―03― ユメカ、ポーションを作る! 後
〈スライム一本締め〉。
スライムを素材に作ったポーションの名前である。
まろやかな口当たりが特徴で非常に飲みやすいポーションだ。個人的には、炭酸水で割るとおいしいんだよなぁ。
【おめでとう】
【おめ】
【初心者にしてはすごい】
【『10,000円』ポーション初調合記念に】
うれしい、投げ銭までもらっちゃった!
「では、早速いただきまーす!」
三ヶ月ぶりポーションだ。飲んだら最高にハイな気分になるんだろうなぁ!
【ダメ。今吸ったら、ポーション乱用になる】
【証拠も配信でとられているし、やらないほうが懸命】
え? 目の前にあるのに飲んじゃだめなの?
そういえば聞いたことがあった。
ポーションを必要以上に飲むことをポーション乱用といい、推奨されていない行為だと。ポーション乱用すると、ポーションの効き目が悪くなり、本当に必要なときにポーションの恩恵を得ることができなくなってしまう。
まぁ、わたしはポーション中毒者なので、すでにポーションが効きづらい体になっているんだろうけど。
とはいえ、アイドル配信者を目指す者としてポーション乱用するわけにいかない。
「あー、そうでしたー。ユメカ、うっかりポーション乱用するとこでした。指摘してくれてありがとうございます」
嫌だぁあああああぬ! ホントは飲みたいよぉおおおおおおお!
内心、絶叫である。けど、歯を食いしばってどうにか我慢する。
【うっかりユメタンもかわいい】
仕方がない〈スライム一本締め〉は〈アイテムボックス〉の奥深くに仕舞ってしまおう。
そう思って、手で持ちつつ思う。
あれ? 手が言うこと聞かない!?
まさか外部から特殊な攻撃を受けたかと警戒する。いや、特にそれらしいものは見当たらない。
じゃあ、なんで!?
あっ……!
そうか、わたしの手が反抗しているんだ。
ユメカ!! せっかくのポーションを飲まなくていいの?
そんな叫びがどこからともなく聞こえてくる。
本当は飲みたいよ……! けど、飲んだらダメなんだよ……!!
目の前にポーションがあるのに飲めないのがこんなに苦しいなんて!
【固まってどうした……?】
はっ!?
そうだ。今のわたしはダンチューバーの虹天ユメカ!!
この体はもうわたしだけのものじゃないんだ。
みんなの期待に超えるために最高のアイドルを演じるのよ!!
【息荒いけど、大丈夫?】
「だ、だだだ大丈夫れす。大丈夫……、大丈夫、ユメカは大丈夫です」
自分に言い聞かせるように唱える。
そう、わたしは大丈夫だ。
【せっかくだし、作ったポーションの格付け見せてよ】
ポーションには格付けというのが存在する。
同じポーションでも、格付けによって価値が変わるのだ。
この〈スライム一本締め〉でも、Fランクの〈スライム一本締め〉もあればAランクの〈スライム一本締め〉もあるといったように。
確か、一番下はFランクで最高はSランクだっけ? もちろんランクが高いほど効果も優れたものになるし味もおいしい!
格付けは〈鑑定〉を使えば、わかったはず。
自宅でポーションを密造していたとき、格付けってちゃんと調べたことがないんだよね。
だって、自宅でスキル〈鑑定〉を使うのは違法だから。まぁ、ポーションを密造しているわたしがなにを言ってるんだって話だが。
それに、飲んでしまえばおいしくできたかどうかなんてわかるしね。
今回は気合いをいれて作ったから、Sランクはあるかな。
「もちろん、いいですよ」
笑顔で了承して、ポーションの格付けをしようと〈鑑定〉を使う。
「では、〈鑑定〉を行ないますね」
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〈スライム一本締め〉
格付け:SSS
効果①:傷を回復する。
効果②:不明(格付けSSSなため隠し効果を獲得しました)
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へー、格付けSSSかー。
たしかに、わたしの〈調合〉完璧だったもんなー。SSSなのも納得だ。
【は?】
【は?】
【は?】
【は?】
【は?】
【SSS?】
【うそ……?】
【いやいや嘘だろ】
【ん? なにが起きた?】
【SSSってありえなくない?】
【格付けSSSなんてあったっけ?】
【SSSって普通は作れないよね?】
【え? なにげにやばくね?】
【は?】
【は?】
【は?】
【は?】
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あれ? みんなどうしたんだろ? さっきから不穏なコメントで埋め尽くされている。
「えっと、みんな、どうかしましたか?」
【格付けSSSのポーションは一流探索者でも作るのが難しい伝説のポーションだけど、どうやって作ったの?】
そのコメントがナイフのように鋭くわたしの喉に突き刺さった。
もしかして、わたしなにかやっちゃいましたか……!?