小龍の正体 生まれてきたのは伝承の中に生きるもの
「本当なのよ?。そんなに急に生まれるのよ?。」
シャーリーとアリアさん、そしてマーベルさんを引き連れて俺は部屋に帰ってきた。マーベルさんは退屈していたらしく俺の話を聞くと是非見たいとのことだった。まだ完全に無害だと決まったわけじゃないから大丈夫かなと思ったけどこの家の最強はマーベルさんだと思い出してこちらから同行を願い出た。
「俺だってびっくりしたさ。いきなり生まれてそんで自分の卵の殻を食べて大きくなったんだって。」
「卵の殻…。魔翠玉を食べたのか。王家でも中々手に入れられない代物なのに。クラヒトは中々に剛気だな。」
…あ、そういえばそうだったな。あいつが食べる前に回収すればひと財産築けたかもしれない。…んー、でも魔翠玉自体があいつの物だからな。気にしない方向で行くことにしよう。
「どんな子なのかしら。…あら?…いないわね。」
何故か先頭にいるマーベルさんが部屋のドアを開ける。だが姿が見当たらないようだ。
「え、本当ですか⁉︎。…どっかに行っちゃったのか?。」
マーベルさんの言葉に反応して全員慌てて室内に入る。
「部屋を出る前はそこの鞄にもたれかかって寝てたんだけど。」
その姿はそこにはなかった。
「…取り敢えず部屋の中にはいな………クラヒト!お前の足元!。」
寝相が悪くて転がり落ちてるんじゃないかとべっどの下を覗こうした俺にアリアさんの驚いた声が届く。その声に従い下を見ると小龍が俺の両足の間にいた。
「…いつの間に。ベッドの影になっていたから気づかなかったのか?。」
「この大きさなら普通は気付くのよ。クラヒトの注意力不足なのよ。」
「結構大きいのね。…でも私が入ってきた時そこには居なかったと思うのだけれど。」
「……まさか…。クラヒト、私は少し自室に用がある。戻るまで待っていてくれ。…くれぐれもそのドラゴンから目を離すなよ。」
あ、やっぱりドラゴンなんだ。と思う間もなくアリアさんは走って部屋を出て行ってしまった。その眼が紅くなっていたことだけが分かった。
「待たせたな。少し引っ張り出すのにてこずってしまった。」
10分ぐらいしてアリアさんが戻ってきた。その手には分厚い本が。アリアさんがいない間手持ち無沙汰になった俺たちは普通に椅子に座って小龍について話していた。その間小龍は俺の足にぴったりとくっついている。
「アリアったらいきなり行っちゃうからびっくりしたわよ?。」
「すいません母上。しかし自分の眼で見たことが信じられず確証を得る為に急いだのです。」
「天眼を持っているアリアちゃんが自分の眼を信じられないのはよく分からないのよ。」
シャーリーが俺も思っていた事を言ってくれた。部屋を出る前、アリアさんは天眼を発動していたようだけど一体何を見たんだろうか。
「先程私は部屋に入った瞬間から天眼を発動していた。その段階では確実に部屋にはいなかったのだ。だからみんなに部屋にはいないと伝えようとした。だが次の瞬間そのドラゴンはクラヒトの足元に出現したのだ。」
「瞬間?。」
「あぁ、瞬間だ。この天眼がそのサイズの生物を見落とすことは考えられない。そのドラゴンは一瞬でクラヒトの足元に出現したんだ。害意はないようだったがな。そしてその白い肌。…この段階で私の頭にある魔物の存在が浮かんだのだ。」
そう言うとアリアさんは本をバラバラとめくり始めた。どうやら内容は魔物の図鑑のようだ。所々に書き込みがある事から頻繁に読んでいるようだった。魔物についても調べているなんて勉強熱心なアリアさんらしい。
「最近の私は魔物の中でも竜種について調べることが多い。竜種討伐は私の目標でもあるから。そして調べていく中で竜種の中にもランクが存在する事が分かっている。最も一般的なものは以前クラヒトとシャーリーが討伐したアグナドラゴンのような竜種。これらはその巨躯と膂力が特徴となる。そしてその上には少し小さくなるが知性を持ちまち属性魔法も多用する竜種がある。この竜種を討伐すればSランクの基準となるドラゴンスレイヤーになる事が出来る。」
「この小龍がその竜なの?。」
「…いや、実はまだ上があるのだ。討伐された記録が残っていない竜の中の龍。王龍種と呼ばれる特異個体が。…ほぼ伝承の中にある存在だがその子龍に当てはまる龍がいる。その龍はこの世の影を支配下に置く。自らに出来た影を介しての転移を可能とする神出鬼没の存在。」
…さっきは俺の足元にいた。そこには当然俺の…影がある。そして…撫でようとした時、消えて出てきたのは鞄の隣。そこにも…影があった。
「…思い当たる節があり過ぎる。…え、お前そんなやばい奴だったの?。」
俺は足元で眠っている小龍を見るが…今のところ子犬でしかない。
「…星影龍と言うらしい。あくまで伝承だが…あまりにも似通ったところが多過ぎる。…まさか魔翠玉から生まれるとは。」
名前、かっこ良すぎない?。
「そんなの連れてていいのよ?。」
「恐らく誰にも判断が出来ないから問題はないと思うが…」
「別に何か問題を起こした訳じゃないから構わないわよ。…そんな事よりも撫でてみたいわ。」
マーベルさんが小龍に手を伸ばす。だが小龍は俺の足元から消えて俺の膝の上に出現していた。丁度俺が前屈みになったから胴体で影が出来ていたようだ。
「あら?…私じゃダメみたいね。クラヒト君、大事にしてあげてね。その子に何か文句を言う人がいたら私が…ね。」
小龍を触り損ねたマーベルさんだが特に機嫌を損ねるようなことはなく寧ろ守る気満々だった。ね、と言う一言にここまで恐怖を感じたことはない。
「…地面の影じゃなくても有効なのか。凄まじいな。ローゼリア様の転移に匹敵する。いや、発動までの待機時間を考えるとそれ以上か?。」
「クラヒトの役に立つのなら問題はないのよ。これから知っていけばいいのよ。」
どうやら俺のパートナーになることになった小龍は規格外のようです。