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▽41.魔王軍、戦闘に突入する。


「クロノ、どうしますか。指示を……お願いします」


 ロゼッタがうわずった声で俺に問うた。

 当然だが、彼女も理解したのだ。予想外の竜の大軍勢。俺たちは今、圧倒的不利な状況にいることを。

 心なしか顔は青ざめ、瞳に怯えが混じっていた。

 無理もない。気丈なようでもまだ年端もいかぬ少女。前線に立って軍を率いるのは、これが初めてのことだった。


「……よし」


 俺はそこでぐっと肩を抱き寄せて、手を握ってやる。

 ロゼッタは驚き、「ひぇ!?」と裏返った声を上げた。


「大丈夫だ、俺がついてる。それに皆だっている。竜だろうと何だろうと負けたりしない。安心しろ」


「……く、クロノ」


「だが、君こそが俺たち魔王軍の要。君は二代目魔王、ロゼッタ・アグレアスなんだ。弱気なところを見せれば、それは兵士全体の士気にかかわる。だから何とか踏みとどまって、強いところを皆に示してくれないか」


 俺の言葉に、ロゼッタはハッとしてこちらを見上げる。

 自分の声が震えていたことに気付いたのだろう、彼女は続いて胸に手をやり深呼吸すると、少しだけ顔を赤くしてうなずいた。


「……ごめんなさい、少しだけ恐怖にのまれていました。でも、もう大丈夫です」


「ああ。それでこそ俺たちの(あるじ)だ」


 俺は振り返り、皆に指示を下す。

 竜族が出てきたが基本陣形は変更なし。地上部隊は元帥軍を食い止めつつ、こちらに流れてくる避難民を救助するようにと。


 竜鱗を付けてはいるものの、敵軍は自我が喪失している。

 それは柔軟な判断ができないということであり、俺たちはその有利を活かせるはずだ。


 元帥軍の主な足止め役は、ロゼッタ。

 ハシュバール戦で俺がしたのと同様に、土魔法で足場を崩し、彼らの進行を止める。

 とはいえ、まがりなりにも元帥軍は仲間であり(元帥三人は除くとしても)、地割れなどは作らず、あくまで歩みを遅らせる程度にする。


 避難民と合流したら撤退戦に切り替えて、各部隊はロゼッタとともに自領へ引き返す。


 そして、上空からの竜族に対処するのは、飛行部隊と俺も含めた四天王たち。

 こちらも全軍を撃破しようなどとは思わない。あくまで避難が完了するまでの時間稼ぎだ。

 基本的に部下たちには防御に徹させ、四天王は浮遊魔法で空中戦を仕掛けつつ、ヒット&アウェイで付かず離れずの距離をとって戦う。

 生まれながらに竜鱗を身に着けている竜たちに魔法は通用せず、空中ゆえに地震攻撃も仕掛けられない。

 剣に高熱や雷撃をまとわせて戦うという急場しのぎの対処法になるが、上位魔石で五倍の力になったフレイヤたちなら、何とか部下を守りつつしのいでくれるはずだ。……そうであると信じるしかなかった。


「三人とも、すまない。皆の実力まかせの戦いになってしまうけど、俺たち四天王が竜を食い止められるかがこの戦いのカギになる。どうにかして、耐えて欲しい」


 俺が頭を下げると、フレイヤが「なーに言ってんの」と笑った。


「今更そんなこと言いっこなしよ。私たち、ずっとこうしてやってきたじゃないの」

 

「……フレイヤ」


「そうですよ。僕たちの方がクロノさんに助けられてきたんですから。気に病む必要なんてないです」


「アストリア……」


「これからも、この戦いが終わっても、頼りにしてるわよ、クロノ君。だからみんなで、一人も欠けずに生き延びましょう」


「クラウディア……」


 三人は俺が贈った指輪に口づけると、拳を握ってそれを前に出す。

 俺も同じように右手を前に出して、四方向から拳をかち合わせると、全員が同じように笑い合った。


「みんな……ありがとう。死ぬなよ」


「クロノもね。この戦いが終わったら、私たち、あなたに言いたいことがあるから。ちゃんと帰って来てよね」


「ああ、わかった」


 言いたいこと、何だろうか。

 皆目見当がつかないが、とりあえず生きるための原動力にはなるだろう。

 ここで死んだら、それが何だったかもわからなくなる。

 心残りを残してあの世に行く気はない。

 お互いのためにも、それから魔王であるロゼッタのためにも、俺たちは負けるわけにはいかなかった。


「……よし。全軍、戦闘態勢! ──突撃せよ!」


 俺たちは飛行翼獣から飛び立ち、竜の軍勢に向かって突貫していった。


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