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人間、追い詰められたら限界超えれる。

「…いやー、やっぱり良い部屋だ。」

 町での買い食いを終えて宿に帰ってきた。部屋は1人一部屋確保されていてかなり豪華な部屋である。これだけでクラリス様の株爆上げである。部屋にはベッド、机、ソファー、簡単な料理が出来そうな調理台、そしてなりより部屋風呂があった。この世界では基本的に一般人は大衆浴場を利用する。家に風呂を持っているのは貴族が殆どだ。なのにこの宿は部屋毎に浴室がある。一泊あたり幾ら取っているんだろうか。…今からの昼食もどんなものが出るか楽しみだ。


『……クククゥ…』

 俺の頭から飛び立った白雪がまくらに突撃する。…何してんの?。俺より早くベッドの感触を確かめるとは良い度胸だ。遅れをとってなるものか!。俺も勢いよくベットに飛び込む。


「…クラヒト、1人は寂し…何してるのよ?。」

 さっき俺が白雪に抱いたのと同じ言葉を部屋に入ってきたシャーリーに投げかけられる。俺は丁度ベットに飛び込む為に空中にいる。最早止めることは出来ない。


「…いらっしゃい。」


「子供なのよ?。」

 ベッドにダイブした後取り繕ったが無駄だったようだ。




「それでなんの用?。」

 ソファーに座り直してシャーリーと向き合う。だが先程の行動を見られてからシャーリーが暖かい目で俺のことを見てくる。


「別に用はないのよ。でも1人だとクラヒトが寂しかと思って来てみたのよ。そしたら案の定寂しさの余りあんな事をしていたのよ。」

 いや、あれは寂しさが原因じゃないんだけど。というか寂しかったらベッドにダイブする人の方が少数派だと思う。


「いや、あれは偶々だよ。俺が日常的に寂しさをあの方法で発散させていると思われるのは心外だな。」


「まぁ、そんな事はどうでも良いのよ。」

 俺の懸命の説明を切って捨てるシャーリー。余りにもぞんざいな扱いじゃないだろうか。その話題を掘り返したのは君だろう?。


「もう少ししたらお昼ご飯なのよ!。それまで時間を潰すのよ!。」


「…そっちの方がどうでも良いんだけど。ってかあんだけ買い食いしたのに昼ごはんそんなに大事?。」


「勿論なのよ。こんなに良い宿だからご飯もきっと凄いのよ!。…いらないならクラヒトの分も食べておいてあげるのよ。」


「待て、俺はシャーリーとアリアさん程食べてない。何故なら俺はちゃんとこの昼食のことを計算していたからだ。」


「…そうなのよ…。」

 なんでそんなに残念そうなの?。まさか本当に俺の分まで食べるつもりだったのか?。…油断も隙もあったもんじゃないな。


「アリアさんは?。」

 俺の部屋に来るよりもアリアさんの部屋の方が近いはず。シャーリーならアリアさんに声をかけないことはないと思うのだが。


「アリアちゃんは知り合いに会いに行ったのよ。一流の冒険者は人脈も武器なのよ。私達が向かうダンジャンについて情報収集を兼ねているって言っていたのよ。」

 流石はアリアさんだ。俺が休み気満々の中情報収集とは…シャーリーとは別に意味で恐れ入るぜ。


「人脈か…俺には無いものだな。」

 今の所手の指の数で足りるぐらいしか親しい人はいないな。…人は本当に信頼できる友が1人いれば良いって誰かが言っていたから気にするな。


「人脈はすぐに出来るものじゃないのよ。寧ろすぐに沢山の人脈が出来たら怪しいのよ。こういうのは積み重ねるものなのよ。」


「分かってるよ。だから俺は今ある人脈を大事にするさ。…シャーリーとかアリアさんとのものをね。」

 なんとなくシャーリーの尻尾を撫でる。最近は白雪に構いっぱなしでシャーリーの尻尾をモフモフしていなかったから体が無意識に求めていたのかもしれない。


「な⁉︎…突然レディの尻尾を撫でるなんて、舐めてるのよ!。」

 シャーリーがプンプン怒りだす。だがそれとは逆に尻尾は俺の手に巻きついてきているんだが…これはどうするべきなんだ?。悩んでいると俺の中の小悪魔がこう囁いた。


『もっとモフれよ。』

 それに対抗して俺の中の大天使がこう言う。


『もっとモフりなさい。なんならついでに耳も…』

 全会一致でモフモフの継続となった。だが単にモフるだけじゃない。毛並みの流れに逆らわぬようにゆっくりと撫でる。すると怒っていたシャーリーが次第にへにゃりと脱力する。ふふふ、俺の技術に骨抜きになったようだな。伊達に最近毎日白雪に撫で撫でを強要されていないぞ。


「…中々…やるのよ。…ん、…これならこれからも…」


『…クゥ?…クゥ‼︎……』

 シャーリーが俺に頭を近づけて来ていた。これはもしや自分から耳を差し出すのか⁉︎と思っていると突然俺の手に触れる感触が変わる。白雪が割って入って来ていたのだ。


「………はっ!。……またあんたなのよ!。今は私が…」

 俺の手の感触がなくなったことに気がついたシャーリー。視線を向けてそこに白雪がいる事に気がつくと再び怒りだす。だが白雪はそんなシャーリーに目もくれず俺に背中を撫でろと催促してくる。


「人の話を聞く時に撫でられるのはルール違反なのよ。」

 ルールってなんだ?。


「クラヒトも手を止めるのよ。私の尻尾とその子龍の背中どっちがいいのよ⁉︎。」

 いかん、シャーリーの怒りがこっちに向いた。しかもなんて質問をぶつけてくるんだ。これは悪魔の問いかけだ。答えなんて…出るわけない。白雪もシャーリーの話に興味が無いふりをしながらも視線はこちらに向けている。板挟みだ。俺のために争わないで!とか言える雰囲気でもない。…どうする、どうするおれ?。


「………な、…撫で撫でフィーバータイムだ!。」

 この日俺は腕が4本になったと錯覚するほど白雪とシャーリーを撫で撫でした。人間追い詰められると限界は超えられる。それを学んだ日だった。

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