大食らいは大成すると信じている。
「…ふーーん、この石が卵だったのよ?。全然そうは見えないのよ。」
シャーリーが魔翠玉を眺めながら言う。少し機嫌が悪いがその理由は頬についた線が物語っている。アリアさんやジゼルさん、イベルカさんとの会話に参加できなかった事に対して拗ねているのだ。だが実はその時シャーリーは昼寝をしていたのだ。完全にこっちに非はないので是非機嫌を直してほしい。
「…何が生まれるか楽しみなのよ。私ペットなんて買ったことないから…ちゃんと飼い慣らしてみせるのよ。」
何故かシャーリーが俺よりも気合が入っている。因みにこの世界でのペットとは人に対して害意の少ない魔物など何世代にも渡って改良したものらしい。…元の世界とあまり変わらないな。
「…一応言っとくけど俺のだからな。実際その卵が食ってるのは俺の魔力らしいし。俺に似た勇敢なやつが生まれるといいな。」
「魔力を食べてるのよ?。ならクラヒトに良いことかもしれないのよ。」
「いや、減ってるんだぞ?。それなのに良いことって…」
「魔法は使えば使うほど体の中の回路が太くなるのよ。勿論限界はあるけどクラヒトは日輪レベルの魔法を使うことが出来るのよ。だから当然最大値もあのレベルまでいくのよ。だからガンガン魔力を消費した方がいいのよ。」
まぁ、あれだけの魔法を使える分にはキャパシティがあるってことだよな。だとしたら俺は自分の力を全然生かしきれていないことになるな。この機会に魔法の方も強化しておくことにしよう。
「ふーん、…ブラインド。」
何の気なしにシャーリーに向かってブラインドを発動する。これでシャーリーは視界を奪われることになったはずだ。
「…なんのつもりなのよ?。…っは⁉︎…まさか私の事を…」
「いや、それはないかな。」
「くたばるといいのよ‼︎。」
愉快な勘違いをしかけていたシャーリーに丁寧に否定の言葉を言うと恐ろしい速度で俺の鳩尾に拳が叩き込まれた。
「…ごはっ…なんで…見えてないんじゃ…」
「気配で分かるのよ。目で見ているだけじゃまだまだなのよ。」
そんなの初耳なんですけど。流石に痛い。思わずスキルを使おうかと思ったぐらいだ。
「…もう解けたのよ。効果時間が短すぎなのよ。例え気配で分かるといっても五感のうちの一つが機能しなくなるのは影響があるのよ。だから取り敢えず戦闘中はずっと発動しておける方がいいのよ。」
俺に攻撃しておきながらこの言い草である。まぁ実際俺が100悪いんだけど。
「分かったのよ?。」
「…………はい。」
「それじゃあ私はソアラさんに呼ばれているからもういくのよ。」
「シャーリー、ソアラさんと仲良いよね。」
「優しいし、話をしていても面白いから好きなのよ。私達獣人は生まれながらに魔法を使えないけど興味はあるのよ。」
ソアラさんとシャーリーが一緒にいるのをよく見かける。シャーリーは既にソアラさんに尻尾を触らせるまでに心を開いている。それどころかブラッシングまでお願いしていた。心の広さに定評のある俺でも流石に嫉妬せざるを得ない。
「それに抱っこしてくれる時に煩わしい脂肪の塊が邪魔になることもないのよ。あれこそ完璧な体型なのよ。」
…それはどうなんだ?。確かにソアラさんの胸部は些か寂しいが…。シャーリーの、その胸への敵対心はなんなんだろうか。
「それじゃあいくのよ。また晩ご飯の時に会うのよ。」
「…うーーん、…ブラインド。」
シャーリーが去って暇になった俺は魔翠玉にブラインドを発動する。一瞬は黒いもやみたいなものがかかるがすぐに消えてしまう。ジゼルさんのいった通り食べているみたいだ。
『…コトコト…』
「え、揺れた?。…ひょっとしてもっと欲しいのか?。」
魔翠玉がコトコトと揺れた気がした。俺はもう一度ブラインドを発動する。すると先程よりも早く消えてなくなった。
「…大食いだな。まぁ、まだ魔力に余裕は有るっぽいし…どんどんお食べー。」
俺は次々とブラインドを発動していく。なんだか楽しくなってきた。どれだけ食べれるかな。
「…ま、まじか。…もう発動しない。これが魔力切れってやつか。」
俺は震える手を見ながらそう溢す。
「どんだけ食うんだよ。俺の負けだ。」
既にブラインドは発動しなくなっていた。つまり俺の中にある魔力はすべて吸い尽くされたという事である。
「…これだけ食べといてショボかったらショックだな。頼むぜ、本当。俺自身は弱いから一緒に戦える相棒が欲しいんだ。お前に期待してるからな。」
なんてな、なんで俺は卵に話しかけているんだ。
「さてと、…筋トレするか。」
魔力が空になった俺はついでとばかりに体を鍛えることにする。継続は大事だからな。