日輪、天から降る業火
申し訳ありませんが暫く更新は週一回、毎週月曜日になります。よろしくお願いします。
シャーリーが自らに突き立てようとする刃。俺はそれを圧縮された時間の中で見ていた。
(…なんでだ。…なんで…俺は…)
俺を襲うのは酷い後悔。もっと強くならなかった俺自身への怒り。そして…魔族への殺意。思えば俺が殺意を抱いたのは初めてだった。前の魔族の時はなんとかしたいとは思っていたが殺意はなかった。魔物の討伐でもここまでの感情になったことはない。
「…俺は俺の前に立ちはだかるものを…焼き殺す!。」
自然と出たのは天癒の時とは違う祝詞。その瞬間頭の中なかの六芒星が回り今まで使えなかったあの文字が浮かび上がる。
『日輪』
「…シャーリー、やめろ。お前は俺が守る。」
不思議と体から痛みが消えていた。俺はシャーリーが持つ剣を握り叩き折る。
「…クラヒト?。…どうして…」
「…俺は甘ちゃんだ。だからこれまでこの能力は使えなかった。俺に足りてなかったのは他を害してでも自分の成したいことを成す覚悟。…『日輪』!。」
俺が能力の名前を叫ぶ。俺の頭上に何かが集まるのを感じる。
『…貴様、どうやって。…それに何をしている。』
アスラが俺に尋ねるが俺は答えない。俺は日輪の発動だけに意識を傾ける。
「…日輪はこの地上で誰も敵わないあるものの力を借りる能力だ。」
『誰も敵わないだと?。そんなものあるはずがないだろう。戯言を述べるぐらいならさっさと死ぬがいい。』
アスラが俺に向かって風の塊を投げつける。圧縮された風邪の塊はそれだけでこの一帯を破壊できるだろう。だが…俺の日輪は伊達じゃない。
「…知らないのか?。お前の頭上にあるだろ。どれだけ手を伸ばそうと届くことのない圧倒的存在が!。」
俺の言葉にアスラは上を見る。そこにあるのは燃える恒星。俺は溜めていた陽の光を解放する。一直線に降り注ぐは光の柱。本来陽の恵みとして降り注ぐその力を集約させたその火力はアスラの放った風の塊を消し飛ばしアスラの体も業火に包む。
『…これは…!…ぐっ…ぐあぁぁぁぁぁぁぁ‼︎…』
アスラの叫び声が響く。
「…なんなのよこの魔法。…見たことないのよ。」
日輪を目撃したシャーリーは言葉を失っている。そりゃそうだ。この世界では天体に関する知識はそれほど進んでいない。俺がやった事は理解できないだろう。
「集約された太陽の力は辺りを焦土へと変える。だからこそこの力は周囲に人がいる時には使えない。」
集めていた陽の光が尽きる。着弾点の地面は結晶化していて、その中央にアスラが立っていた。
『………貴様………よくも…………』
アスラは黒焦げになりながらもこちらに手を伸ばす。だがその途中で先ず腕が炭化し崩れ落ちる。それに連鎖するように次々と体が炭化、消えていく。
「…俺から大切なものを奪うな。俺の手の届く範囲は守ってみせる。」
『…ぐぎぎ………。………人間、名を聞こう。』
アスラの炭化が止まる。…まさか、押しきれなかったのか!。俺にはもう戦う力は残っていない。今立っていられるのも不思議なくらいだ。
「…俺の名前は玉地蔵人。ちっぽけな冒険者だ。」
『…玉地…蔵人…。その名はしかと刻み込んだぞ。…貴様に…一時の勝利をくれてやる。…』
アスラの体に風が纏わり付く。それによってふわりと浮き上がるアスラ。そして最後に俺に一つ視線を向けるともの凄い速さで遠ざかっていった。そしてその場所には一欠片の宝石のような物が落ちていた。俺はそれを拾いポケットに入れる。何か分からないけど何故かそうした。
「…っ、逃げられたのよ。」
さっきまでアスラがいた場所には攻撃を空振りしたシャーリーがいる。シャーリーはアスラが浮かび上がった瞬間から追撃しようとしていたのだ。
「…シャーリー、あまり…無理をしないでくれ。」
死にかけとはいえあの状態でも攻撃は可能だったかもしれない。シャーリーの行動は俺の肝を冷やした。
「…ごめんなのよ。でも!クラヒトが追い詰めたのを無駄にしたくなかったのよ。」
「分かってる。でも…俺は…ぐっ…⁉︎…」
体に激痛が走る。さっきまで忘れていた全身の傷の痛みだ。俺は立っていることが出来ずにその場に膝をつく。
「クラヒト⁉︎。….なんで、戻らないのよ!。この前は…クラヒトにも効いたのに。」
シャーリーが慌てて俺に駆け寄ってくれる。そして多分スキルを使ったんだろう。アグナドラゴンの時はそれで俺の傷を時間を戻して修復していたから。だけど今回の傷は前とは違う。既に1分経ってしまっている。俺が痛みを忘れていただけなのだ。
「…こうなったら…」
シャーリーは俺にポーションをぶっかけながら包帯を巻いていく。普通は飲むポーションだが傷口にかけられると少しだけ痛みが引いたような気がする。だが…血を失い過ぎたようだ。視界が霞む。
「クラヒト!我慢するのよ!。…絶対に死なせないのよ!。」
シャーリーが俺をおんぶする。その揺れで痛みを感じるがそれでもポーションのおかげか死ぬほど痛いということはない。何より…もう限界だった。俺は静かに目を閉じる。
「…絶対に、絶対に死なせないのよ。1時間で…戻るのよ!。」