嫌な受付嬢、スカッとしたけど大事になった。
「…あ、そう言えば今からギルドに行かないと駄目なのよ。魔族に会ったこと言わないといけないし…何よりあの依頼を査定した奴に一言言いたいことがあるのよ。」
シャーリーの背後に炎が見える。初めはランガル貝十匹って聞いていたのに蓋を開ければ数は五十を超え、更に馬鹿でかい奴もいてその上魔族だもんな。…査定した奴はシャーリーに殺されるかもしれないな。
「何か大事な話があるようですね。では…これをお持ち下さい。無碍に扱われることはなくなるはずです。」
セレナちゃんが服のポケットから扇子を取り出す。ほのかに暖かいそれには綺麗な紋様が刻まれていた。
「それはホーベンス家の家紋で御座います。何かお困りになりましたらお出しください。当家がクラヒト様の後ろ盾になることの証となります。」
…黄門様の印籠みたいなやつだろうか。そんな大事な物をと思ったが断るとセレナちゃんが悲しそうな顔をするのでありがたく受け取らせてもらう。それから俺たちはギルドに向かった。
「…この前の人はいないのよ。仕方ないから空いている所で話を聞くのよ。」
ギルドに到着した俺たちは受付に向かう。最初に来た時に話をした人を探したがいないようだ。まぁ、毎日勤務とかブラック過ぎだし仕方ない。
「…この依頼を終えたのよ。後この依頼について上と話がしたいのよ。」
シャーリーが依頼の書かれた紙を差し出す。
「…お話とはなんでしょうか?。基本的には受付で済ませていただきたいのですが。」
俺たちの担当になった女の人は明らかにめんどくさそうにそう言う。
「この依頼の適性ランクが大きく逸脱していたのよ。その報告がしたいのよ。」
「逸脱ですか…。失礼ですがシャーリー様は復帰したばかり、更にクラヒト様もDランク。身の丈に合わない依頼だったのではないでしょうか。」
シャーリーが出した紙を一目見たその女の人の口から出たのは謝罪の言葉ではなく俺たちを見下したような発言だった。…俺は一瞬何を言っているのか分からずポカンとしたが更にその女の人は続ける。
「ギルドへの依頼の査定は責任を持って行われております。自分達の能力の低さをこちらの責任にしないで下さい。手続きだけしておきますね。」
自分が言いたいことだけ言うとその女の人は奥に引っ込もうとする。だがシャーリーがそれを許さない。
「待つのよ。…冒険者の報告をそんな風に扱うのよ?。王都の受付は程度が低いのよ。」
「…何ですって?。…いい?あんた達冒険者は私達ギルドがあるおかげで依頼を円滑に受けれているの。少し自分達が苦戦したぐらいでぐちぐち言わないで欲しいわ。中央のギルドにも入れない分際で。」
シャーリーの言葉を聞いた女が顔を真っ赤にして捲したてる。だがその声量はかなり大きい。具体的にはギルド内の人全てに聞こえるぐらいだ。
「…おい、あんた達はそんな事思っていたのか。」
「い、いえ違います!。そんな事は…」
「そうだよ、俺たちは中央にも行けない雑魚だ。だがな!俺たちがいなければ細かな依頼はどうなる?。全部見殺しにするのかよ!。」
「お、落ち着いてください!。」
ギルドの中は激昂する冒険者とそれを落ち着かせようとする職員の声で溢れた。はっきり言って大混乱だ。そしてその原因を作った女は、
「あ、あんた達のせいでギルドがめちゃくちゃだわ。この責任は取ってもらうから!。除名処分で足りると思わないことね!。」
完全に責任を転嫁して俺たちを罵倒していた。…こいつ殴っちゃおうかな。女に手をあげる奴は最低だけど…こいつはゴミだろ。シャーリーも俺と同じ意見のようで既に腕には籠手が装備されている。
「静まれ!。…一体何の騒ぎだ。」
ギルド内に声が響く。声がした方向を向くと2人の男性がいた。1人は赤い髪を刈り上げている傷だらけの男。そしてもう1人は俺の知っている顔だった。
「…それが…」
近くにいた受付嬢がその赤髪の男に説明する。ちゃ、ちゃんと説明されているだろうか。何せ説明しているのは受付嬢、つまり目の前の女側だ。こっちに不利になるように説明されている可能性も無きにしもあらず。
「…ふんっ、…お前らがギルドの査定した依頼のランクに文句をつけた奴らか。どれ…」
