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▽34.礫帝、戦力の増強を図る。その3.


 近く訪れるであろう戦いのための戦力整備は、順調に進んでいた。


 中央の都から離脱してきた魔族たちを受け入れ、新たに新魔王軍の兵として編制する。

 ロゼッタ名義の檄文のおかげで続々と人は集まり、すでに俺の屋敷はおろか、村内ですら泊まる場所を確保しきれないほどに味方の数は増え続けていた。


 それで、彼らの住居としての仮設住宅を俺が土魔法で建てることになるのだが……これがなかなかキツかったりする。


(まあ、四の五の言っても始まらない……というか、仲間が増えることの負担がこの程度で済むなら、むしろ安いもんだよな)


 そんなふうに自分に言い聞かせて、黙々と仕事をこなしていった。


 そして、それらの魔族たちにもめぼしい魔石をあてがって、各個の戦力増強を図る。

 さらには、北方の氷魔族たちとも連絡を取り、こちらで抱えきれない人員はそっちに移動させるなど、こまごまとした配置転換なども各四天王と手分けして行っていった。



 やることは自軍の編成だけじゃない。外交に関して処理すべき事項もあった。

 俺はドラグニアへの対処の一環として、ハシュバール以外の近隣の人間の国──アルマフィアとイザルキスタンに、注意喚起の使者を送ることにした。

 注意喚起というのは、要するに「竜族は危険だから手を組むのはやめておけ」という警告のメッセージだ。

 上記二国がうっかり竜鱗に手を出しでもしたら、ハシュバールの二の舞になりかねない。

 こちらとしても敵国が増えるのは望ましくないので、そういう意味でも彼らに情報を伝えておくことは必要だと考えたのだ。

 ただし、魔族を使者としたのでは向こうも警戒するだろうから、フィーネたちエルフに頼んで、彼女たちを外交担当とさせてもらった。


 幸いなことに、他部族から信頼の厚いエルフたちが赴いてくれたおかげで、両国ともにそれなりの警戒心を抱かせることはできたようだった。

 できることなら同盟関係、あるいは不可侵の約定でも結べれば良かったのだが……さすがにそこまで上手くいくことはなく。


(でも、これでおそらく、ドラグニアの戦力がこれ以上増えることはないだろうな……)


 まずまずの結果に一安心していたのだが、警告を送った一週間後、それとは別の方向から予想外の報告がもたらされる。


「──クロノ、大変よ! 中央の部下から報告が来たんだけど、元帥たちが竜族と同盟を結んだんだって!」


「な……何だって?」


 そう言って部屋に飛び込んできたのはフレイヤ。

 俺は彼女の言葉に思わず席を立ってしまう。


「それでさらに悪いニュースになっちゃうんだけど……あっちの魔王軍に残ってる兵士たちに、竜鱗の甲冑が支給されてるらしいのよ! ねぇ、これってかなりまずいんじゃ……」


「……っ!」


 あの馬鹿元帥たち、何考えてんだ……!

 怒りに任せて拳で机を叩きそうになるが、何とかこらえて寸前で留める。


「フレイヤ、中央に残ってる四天王の部下たちには、竜鱗についての警告は行き渡ってるんだよな?」


「もちろんよ。私たちの内通者であることは伏せつつ、それでもできるだけ竜族には関わるなって、周りに知らせて回らせてるわ。それで、元帥たちにも同じように進言したらしいんだけど……」


「……あの老人たち、無理矢理押し切ったていうのか」


(種族が違う人間の国ですら、きちんとこっちの話を聞いてくれたっていうのに……そこまで浅はかだったとは……)


 彼らのあまりの短慮さに、ため息が出てしまう。

 とはいえ、兵士が流出する現状に焦りを感じ、別ルートで力が手に入るとなれば、そこに飛びついてしまうのもやむなしだろうか。

 ……いや、上の立場に就く者は、そういう落とし穴にはまらないよう、常に冷静でいることが求められる。

 目先の利益にとらわれるだけの三元帥は、はっきり言ってトップの資質はないといっていいだろう。


「ったく……。困った話だな……」


 内部分裂が起ころうと、何よりも優先すべきは共同体の仲間たちであり、いうなればそれは中央の魔族たちも含めた皆の安全。

 同族で争うこと自体が愚かなことなのに、それに乗じた他国からの介入を許すなんて、彼らの行動は軽率以外の何ものでもなかった。


「クロノ、どうしよっか? うちの部下にさせることがあるなら、何でも言ってね。伝えておくから」


「あぁ、ありがとう、フレイヤ。まだ大丈夫だとは思うが……とりあえずは可能な範囲で、竜鱗に触れないよう伝達しておいてくれ」


(しかし、これは……戦いの時期を早めることになりそうだな……)


 俺は口元に手をやり、フレイヤの報告を聞きながら、頭の片隅で今後の方針を練り直すのだった。


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