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3-19 最強パーティの元古参メンバー、一人になったのでお嬢様を拾い(拾われ?)ました。

「支樹と距離を置くべきだ」


 盗み聞きなどしなければよかった、なんて。


 ダンジョンが世界中に発生してから十数年。

 日本一とまで評される最強パーティ《海月の宿》。最古参メンバーでありながら、唯一と言っていいほどに実績や知名度が無かった支樹。


 それゆえの、妥当というべき戦力外通告。

 当然のことだろう、と。そう理解した支樹は、その日《海月の宿》から姿を消した。


 そんな支樹が意味もなくダンジョンに潜っていると、誘拐されかけていた危機感の足りないお嬢様、鈴音と遭遇し、助けることに。


「私を、冒険者にしてくれませんか」


 行く宛もなかった支樹は彼女の指導をすることになって――って、なに? いろいろ間違ってる?


「うわあああん! ついに見捨てられたあああ!」


 なぜか《海月の宿》のリーダーである海未の方が号泣していて……?


 勘違いから始まる、ドタバタな日常(?)ここに開幕!

支樹しきと距離を置くべきだ」


 盗み聞きなどしなければよかった、なんて。後悔をしたところで、もう遅い。

 俺――月村つきむら支樹を抜きにして夜中にひっそりと開かれていた会議。薄く開かれた扉から女性の声が聞こえてくる。


 わかってはいた。日本一と評される最強パーティ《海月くらげの宿》。その中に、知名度も実績も無い、経歴だけ長いメンバーが居座るのが歪だということは。


 恨みはない。むしろ感謝しかない。

 彼女たちのおかげでいい思いをさせて貰った。

 ならば、俺のできる精一杯は。俺を追い出すという負担を彼女たちに押し付けないよう、俺自身が消えることだ。


「やっぱ、俺は足手まといだったよな」


 ありがとう、今まで。


 僅かに開かれていた扉を閉じて。真っ暗な中、俺は静かにギルドハウスから出た。






 十数年前。群馬と長野の県境、高天原山に突如として地下へと続く構造物が出現。これを皮切りに世界各地に同様のもの現れた。

 後にダンジョンと呼ばれるそれらは未知の物質を有しており、世界を揺るがす可能性さえも示唆された。


 だが、齎されたのは良いものだけではない。

 理外の力を有す魔物も、ダンジョンから現れてきたのだ。


 しかし、同時。人々の身体に変化が起き始める。

 御伽話で語られる魔法のような力を発現させていった。

 魔物に対抗し得る力を持った人々は、次第にダンジョンに挑戦するようになった。


 富や名声。新たな物質への探究心。あるいは、純粋に戦いたい者など。目的は様々。

 そんな人々を、いつしか冒険者と呼ぶようになっていった。






「さて、どうしたものか」


 半ば勢いで出てきたため。理由も目的も全くない。ついでに荷物の大半も置いてきてしまっていた。

 そもそも、今までダンジョンに潜ることばかり考えてきた俺にとっては、それ以外の生活にあまり実感が無い。

 二十代も後半だというのにいかがなものかと思わなくもないが。


「まあ、ここに来ているあたり。未だに囚われてるんだろうな」


 渋谷マルハチダンジョン。日本で八番目に発生した渋谷のダンジョンで。そして、俺たちが初めて挑んだダンジョン。


「……特にやることもないし。潜るか」


 冒険者証は置いてきてしまったが、マルハチは浅い層ならば無くても入れる。

 警備員に会釈をし、ゲートと呼ばれる門をくぐる。

 ゲートの先には空間の容積が合わない草原が広がっている。異空間に飛ばされたかのような状況。これがダンジョンの特徴である。


「あれは、初心者かな。周りには経験者がいるみたいだし」


 マルハチの浅い層の魔物は強くないため指導に適している。

 丁度見かけたのも初心者らしき中高生くらいの黒髪の少女一人と数人の経験者であろう大人の男。

 初心者一人に対して経験者が複数人というのは無い話ではない。少女も身なりがよい印象を受けるし、万全を期したとも考えられる。

 考えられはする、が。


「うーん……」


 向かう場所に違和感がある。


 まるで人目を避けるかのように森の方へ。

 森の中には比較的強い魔物もいる。たしかに経験は積めるが、見るからに初心者の少女を連れて行くような場所でもない。


 あまり、穏やかな予感はしない。


「……まあ、少しくらいなら」


 どうせやることもないし。様子を伺うくらいなら。

 相手から察知されない距離を保ちつつ、俺は五感にバフをかける。

 ――バフによる能力の強化。それが俺の得意なスキルである。

 都合一人は成せることが少なく、周りに頼り切りだったが。様子を伺う程度であれば一人でも十分。


「えっと、本当にこっちですの?」


 少女の疑問に男たちは頷き、更に進んでいく。

 そっちは、森しかないはずだが。


 しばらくすると彼らは足を止め、逃げ道を塞ぐようにして少女を取り囲む。


 突然のことに、少女は「あの、あら?」と、困惑していた。


 男たちは成功を確信したのだろう。もはや取り繕うこともせず「この見目なら高く売れるだろう」「この様子なら、強請ればもっと絞れるだろ」なんて、下品な悪巧みを始めた。


 こうなれば、危機感が圧倒的に足りていない彼女もどうやら気づいたらしい。


「もしかして、私。騙されましたの!?」






 こんにちは。私、星宮ほしみや鈴音すずね

 今日冒険者になったばかりの、正真正銘、駆け出しの初心者ですの!