その男は俺たちの前に来ると依頼の紙を持ち上げ眺める。
「…ここに書いてある内容ならCランクが適正で間違いだろう。…」
男の言葉を聞いた女はほら見た事かとドヤ顔をする。そして、
「そうなのです、マスター。なのにこの冒険者達が私やギルドを侮辱してきたのでつい…思ってもない事を口走ってしまったのです。」
ギルドマスターかよ。そんな女は意気揚々とこちらに責任をなすりつける。…んー、大虎発動したちゃうぞ!。何故か今は使えるし。多分このギルドマスターとあの人の影響だろうけど。
「だそうだが?お前らは除名処分ってことになるな。」
「こちらの言い分を聞かないのよ?。」
「こちらが嘘をつく必要がないからな。」
「…そうかしら?、その依頼を査定したのがその女なら理由になるのよ?。」
「…ふむ…では話だけ聞いてやろう。奥に来い。」
シャーリーの言葉にその可能性に思い当たったのかギルドマスターがそう提案する。
「丁度上と話がしたかったから問題ないのよ。」
「マスター!こんな奴らの話を聞く必要はありません!。それにお客様をお待たせしているではありませんか。」
どうやら俺たちが詳しく話すとおんなにとっては都合が悪いらしい。客人を理由に必死に止めようとする。だが残念だったな。その人は俺の知り合いだ!。ってかユリウスさんだ!。なんでここに?って思ったけど王都の警邏が仕事って言ってたらそれでだろう。
「いえ、構いませんよ。私としても興味深い話ではありますしね。…ついでに言っておきましょう。貴女が先ほどから馬鹿にされているこちらの男性ですが少し前に発生した嵐鬼による街中での暴走を止めた方で、尚且つサクスベルク家とホーベンス家と友誼を結び、自身も騎士の位を持つ。そんな勇敢な男性なんだが。」
「…え、…そ、そんな……。で、でも!それとこれとは話が違います。依頼の査定ミスなんて…」
女はまだ自分の行動が間違っていたことを認めない。今認めれば終わりだから仕方ないけど…見苦しい。
「…魔族が出たのよ。それにランガル貝が50以上、変異個体も確認したのよ。」
それまで黙っていたシャーリーが真実を告げる。静まり返るギルド内。その静寂も一瞬のこと。先程よりも大きな騒ぎになる。そして数人はギルドから駆け出して行った。
「…それは本当ですか?。…本当なら…極秘事項です。」
「だから私達は上にだけ伝えようとしたのよ。でもそこの馬鹿な女のせいで無理だったのよ。伝えないのは国民として嫌だからここで伝えたのよ。」
シャーリーのは完全に女への仕返しだ。女が真面目に取り合わなかったせいで本来極意事項である事が王都中に広がることになった。女の顔面は蒼白だ。
「…証拠は…あるんだよな。」
ギルドマスターも既に殆ど此方の方を信じているようだ。あの顔色の変化を見ていれば当然だが。
「ランガル貝の魔石は拾ってあるのよ。魔族のは…緊急事態だったから…」
「そうか、…だがそれだけでこちらのミスの証拠にはなる。…だが魔族の件は…」
「あ!俺なんか拾ったけどこれって何?。」
シャーリーの言葉で俺は気を失う前にポケットに入れておいた宝石のような物の存在を思い出す。
「…っ、クラヒト君。君はそれが何かわかっていますか?。」
宝石を見たユリウスさんの顔色が変わる。さっきまでも魔族との言葉で緊迫した表情だったけどなんか今は俺の事を見る視線が変わった気がする。
「いえ、…全然。」
「ギルドマスター。この件は王城に報告させていただきます。こんな大事なことを隠滅しようとしたその職員への処罰は追って下されることになります。」
ユリウスさんの言葉を聞いて女はついに倒れてしまった。だが誰も助ける者はいない。…スッキリしたな。
「済まないが君たち2人にはこれから王城へ来てもらう。」
「…拒否権はないのよ?。」
「あぁ、それだけの事態だと受け止めてもらいたい。」
「分かったのよ。…そこの馬鹿女のせいで大事なのよ。」
「いえ、その石を見せられればどの道お呼びすることになっていました。」
「これってそんな凄いものなんですか?。」
「詳しくは王城でお話しします。」
なんだか分からないけど大変なことになってきた。