出来るときにやる努力
王都からは馬車に乗ってダンジョンが発生した場所の近くの町まで向かう。因みに馬車を引いてくれるのはソーラとイルである。ソーラは俺を見た瞬間駆け寄って来て鬣を擦り付けてきた。イルは俺を無視してアリアさんとシャーリーに挨拶をしている。
『……ブフフフン…』
ソーラが俺の頭の上にいる白雪に気がついたようだ。じっと見つめている。俺の頭の上で白雪もソーラを見つめているんだろう。謎の緊張感が伝わってくる。
『………クゥ…』
無言のやり取りが終わったのかソーラが俺の頭の上から視線を逸らし俺にもう一度鬣を擦り付けるとアリアさんの方へ向かう。
「白雪、なんて話してたんだ?。」
答えが返ってこないのは分かっているがついつい問いかけてしまう。すると白雪は気にするなと言わんばかりに尻尾で俺の後頭部を叩いてきた。特に問題は無さそうなので白雪の言葉通り気にしない事にする。
「ダンジョンまでは大体2日を予定しているわ。ダンジョンの最寄りの町へ到着したらその日は休んで次の日から探索に入る予定よ。」
出発した馬車の中でクラリス様から今回の詳しい行程の説明を受ける。って事は三日後から探索ってことか。
「ならクラヒトは移動中も魔法の訓練を続けると良いのよ。魔法を覚えて暫くは使えば使うほど習熟度が上がっていくのよ。いざという時に少しでも発動が早められるのは大事なのよ。」
シャーリーが俺にそんな事を言う。まぁ、ソーラとイルがいるから道中魔物に襲われる事は早々ないから魔力切れになっても安心ではある。だけど…
「シンプルに魔力切れの状態がしんどいんだよな。意図的にその状態になるには覚悟が必要なわけで…」
魔力切れになると視界は揺れるし頭も割れるように痛くなる。1日経てば回復しているけど俺はドMじゃないから出来れば避けたいものではある。だけどシャーリーの助言は俺のことを考えてくれた上での発言だ。
「出来るときにできる事をしないと後悔するのよ。だからごちゃごちゃ言わずにその子流に魔力を喰わせるのよ。そしてぶくぶく肥えさせればいいのよ。」
…本当に俺の為を思って言ってるんだよね?。白雪を太らせるのが本当の目的じゃないよね?。
「クラヒトは闇属性なのよね。ダンジョンの中では結構使い勝手が良いはずよ。地上に比べて元々視界が良くないし場所も狭い。そこで闇属性の撹乱は有効になると思うわ。」
クラリス様からも魔力の強化を勧められる。こうなっては断ることは出来ない。
「…分かりました。…白雪、いっぱい食べて良いからな。」
俺は白雪に声をかけるとブラインドを発動する。発動と同時ぐらいに白雪が頭から俺の手の上に降りてきて口を開ける。すると出現したブラインドが白雪の口に吸い込まれる。白雪はモグモグと咀嚼する俺の魔法を飲み込んだ。
「…凄いわね。本当に闇属性の魔法を食べるんだ。」
この光景を初めて見たクラリス様が驚きの声をあげる。初めて目にする人には奇妙な光景に映るだろうな。
『…パシパシ!。』
白雪が俺の頭を叩いて食べ終わった合図を送る。今日はいっぱい食べて良いと言ったから遠慮はないようだ。俺は大人しくブラインドを発動して食べさせる。そしてついでにサークルも発動しておく。一瞬俺を中心に知覚が広がる感覚がする。馬車の周りに魔物はいないようだ。ソーラとイルを避けているんだろう。
「…むっ、クラヒトいつの間にサークルを使えるようになっていたんだ?。」
アリアさんは俺がサークルを使ったことに過敏に反応した。アリアさんはダンジョンでの天眼の使用のため今はスキルを使っていないはず。なのに何故?。
「いや、最近なんだけど…分かります?。」
「サークルは発動時に独特の波形が放たれるからな。ある程度魔法の扱いに慣れている者なら発動を知るぐらいは出来る。と言っても発動が分かるぐらいで意味はないがな。ただ同じ闇属性使いならサークルから逆探知が出来ると聞いたことがあるな。」
…成る程、じゃあ闇属性が2人いたらお互いの場所が分かって便利だな。お互いに逆探知すれば良いんだし。
「クラヒトがサークルを使えるなら私の負担も軽減される。頼りにしているぞ。」
アリアさんが嬉しそうな顔をする。アリアさんが常に使っている天眼は発動中常に魔力を消費する。だけど俺がサークルで索敵を代わりに出来ればその分戦闘に魔力を使えるのだ。一団としての戦力で考えればそのメリットは大きい。
「まだそんなに広い範囲は無理ですけどね。それに空中に浮いてる敵は反応しないみたいだし。」
「それでもアリアが休めるのは大切よ。このパーティーの要は前衛後衛どちらも出来て経験値も高いアリアなんですもの。」
「ほら、休まないのよ。兎に角魔力の枯渇に慣れるのよ。」
結局俺は馬車の中で魔力が空になるまで白雪に魔力を食われたのだった。白雪はけろっとしていた。どんだけ大食いなんだ。