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異世界のお姫様に転生する?平凡な私のお話。

作者: 紫将


 人は誰しも非現実に憧れている。

 そしてそれは現実味を帯びていなければならない。


 一見矛盾しているおかしな話だが、自分という存在は、非現実的ではなく現実的な存在なのだ。

 

 某、夢の国のプリンセスに憧れている人たちは、あの非現実的なお城と地位、そして申し訳程度な魔法に憧れを持つ。

 誰もプリンセスの人柄や性格に憧れているわけではないのだ。

 もちろん、例外は要るかも知れないが……


 彼女たちプリンセスは何処か現実味を帯びた性格をしている。

 少しせっかちだったり、忙しなかったり現実の自分に投影できる性格をしている。

 だからこそ、プリンセス達に憧れがあるのだろうと私は考える。


 かく言う私も白馬の王子様が迎えに来たり、ちょっと俺様系の王子様に好かれたりなどとの妄想している次第ではあるが……


 残念ながらそれこそ非現実的なことであり、現実は妄想している可哀想な33歳の女、それだけなのだ。


 それだけだったのだが……



 非現実は意外とあっさり現れる。

 現実感が無いと思っていた浮気や不倫、はたまた性に乱れたヤリサーなどなど……

 大きくなればそれらは物語の世界のフィクションでは無く現実だと思い知る。


 そう、例えば


 何処か異世界のお姫様に転生するなんていうありきたりのことも現実であったりするのだ。


 その非現実は現実として、私の前に降りかかったのもまた事実なのだった。


 上司に叱られ、ふて寝した私は目を覚ますと知らない天井を目にすることになる。


 非現実的な異世界転生?それが私に起きた現実であった。




 生まれ変わった時はもちろん赤ん坊。


 前世、記憶があるのだからそれは変な表現なのだが……


 とにかく前の世界では赤ん坊の記憶などなかったからこれも未知の体験と言える。


 転生した結果、既知の体験であったはずの赤ん坊を未知の体験として経験できるのだからこれまた、おかしな話である。


 私が、ゆりかごに揺れながらいる城は、この世界で位の高い王宮。

 更にはプリンセス作品おなじみの申し訳程度な魔法もあったりする。


 実際魔法なんてのは発展した世界出身の私にとってはさほど驚くべき事象ではなかった。

 私だってコンロをひねれば火をつけられるし、蛇口をひねれば水だって出せたのだ。


 だから、手からそれらを出そうとも意外と驚きは無かった。



 5歳になった頃、この世界と私とでのすり合わせがかなり終わっていた。


 前世では考えられない作法の数々、そしてそれを子どもに教える上流階級の異常さも、魔法だったり非現実的な景色や世界観にだって慣れてきた。


 この頃私は、許嫁と呼ばれる一人の王子と出会った。


 許嫁なんて古臭い文化だし、自由恋愛の主流な世界で生きていた私にはとても受け入れられない話だ。


 そんな前の世界でも自由恋愛すらまともにできていなかった、なんてのはどうでもいい話だ。

 この世界の私は、なんて言ったって可愛いのだから。


 だから許嫁とか呼ばれている5歳のガキなんかよりも私は、ダンディな執事に求婚したいし、まぁなんならしているのだが……


 残念ながら、いくら可愛かろうとガキは相手にされないのである。




 12歳にもなると周りの男どもは私をほっとかなかった。

 許嫁がいるというのに結婚を申し込んでくる奴ら。

 一応、私の許嫁君も頑張ってはいるのだが、残念ながら魅力を感じない。


 前世では全くと言っていいほどモテなかった私だが、こうもモテると調子に乗りたくもなるのだ。


 しかし、残念なこともある。

 私お気に入りのダンディな執事に奥さんがいることが判明したのだった。

 この世界では妻を何人も持つことは普通だけど、前の世界での倫理観を持つ私にとっては完全にノーなお話だ。


 更には学校に通うことにもなる。

 勉強なんて嫌いだし、前世でも全くやってこなかったのだからこの世界でも勉強なんかはしたくない。

 それでもこの世界特有のさも当たり前のようにある魔法の授業だけは熱心に取り組んでいた。



 17歳で私は、魔法の努力もあってか名家の天才王女として名を果ていた。


 その結果、さらに男どもに言い寄り合う。


 そしえて私が行き着いた結果は、許嫁の一途さだ。


 どれだけ変な態度を取ろうとも、周りにチヤホヤされたり優秀な王女となろうとも彼は私に対しての態度だけは変わらなかった。


 顔は可愛いタイプであり、私の好みのタイプではなかったが時々笑う顔にはドキドキさせられることもある。

 いくらこの世界で多くの男と関わってもこういう時に前世での経験の少なさが出てしまうのだと節々に感じているしだいだ。


 きっと、乙女ゲーなんかでこの人が出てきた時にはキャーキャー言いながら攻略していたに違いない。


 今思えば、私の許嫁というのは贅沢な話である


 今日も「いつもと同じ表情で安心したよ。」とか、「君が好きそうな本を見つけたんだ。」とか、「君のこと、本気で好きになっちゃってるんだけど大丈夫?」などと言ってくるのだ。


