秋晴れ空と青タイツ
「俺さ、空の一部になりたいんだよな」
秋晴れの空は澄んで、どこからか鳶の鳴き声が聞こえた気がした。龍二につられて俺も見上げる。
意味深なことを言った龍二がキメ顔のまま沈黙モードに入ってしまったので、俺は手持無沙汰に辺りを見渡す。
屋上には龍二と俺のふたりだけだ。
今日は文化祭の最終日。そんでもって放課後。クラスの出し物で青タイツ漫才を繰り広げた龍二と俺は反省会と称して屋上で、スベりまくった腹いせのメントスコーラ大会を開催していた。
「だからってお前、青タイツでキメ顔されてもな」
俺はしゅわついたコーラの水溜まりを靴でがしがし広げながらツッコむ。スベりまくった後遺症で言葉に覇気がない。
全身青タイツ人間こと龍二がぐっと伸びをしながら長いため息をついて言う。
「ブッダの教えではさ、解脱って宇宙との合一なの」
「急に哲学」
「要するに、悟りってのは自分が宇宙と一つになることらしい」
「はあ……それが?」
「ブッダはさ、この空と一つになりたかったんじゃないかな」
龍二はまた見上げる。寂しそうな目をしていた。
一拍遅れて、俺も見上げる。
俺たちの町の上の上の、そのまた上に広がる青い空間。一番高い絵の具を垂らしたような色をしていた。風になびいた雲が泳ぐように何重にも線を描いていた。
「まあ確かに、分かるような……気もする」
俺がつぶやくとほぼ同時に、午後四時のチャイムがリーンゴーンと鳴り響いた。
階下からわいわいと女子やら男子やらの声が聞こえてくる。反省会もそろそろ一区切りらしい。
「お、購買いこうぜ」龍二が言う。
「今日は空いてねぇだろ多分。てかまだメントスとコーラ残ってるし。ほれ」
ポケットから取り出したメントスを龍二に軽く放る。
「お、サンキュ」
「んで? さっきの話のオチは?」
「ああ、んとね、そのね」
言いよどむ龍二はタイツの首部分をびよびよ引っ張っている。俺はコーラをラッパ飲みしながら横目で返事を待つ。
「……いや、ブッダもスベって落ち込んだのかなって」
「そんなわけねぇだろ、ごほっ」
むせながら二人でげらげら笑った。龍二はタイツをゴリラのように胸から真っ二つに引き裂いて、はるか階下の校門付近に向かって雄たけびを上げた。下にいた教師が何人か振り向いてこちらに歩いてきたので、俺たちは急いで帰り支度を始めた。
青い青い秋だった。