第九歩「バイバイ」
魔法をかけた瞬間、ほんの一瞬だったけれど、セジルの顔が綻んだように見えた。
けれど次の瞬間には骨になっていた。セジルの左手には中手骨は見当たらなかった。
「ありがとう。
ごめんね、待てなくて。
おばさんやおじさんは逃げろって言ってくれたけど、カイリが帰って来た時に誰も居ないとさみしいと思って隠れてたの。
でも見つかっちゃって、一緒に燃やされちゃった。
熱くて、痛かったけど、カイリのこと考えてたら、それも耐えれた。
おじちゃんはすごく悪い人って訳じゃないの。罰を何回かされたけど、最初だけしか痛く無かったから。
けど、子分みたいな人達は、生きてる感じがしない顔をいつもしてたの。すごくかわいそう。助けてあげてほしいな。
あのおじちゃんが生き返らせたのはこの集落の中であたしだけだったの。
奇跡だと思ったし、神さまってほんとにいるんだって思った。
最後に会えたのがカイリで良かった。
大好きだよ。
バイバイ。」
光に包まれたセジルがいた場所には骨と、数滴の液体を垂らしたような湿った地面。
それと指輪のおもちゃが落ちていた。子供向けにしてはやけに大きかった。
僕の親指に嵌めて丁度良い大きさだ。
「……行こう。」
あれ、立ち上がれない。……足に力が入らない。……前も……滲んで見えない。呼吸も、すごくしづらい……
「泣け。気が済むまで。忘れなくて良い。
自分のものにするために、過去を忘れないために。思い出は人を強くする。
いつか壁に当たった時、辛い記憶が、得た経験が、壁を越えるために上に押し上げてくれる。」
駿河は僕の肩に手を置いた。声と手が震えている。力がこもった手が僕の肩を握る。握られて痛いが、暖かい痛みだった。
声色は優しかったが、圧に負けて顔を見ることが出来なかった。
泣いた。嗚咽も混ざった。すごく長い間。声が枯れるまで。いや、枯れても。途中から涙も出なくなった。
〚条件達成。スキル二、『暗殺術』を獲得しました。〛