民の上に立つ者、民の為に命を張る。
「…ふわぁぁぁ〜…」
欠伸が漏れる。昨日はあの後ギルドに白雪の登録に向かった。忙しそうだったけどサクスベルク家とホーベンス家の威光を活用して?速やかに手続きを終わらせた。…カートさんは白雪の種族名を聞いて訝しげにしていたがまさか伝説の種族とは思わなかったのか特に何も言ってこなかった。まぁ、忙しそうだったから無駄に問題にしたくなかったのかも知れないが。その後ある問題が発生した。白雪が何を食べるのか問題である。卵の時は俺が闇属性の魔法を与えていた。だがこれからも常に与えるのは至難である。そこで白雪に普通の食べ物を与えたところ、…結構なんでも食べました。心配して損した気分になった。
「なぁ、白雪。なんで頭の上?。」
そんな人騒がせな白雪は現在進行形で俺の頭の上にいる。時々動いているのが感じられるから起きてはいるんだろうけど何故かそこから動かない。
「別に軽いからいいけどさ。大きくなったら流石に無理だからな。」
今は四肢を放り出して頭にしがみつく形になっている。今より大きくなったら視界に被ってくる。
「クラヒト早かったのよ。まだ集合時間には早いのに感心なのよ。」
シャーリーがやってくる。その背中にはある程度の荷物を背負っている。食料の心配はいらないとはいえ服や装備の予備などが必要なのだ。一方の俺は剣を装備しているだけで他に荷物はない。
「…やっぱり羨ましいのよ。まさかその子龍が影の倉庫に似た魔法を使えるなんて。冒険者のパートナーとして別格なのよ。」
そうなのだ。白雪は影に潜ることが出来るだけでなくその中に荷物を収納することが出来るのだ。そしてそれは俺もいつでも引き出せる。白雪に名前をつけた時に出現した指輪に魔力を込めるだけでいいのだ。闇属性の中でも汎用性の高い魔法と類似する能力をいきなり使えるようになった。白雪は自分の存在意義を早々に証明したのだった。
「でも入れられるのが現状俺とマーベルさんだけなんだよな。…んー、まだシャーリー達のことをよく知らないからかな。」
俺は置いておいてマーベルさんの所持品を入れることが出来たのには驚いた。恐らく白雪の精神的な面が影響を及ぼしていると思われる。
「…ふんっ!…別にいいのよ。…それより甘やかしすぎなのよ。その子龍は普通に空中に浮かべるのだから自分で移動させるべきなのよ。」
『…………ガシッ!。』
シャーリーが機嫌の悪そうな目で白雪を睨む。昨日から白雪とシャーリーの仲が悪い気がする。白雪が俺の側から離れないことに怒っているようだ。確かに俺だけだと世話を焼きすぎてしまうかもしれない。そう思うのだが白雪はまるでシャーリーに見せつけるように俺の頭を強く抱きしめる。…も、毛根大丈夫だよね?。
「…っ!…中々挑戦的なのよ。いいのよ、今回のダンジョンで私の方が役に立つのをわからせてあげるのよ。」
…ここで俺のために争わないで!とか言うべきか悩んでいるとアリアさんがクラリス様と一緒にやってきた。アリアさんはそれなりの荷物を背負っているがクラリス様は手ぶらだ。亜空間に入れてあるんだろう。
「…お待たせ、アリアから聞いていると思うけど今回は私の空間に食料とかは保存しているの。だから今持っている荷物でもすぐに必要の無いものは預かるわ。」
クラリス様の言葉にシャーリーとアリアさんが背負っている鞄ごと手渡す。2人とも既に装備は身につけていた。鞄を受け取ったクラリス様が手を振ると鞄が消えていた。早い。
「…クラヒトは優秀な眷属を手に入れたそうね。まさか伝説の龍を従えるなんて。」
クラリス様には白雪のことを話しているようだ。いずれローゼリア様には話すつもりだったから問題はない。
「従えてはないですけどね。…俺のことを…どう思ってるんだ?。」
「きっと便利な召使いぐらいに思っているのよ。」
頭の上の白雪に問いかけたのに答えを返してきたのはシャーリーだった。内容も中々に辛辣である。白雪はそんな子じゃないはず。いや、俺が立派に育ててみせる。そして大きくなったら魔物を狩って俺を養ってくれるような優しい子になってくれ。
「そうだ、出発の前に行っておくわ。もし全員が死を覚悟する程の事態が起こった時は私の周りに集まって。5秒だけ空間を展開するわ。その間に私に触れて。そうすれば私の空間に入れる。その中なら大抵の事態はやり過ごせるはずよ。でも長くは入り口を開けておけない。だから…5秒ね。」
出発する前にクラリス様から重要事項を聞かされる。…ずっと隣にいた方がいいだろうか。ご、護衛としてね?。
「このメンバーがいてそんな状況になるとすればそれは確実に国を揺るがす事態のはず。だから…間に合わない者がいても…置いていく。1人を捨てても多勢で生き延びる道を探す。逆にもし私が魔法を使えないような状態になったら遠慮なく捨てて逃げて。父にも伝えてあるから。」
クラリス様の言葉に息を呑む。王族であるクラリス様が命を賭ける。国民にとって脅威になるかもしれないものを自ら調べる。日本の政治家では考えられないことだった。
「そうならないようにこのメンバーを集めたのでしょう。私は自身の役割を全うします。」
アリアさんが力強い発言をする。俺だって同じ気持ちだ。俺の手の届く範囲を護るために同行するんだ。
「…あくまで可能性の話よ。でも最悪を想定するのは為政者の常なの。そうしておけば気持ち的に楽になるのよ。あー、最悪じゃないなって。」
「さ、行きましょう!。…冒険者らしい冒険にね。」