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でかい貝、そして災厄。

「鈍った体じゃ危ないから封じていたけど今はそれどころじゃないのよ。緋桜の真の姿を見せてあげるのよ。」

 シャーリーがぶつけた籠手から火花が上がる。…え、ちょっと待って。


「…カッコいい!。なにそれ⁉︎…めっちゃカッコいいじゃん!。厨二心をくすぐる武器だ!。」

 俺のテンションはブチ上がる。だって…カッコいいよね。やはり男は鉄と火薬のシンプルな無骨さに惹かれるものなのだ。


「ちゅうに?…なに言ってるか分からないけど、集中するのよ。敵はもう待てないみたいなのよ。」

 シャーリーに言われて今の状況を思い出す。危ない危ない、今俺は命を賭けている場面だった。ランガル貝がその触手を伸ばしてくる。


「…っ!。…速い!。…それに…重い!。」

 その速度は昼間の奴とは桁違いだった。なんとか

 剣を間に入れて体への直撃は避ける。だが俺はそのまま後ろへと弾き飛ばされる。体勢を崩した俺に更に触手が殺到する。そもそも触手の一本一本が太く強い。俺は早くも手札を切らざるを得ないかと思った。だが、


「しっかりするのよ!。…この手の攻撃は点じゃなくて面で捉えるのよ。常に側面を狙えば威力を半減出来るのよ。」

 俺に迫る触手に横からシャーリーが拳を叩き込む。そして爆発する触手。その触手はそこで断ち切れていた。


「…側面を…。」

 シャーリーの忠告に従い触手の先端の側面に回る。それによって先端という点ではなく長い触手という面の部分が見えた。俺はそこに剣を振り下ろす。


「…斬れた!。…けど…マジかよ。」

 触手は斬れた。だがそれにランガル貝が反応。イソギンチャクみたいに一気に触手の量が増える。


「…これは…不味いのよ。」

 それを見たシャーリーも表情に陰りが見える。今この瞬間も次々伸びてくる触手を躱しながら潰していっている。


「…シャーリー、俺が触手を押さえる。…だからお前のその拳を…叩き込め。」

 俺は決断する。今俺たちが出来る攻撃で多分一番強いのはシャーリーの拳だ。ならその拳を本体に叩き込ませる。その為に俺は、


「…神速発動。」

 神速を発動する。それによってそれまでギリギリでやり過ごしていた触手が止まって見える。俺はまず自分の周りにある触手を片っ端から叩き切っていく。狭い範囲での神速の発動は前の俺だったら無理だった。急加速と急停止の繰り返しに体がついていかないのだ。だがこの世界に来て俺は鍛えられた。今なら…出来る。


「…身を捨てて…穿つ、…最大火力!、なのよ。」

 シャーリーは俺の言葉を信頼してくれたようだ。拳に全神経を集中させてランガル貝に駆ける。ランガル貝の目前でシャーリーが急停止する。そして空手の正拳突きのような構えをとる。当然触手が殺到するが俺が通さない。全て断ち切る。


「…壊れろぉぉぉぉお‼︎。」

 シャーリーの拳が放たれる。足首、膝、腰、肩。全てが完璧に連動したその突きがランガル貝に突き刺さる。そして打撃の瞬間籠手発せられる熱量で空間が歪んで見えていた。


『…ドオォォォォォー…ン…』

 尋常ではない破壊音。俺の視界でシャーリーがふらつく。俺は倒れそうになるシャーリーを抱き抱えその場を離脱する。そろそろ神速が切れる頃だ。時間内に片をつけることが出来てよかった。


「…やってやったのよ。正真正銘私が今出来る最大限の攻撃だったのよ。」

 抱き抱えていたシャーリーがそんな事を言う。シャーリーの籠手からは煙が上がり物凄い熱を放っている。


「熱っ!…取り敢えずその籠手外した方がいいな。…アチチ…手まで火傷してるじゃないか。」

 籠手を外したシャーリーの拳には火傷の痕があった。どうやら言葉通り身を削って攻撃を加えてくれたようだ。


「まだ戦いが終わったとは限らないのよ。だから左手をつけておくのよ。」


「え、でも…あんなになってるよ?。」

 シャーリーの言葉に俺は視線をランガル貝に向ける。ランガル貝のその大きな殻にシャーリーの拳が叩き込まれた穴が空いておりそこから放射状にヒビが広がっていた。所々既に欠けて落ちてきている。はっきり言ってもう生き絶える寸前に見える。俺はシャーリーの手当てに気を向ける。天癒を発動した方がいいだろうか。


「……っ!…危ない!。」

 突然シャーリーがそう叫び俺を押し退ける。俺は何が起こったか全く分からなかった。


「…くっ…まさか…なのよ。…中に……あんなのがいるなんて…」

 俺とランガル貝の間に体を入れる形になったシャーリー。俺が慌ててそちらに視線を向けると目の前には恐ろしい光景が広がっていた。シャーリーの全身から血が噴き出している。更に左手の籠手も砕けてしまっていた。…あれ程の打撃をしても壊れなかった籠手がだ。


「…シャーリー!。くそ…なんなんだよ!。…なんなんだよ!あいつは!。」

 俺はシャーリーを抱き抱える。ぬるりとした感触がこの出血がリアルだと教えてくれる。俺はシャーリーをこんな目に合わせた奴に吠える。


『…ふふっ、五月蝿いですね。人の住まいを壊しておいて。』

 目の前には人型の何かがいた。一見するとその辺の貴族の青年に見えただろう。だが俺の全身の細胞が言っている。目の前にいるのは人外だと。


「…魔族…。」


『人の物を壊したのですから…それなりの代価は支払っていただかないと。…先ずはその獣人の命を頂戴しましょう。その次は…君ですよ。恐怖に歪んだ顔を楽しませてくださいね。』

 魔族が何かを言っている。だが俺の脳には届かない。心の中では湧き立つような怒りが込み上げている。だが…何故か俺は冷静だった。


「…天癒。俺は…俺の大切な者が傷つく事を…認めない。」

 静かに天癒を発動させる。瞬間ひび割れる大地。それだけシャーリーが重傷なのだろう。


『…ほぅ、スキル持ちですか。良いですね、戦闘には向かなそうなスキルですが…』


「…黙れ。」


『…は?、今なんと?。まさか魔族の私に…』


「…黙れと言ったんだ!。」

 それは造匠を発動する。造る刀は既に銘をつけてある。あの日、魔族の襲撃を受けた日からずっと考えていた刀だ。俺はそれを一振りする。この刀が存在できるのは一振りの間だけ。だが、


『…別のスキル?。飛ぶ斬撃ですか。…ですが…っ!。……』

 どんな防御もすり抜ける。そして付けた傷は不治になる。それが俺が今造れる能力で最大だった。


『…貴様…よくも私の体に…!。…何…何故修復しない、…まさか…、まさか、まさか…』

 魔族も気がついたみたいだ。自分の体が治らないってな。怒りに震えろ。


『…殺す!。猶予など与えない!。…即刻殺してやる!。』

 吠える魔族。…ここまでは俺の考えどおりだった。俺はある目的の為一発目で切り札を切り、魔族を怒らせた。


(…シャーリー、安心しろ。)


「俺がお前を守る。」

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