初日”は静かに幕を閉じた。
――第2章 完
第2章を最後まで読んでくださりありがとうございました!
この章では、
「男の頃とは違う扱われ方」に直人が戸惑い、
“優しさ”の裏側にある違和感を感じ始めます。
そして、
藤原 彩香の不穏な伏線 が本格的に動き出しました。
次の第3章では――
・“姫扱い”の加速
・サークル内の微妙な距離感
・彩香の“本当の狙い”が少しずつ表面化
・そして直人自身の「女の子としての喜びと不安」
がテーマになってきます。
ここから物語はさらに加速しますので、
ぜひ次章もお付き合いください!
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