生まれてきた存在
俺が借りている部屋に戻った後明日に備えて装備を確認する。と言っても俺の場合は剣だけなんだが。モリアさんに造ってもらった剣だけが俺の基本装備となる。後は服を数着と念の為のポーション、干し肉、を鞄に入れておく。鞄は腰に付けるタイプで動きの邪魔にならない。
「そんで…お前をどうするかだな。」
俺は手の上に魔翠玉を置き眺める。この魔翠玉は卵な訳だけど俺の魔力を少しづつ吸っている。今回のダンジョンは激戦になる可能性がある以上少しでも消耗は避けたい。でも離れて大丈夫なのか分からないのだ。
『…グラ…グラ…』
俺の掌の上で揺れる魔翠玉。卵だと判明してから一ヶ月あまり経って大分動きが活発になってきている。魔翠玉は何かを訴えかけているようだった。なので俺はいつものようにブラインドを発動して魔力を与える。瞬く間に消える闇。
「本当に大食いだな。でも尚更連れていけないかなー、ソアラさんに事情を話して預かっていてもらうしか…」
流石にこの部屋に放置という訳にはいかないだろう。なので魔法が得意だというソアラさんに預けようか…でもソアラさんの使える属性を知らないし…。
『…ピシッ………』
「…ん?…なんの音だ?。…ラップ音?。…え、ここにきてのラップ音は怖いんだけど。」
ラップ音とは霊的な存在が現れる時に鳴ると言われる音だ。今までこんな音が鳴ったことなかった。この世界では霊とかも普通にいそうだからまじで怖い。真昼間だけど全然失禁もあり得る。
『……ピシッ…ピシシ……バリ…』
さっきより音が激しくなった。なんだ?一体何が霊様の怒りに触れたんだろうか?。
「…避難しよっかな…って……え、待って。魔翠玉が…割れてる‼︎。…う、生まれるのか⁉︎…えーとどうすればいいんだ?。…ひっひっふー…ひっひっふー…ってそれはラマーズ法だろ。俺は妊婦じゃないしそもそも卵だ!。」
テンパり過ぎだろ。目の前にある魔翠玉にはヒビが入り殻が少し机の上に落ちている。
「…誰か呼びに行った方がいいかな。でもその間に生まれたら…。誰もいなかったら不安になるかもしれないし…。ってか先ず何が生まれるんだよ。ヤベー魔人が生まれたらどうしたらいいんだ?。」
ちゃんと教育して人間社会に馴染めるようにしてやらないといけない。処分?そんな可哀想なことできるか!。
『…パキ…パキキ……』
遂に殻が砕け魔翠玉が割れる。
『……………』
「…ど、ドラゴン…?。」
出て来たのは白い肌のドラゴンだった。
「…え、待って。何その色。あんなに闇を食っていたのに白なの?。どういうこと?。」
俺が取り乱している間にも小龍は自分が生まれてきた殻を食べている。するとみるみるサイズが大きくなり最終的に小型犬ぐらいの大きさになった。
「…おぉ、…なんて便利な。…えーと…ブラインド!。」
俺は取り敢えず何をすれば良いか分からなかったのでブラインドを発動する。さっきまでの状態なら大好物だった。
『…………クワ…』
子龍が俺の事をじっと見つめた後闇を食べ始めた。今までは闇が吸われているって感じで味気なかったけど今は食べてるって感じがしてなんか癒される。
(…撫でてみようかな。)
俺は小龍に手を伸ばす。目的地はそのすべすべの背中。今は闇を食べるのに夢中になっているしいけるはず。
「……ん⁉︎…どこ行った⁉︎。」
俺の手は空を掠めた。先程までそこにいたのに小龍は姿を消していたのだ。俺はキョロキョロと辺りを見渡す。すると部屋の中に置いてあるベッドの上にいた。隣にはダンジョンに向かうための装備を詰めた鞄。それに寄りかかるように眠っていた。
「…なんだったんだ今のは。…それに食べてすぐ寝るのか。…でも子供はそういうもんらしいし。…取り敢えずアリアさんとシャーリーを呼びに行こう。」
今起こった不思議な出来事は気になるが俺1人で考えていても仕方ない。俺は頼りになる2人を呼びに部屋を出た。