 お優しい先達の方々に教えを請いつつ、立派な冒険者となるために頑張っていく……予定だったのですけれど。


 周りには怖いお顔でにじりよってくる冒険者の方々。

 売れるだの、強請りだの。物騒なお話をしていて。


「もしかして、私。騙されましたの!?」


 私の叫びに、彼らはギャハハハッと大きく笑います。


「やっと気づいたのか。相当な箱入りの世間知らずだな。それとも危機感がユルユルなだけか?」


「それならアッチはキツキツだろうし、むしろ好都合だなあ!」


 話の内容はよくわかりませんが、ここにいるのが良くないということだけはわかります!


 しかし、周りは既に取り囲まれている状態。

 森の深くにいるせいで、近くに人もいないでしょう。


「それじゃ、おとなしくしてろよ?」


 間近まで迫ってくる冒険者。

 恐怖から思わず目をつむってしまう。


 誰ですの!


 生半可な気持ちだけで冒険者になろうだなんて考え、

 お父様とお母様に相談も一切せず、千癒の目もかいくぐってダンジョンまでやってきて、

 声をかけてくださった方になんの警戒もせずホイホイついていき、

 結果、誰にも助けを求めることができない状態になっている、


 中途半端で浅慮で考え無しの阿呆は。


 私ですわあああ!


 あまりの情けなさに涙が込み上げてくる。

 伸びてくる手に、目を伏せ、頭を抱え、うずくまるしかできない。


「なんだおまっ、ぐへっ」


「急に出てきててなにを、ごはっ」


 ああ、お父様、お母様。先立つ不幸をお許しくださいませ。千癒も愚かな私を支えてくれてありがとう。

 聞こえる殴打の音とひしゃげたような男の声。きっと、私も同じように――って、あれ、なにかおかしいような?


 不思議に思い顔を上げてみると。なぜか冒険者の方々が地に伏せており。代わりに初めて見る殿方が困り顔で立っています。


「あー……大丈夫か?」


「は、はい。大丈夫で、す?」


 謎に疑問形の回答でしたが、男性は「それはよかった」と安堵をすると。改めて周りの男たちをくるりと確認します。


「見た感じ、正規の依頼ではなさそうだな」


「えっと、……はい。ゲート前で声をかけていただいた方々で」


「その、なんだ。面倒ではあるだろうがキチンした依頼を介したほうがいい。冒険者協会を通したやつな」


 それについては痛いほど思い知りました。……一応、依頼を介さなかったのは別な事情があるのですが。


「ともかく、そのあたりはしっかりとしておけ。歴史が浅く制度が雑多なだけに、自衛は必須だ」


「……はい。ごめんなさい」


「出口までは送ってやるから。その後は協会に相談するなり――」


 彼は背中を向け、案内をしようとしてくれる。

 それはありがたいことなのですが。しかし、


「あの、あの!」


 たしかに。彼の言うとおり、協会を介すのが好い選択なのでしょう。――でも、


「私を、冒険者にしてくれませんか」


 思い切って、私はそう伝えます。

 彼が「まさか、俺にか?」とでも言いたげに見つめ返してくるので、全力で頷いて答える。


「……お前、さっきの話聞いてたか?」


 もちろん聞いていました。そしてこれが、その忠告に反する行為だということも理解しています。

 なにせ、先程それで痛い目を見たというのに。再び、名前すら知らない相手に師事しようとしているのだから。


 しかし、なぜでしょうか。この人ならば信じていいような、そんな気がするのです。

 なんて。まんまと騙されていた私が言っても全く説得力がありませんけれど。






「うわあああん! ついに見捨てられたあああ!」


 ギルドハウスの中、一人の女性が絶望を泣き叫んでいた。

 周りのメンバーたちも声をかけてあげるべきとは思いつつも。しかし、彼女ほどではないにせよこちらも傷心中。


 《海月の宿》。今朝方、最重要人物・・・・・にどこかへ行かれた、哀れな最強パーティであり。

 部屋の真ん中で脱水を起こす勢いで泣いているのは、日本最強と名高い冒険者、夏色なつき海未うみ二十六歳である。


「どこに行っちゃったの、支樹ぃ……」


 ぺしょっ、と。今にも溶けて水になりそうな様子で海未が机に突っ伏す。


 さて。ここで一つ、訂正しておこう。


 たしかに支樹の知名度が低いということは事実だ。最強パーティと名高い《海月の宿》に最初期から所属しているにもかかわらず、唯一名前と顔が知れ渡っていない。


 だがそれは、イコールパーティにとって必要のない人物、というわけではない。


「私たち、頑張るからぁ。支樹にばっかり頼らないように頑張るからぁ……」


 支樹の役割。バフによる支援は目立ちこそしないもの重要な存在であり。

 そして、最近の彼女らが支樹に頼り気味になりすぎている原因であった。


 だから、過剰すぎる負担となる前に、彼に頼りすぎないように距離を置こう(・・・・・・)と、そう思っていたのに。


「戻ってきてよう、支樹ぃ……」


 つまり。追放など、起こっていない。起こるわけもない。

 ただひたすらに。変なすれ違いが起こっているだけ、である。

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