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3-09 エルフとかいる異世界で墾田永年私財法やったらこの有様だよ!

ITエンジニアだった前世の記憶を持つ青年、テラ=ターム。

彼の持つ【シリアルポート接続】はコンピュータなどな剣と魔法の世界では紛れもなく不遇スキルだった。

しかし、墾田永年私財法により世界の耕作可能地のほとんどを所有するエルフの【結界】のメンテナンスにはこのスキルが必須だった!

エルフが巨乳か否かの常識ギャップにより転生者バレしたテラは結界メンテナンスのオファーを受けるが、前任者が天に召されてから担当者不在の結界にはなぜかバックドアが。

さぁ、やりたい放題できるけどどうするテラ=ターム?!

 そんなわけで、この俺テラ⁼タームは今日も腹を空かせている。

 育ち盛りなんだから腹いっぱい食いたいよ。


「ねぇマスター。大盛りにしてよ」

「大盛り料金は銅貨一枚だ。悪いな、麦の値段も最近高いんだ」

「知ってるよ。他にも関税・通行税にダンジョン入場税。働けど働けど手取りはこれっぽっち」

「不景気はお互い様って奴だ。ほら、スプーンならしゃぶり放題だ。食った気になって明日からがっちり稼いで来い」

「せめて食えるものしゃぶらせてよ」


 なんでこんなに貧しいのって、世界のほとんどの耕作可能地はエルフの私有地なんだよ。我々は搾取されている!

 むかーしの王様が作った法律らしいんだ。魔物を追い払い、荒野を開墾して収穫可能な畑を作ったらその土地を所有できるって言う法。次の世代には引き継げないんだけどね。

 その王様、やっちゃったよね。転生者だろ絶対。なにやってんだよ、手当たり次第に知識を持ち込むな、選べ!

 エルフが居るんだぞ、この世界。五百年前のエルフ農家みんなまだ現役なんだよ。あいつらの寿命千年だってよ、やっちまったなぁ、おい!


 そのやらかし王のおかげで。人間、ドワーフ、オーガにトロール、河童。これら五大種族はね、海と山に押し込まれているわけだ。平地と森はエルフが独占しているから。


 で、さらにですよ。エルフの国は『結界』っていう魔道具を持っていてね、これでエルフの所有する土地への立ち入りを制限してるんだ。まさにエルフ一強。

 騒がしい酒場の喧騒の中、俺はカウンターに座るエルフの肉入りシチューを恨めしそうに眺めながら、茹で芋と麦粥を腹に流し込む。前世の知識で、よく噛んだ方が満腹感も得られるのは知ってるが、不味いんだ。

 子供の頃は、粗末なメシでも文句言わずに食べていた。だけどね、成人した頃に前世の記憶が蘇った。蘇ってしまった。

 日本でネットワーク技術者をやっていた前世の記憶。

 飽食の国・日本! グルメの国・日本!

 そんな記憶を思い出したせいで、飯がマズイ事に気付いてしまったわけだ。信じられるか? 全てが薄い塩味。野菜は苦くてえぐくて固い。ダシの文化も無いし、水は石灰臭いし。知らない方が幸せだったよね。もうね、やってらんない。


 異世界からの転生者や転移者というのは、歴史上何人か確認されているんだよ。

 この転生者たちは、大きなものでは、活版印刷や羅針盤、衛生知識。小さなものでも料理や服飾などの文化面で活躍している。

 それに引き換え俺はどうだ。

 十歳の時に発言したスキルは【シリアルポート接続】だよ。

 剣と魔法のファンタジーだぜ? もう一回言う。剣と! 魔法の! 世界です!

 パソコン無いのにIT技術者の記憶とか蘇って何しろってんだよ。

 鑑定した司教様も首を傾げていた。こんなのネットワーク機器に物理接続する時にしか使わないじゃないか。


 仮にね? 今、ここに「パソコンがサーバに繋がらないんです!」っていう依頼がギルドに張り出されたとしましょう。そんなトラブルがあれば、俺はサッと駆けつけてログを見てさ、原因を調査して設定変えたりして解決しちゃいますよ。

 でもね、ネットワークもパソコンも無いんだ。これ以上の不遇スキルってあるか?!


「おい、テラ! テラ=ターム! 相変わらず独り言がデカいなお前は! もう出来上がってるのか! なんだまたシケた顔で大好物の麦粥すすってるな!」

「痛いなアロン、俺はお前みたいに頑丈じゃないんだ。あと金があったらもう少しマシなモノ食うよ」


 バシンと背中を叩いてきたのはスタンド=アロンというソロで亜竜すら倒したという女剣士だ。ムキムキの割れた腹筋を見せびらかしては、勝手に俺の隣に座って肉を食う。趣味が見せびらかしだ。


「お前、何食っても不味いって言うじゃないか」

「そうなんだから仕方ない」


 周りでウマそうに粥を啜っていた奴らが嫌そうな顔をするが、お前らにヒガシマルとかナガタニエンの味の記憶がちょっとでもあってみろ。頷いているはずだぜ。

 コンビニまでちょこっと歩けば、脂っこいものも甘いものも簡単に買えた記憶。そんな、この世界では手に入らない記憶だけがある、地獄かよ。


「あー、もう! コンソメが恋しいよぉ」

「恋……っ、え、それは、あの、誰なんだ?」

「コンソメはな、無敵の出汁だよ。旨いスープになるし、冷蔵庫の残りを適当に煮込む時に使っても美味いんだ。でもね、俺は揚げた芋をコンソメ味で食べたいンだよぉぉ!」


 そう喚き散らしていると、カウンターの所に座っていたエルフがグキッとホラー映画のように首を回してこちらをガン見してきた。なんだお前、俺に気があるのか? それとも不味い茹で芋を分けて欲しいのか? たまにスラムの子供たちが机の隣でやってるような目だものな。やらんぞ、不味い芋だけど。