 他の男と違い私を直接褒めたり、情熱的に言い寄ってきたりはしないのだが安心感のあるドキドキをかなりの確率で私に与えてくるそんな人なのだ。




 21歳になったと同時に私は許嫁の彼と結局結婚することにした。

 この頃には私も彼のことを好きになっていたし、前世では考えられないくらい幸せな結婚となった。


 お互いの国でパレードを行い、私は彼の方の国に嫁ぐことになる。


 夫の人柄の良さあってか、周りの人たちは私に優しくしてくれるし、前世のように仕事に追われたりなどもしていない、幸せだけを考えられる贅沢な生活が私に待っていた。


 社交界なんかは今でも慣れないが結婚してから言い寄ってくる男は居なくなったし、今のところ何とかやれている。



 24歳で私は2児の母となっている。

 出産は前世でも経験したことのない痛みだったし、死を何度も考えるほどのものだった。

 それでも何とか耐えることができたのはこの子、そして夫への愛ゆえと言えるだろう。


 そして、この年になって初めて前世での自分に対しても考えるようになった。


 今の生活は前世で考えた妄想そのものであり、望んでいたものではあったのだが、20年以上生きれば現実となる。

 むしろ、前世のほうが非現実感が強まっていたのだ。


 前世での生活が恋しくも感じられるようになっていた。



 32歳になった頃、息子が反抗期に入った。

 何度も喧嘩したし一度、息子に殴られそうにもなった。

 それを知った夫は反抗期だからと片付ける始末。 


 そういや最近、夫とあまり話していない気がする。


 前世でフィクションのように感じていた、子どもの反抗期の暴力、そして夫との倦怠期を転生してから知ることになるとは何ともおかしな話である。


 しかし、貴族として私はこの生活を耐えなければならない。

 夢にまで見たプリンセス生活も現実となればこんなもんかと思い始めた。



 36歳になった頃、息子がこの世界の成人年齢に到達した。

 そして、それと同時に夫から離婚を言い渡されることとなる。


 好きな人ができたらしい。


 薄々感じていたことではあったし、どうしようもないことは知っている。


 私は元夫と息子と離れ、国に戻ることとした。



 42歳で私は魔法の研究に没頭した。


 なぜかって?


 元夫の世界に戻るために。


 この頃から私は非現実であろうこの世界は確実に現実となり、前の世界のほうが非現実となっていた。


 今思えば決められたレールを進むだけの人生。

 そのレールの上で何とか手に入れた幸せも全て何処かに消えていった。


 なぜこんな考えを持つようになったのだろうか。


 あぁ、そうだ。


 元夫と、息子が戦争で死んだことを聞いてからだ。


 それまではあいつらなんか知らないと思っていたのだが、いざ死を聞くと、なんというかこの世界への愛着とともに何かが消えていったそんな感じだ。


 結局、前世の私がプリンセスや非現実に期待していたのは20歳ほどまでのキラキラした人生なのだろう。


 こんな42歳にもなれば何もない人生とつまらない世界の出来上がりである。


 前世からこの世界に転生したのは33歳の時であったが、考えてみると前世での20歳前後の生活はこの世界でのその時期と大差ない輝きを持っていた気がする。


 私が求めていたのは非現実では無く、現実であったキラキラな記憶と言えるのかもしれない。



 50歳を迎えた。


 魔法の研究は煮詰まり、無理の一文字だけが私に叩きつけられる。



 何もかもどうでもよくなった。


 私は空を飛ぶことにした。




 33歳の私は家のベッドで目を覚ます。


 今日もめんどくさい仕事をうざい上司のもとでやらなくてはいけない。


 あぁ、こんな現実から一転して非現実的なことが起きればいいなとか思いながら。


 何処かのプリンセスにでもなれたら……


 いや、いいか。


 そこで私は何故か考えを変えた。



 現実を非現実にする方法なんかいくらでもいる。


 よし!もしも上司が何か理不尽なことを言っていたら言い返してやる。


 それで立場が悪くなれば20歳の頃目指していた、少女漫画家にでも目指してみるか。


 非現実を求める妄想するぐらいなら今すぐにでも現実を非現実にする方法を考えたほうが早いか……


 そこで私は初めてウキウキで会社へと向かった。




 そう、異世界に転生した時のワクワク感を抱いて……


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