「おいおい、見ろよ、すげぇなあの巨乳エルフ。首回ってるぜ」

「梟の鳥獣人じゃないか?」

「獣人ってなぁ、あんなおっぱいしてないだろ」

「そうか? なぁ、おっぱいならオレもかなり自信があるんだが」

「お前のは筋肉だろう?」


 そんな馬鹿話をしていると、そのエルフが近寄って来た。ブルルン。


「でっっっか!」

「今、私の胸の話をしていましたね」

「え、いや、すいません」

『貴方、転生者ですね』

「え? なんでいきなり」

「隠してもわかります。人間とエルフの体格はそう変わらないのに、なぜかエルフは胸が小さいと思い込んでいる。これはあなた達の特徴」

「いや、違いますよ。転生者なんてとんでもない。ありふれた貧乏貴族の追放息子なだけなんです」


 断固として否定するが、巨乳エルフは目を見開いて呟いた。


「本当に転生者だとは思わなかった」

「え?」

「今の言葉はですね、異世界の……『ニホンゴ』で言ったんですよ。あなたは転生者ですね、って。貴方はそれを理解して返事をしている」


 想像もして無かった所で転生者バレした。


「私はカクタス氏族のサクラエディタと言う。もし異界の知識を持つのなら教えて欲しい。あいてぃーというスキルを持っていないだろうか。持っていたらぜひ力を貸して欲しい。協力して貰えないなら通報する。痴漢として。あと転生者」

「ちょ、それは……あいてぃ? もしかしてITかな?」

「それだ。できればCCNAとか、基本情報技術とかの知識があると良いらしい」

「会社で取得を推奨していた資格だな。……持っているけど」


 サクラエディタさんは目だけでなくアゴをガクンと大きく開けて固まった。美人が台無しだよ。


「な、ならこれは読めるか! 結界の魔道具に関わるモノなのだが」


 巨乳エルフが胸の谷間から取り出したのはA3くらいの大きな紙。どうやってそこに入るの?


「古代文字というわけでは無い。文字は読めるのですが誰にも意味が解らないのだ」


 コピー最新_最新と書かれたその紙に記載されているのは、前世で慣れ親しんだ通信機器のコンフィグ情報によく似ていた。


「ああ。なるほど。設定情報だ、これは。アドレスのグループをセットして……うん。これはもしかして結界を通れる人のリストかな?」

「意味が解るのですか!」

「ヒノキ、スギ、リンゴ、カクタスってのもある。これなんだなんだかわかる?」

「私たちの里に住んでいる一族のトーテムだな。それが書いてあるのか」


 長老だろうか。何人かの名前が直接に書いてあり、その他には氏族に属する物が結界を通過できるグループとして登録されている。


「ファイヤーウォールのコンフィグと同じだね。構文が独特だけど意味は分かるよ。変更とか新規設定もできると思う」

「救われた! 我々の国はこれで救われた! 我が国に来て結界管理者になってくれ。寿命の尽きるまで栄華を約束しよう。金も女も男も望むままだ」

「いや、男はいらないよ」


 飛び跳ねて喜ぶエルフさんだが、俺の目にはヤバい設定が見えている。


「以前、結界をメンテナンスしていた方はいませんか? いくつか聞きたい事が」

「その方はもう70年ほど前に天に」

「前任者不在ですか……」


 嫌な引継ぎだ。

 設定変更できる人材が居ない事よりもっと恐ろしい情報。

 バックドアが仕込まれてる。

 エルフじゃない血筋の集団が長老と同じアドミニストレータとして、最上位の権限を持ってた。通行どころか、編集権限も。


「ねぇ、オーガに襲われる事件とか起きてないかな」

「……オーガは知らないが、結界に守られた街の中で行方不明者が増えている」


 人間どころか同族すらも喰らう悪食にして暴力の化身オーガ。エルフにとって相性の悪い種族だ。

 エルフの森を越えた谷に、闇の神を奉ずるオーガたちの国があったはずだ。


「行方不明になったエルフって、定期的にいなくなったりしてる?」

「しております」


 敬語になった。

 これはね、もう食べ放題のサラダバーみたいな事になってるよね。


「おい、テラ。どういうことだ、なんでこのエルフ正座してるんだ?」


 俺の芋を食いつくしたアロンが状況についてこれずにスクワットを始めた。返せよ俺のメシ。

 そう言いかけて俺はハッと冷静になる。

 俺のスキルや知識が役に立ちそうなのは良い。嬉しい事だ。でもエルフだぞ? 放っておけば遠くないうちにエルフは滅ぶ。


 俺が管理者になってバックドアを塞ぐ?

 報酬として農地改革を求める事もできるだろう。

 だが、逆にエルフを締め出す事もできる。エルフとオーガを共倒れさせて漁夫の利とか、イケるか?


 結界が通信機器のように設定できるなら。俺の【シリアルポート接続】で変えられるはずだ。

 さぁ、どう設定する?

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― 新着の感想 ―
うっわ、寿命差ありの所にそれやったんだ、と題名から。しかも、ファンタジー世界の摩訶不思議「結界」あり……はい、それは、平地から追いやられますね。よくぞ人間が生き残っていたものです。 で、エルフの仕事に…
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