見張りのやり方、敵討ち?。
「美味しいのよ!クラヒトは中々料理も上手いののよ。」
拠点に戻ってきた俺とシャーリーは夕食をとっていた。夕食といっても食材を煮込んで味を整えた物とパン、後は焼いた肉なんだけどシャーリーは喜んで食べている。
「普通冒険者は遠征ではあまり食事には拘らないのよ。だけどクラヒトが食材を持ってきたお陰でちゃんとしたご飯にありつけるのよ。」
まぁ、俺の鞄の中に半分は食材だったからな。後はテント。俺は普通の冒険者よりも身軽に旅が出来る。基本的にはスキル頼みだし普通の装備は片手剣だけだから。シャーリーの鞄の中には薬とか臭い消しとか色々と細々した物が入っていた。その辺は経験の差だと思いたい。
「これでちゃんとしたって…普通どんなの食べてるんだよ。」
「んー、…その辺で採った木の実とか、硬いパンとか干し肉なのよ。味付けなんかもしないのよ。」
ただの地獄。疲れて食べるご飯がそれだと活力が出ないのではないだろうか。
「あと長期の依頼だと狩った魔物の肉なんかも食べたりするのよ。基本的に討伐対象になる魔物の肉は筋張っていて美味しくないけど我慢するのよ。」
…長期の依頼は本当の地獄だな。あ、そういえば、
「なぁ、シャーリー。なんかめっちゃたくさん入る袋みたいなのないのか?。」
魔物の素材を自動的に回収してくれる収集袋はアリアさんが持っていたけど俺が今欲しいのは自分の入れたい物を自由に入れられて中に入れた物を随時出せる、そんなアイテム。特異魔法とかスキルを使えば出来そうなんだが…。
「…あることはあるのよ。でも早々手に入る物じゃないのよ。現にアリアちゃんでもその魔導具は持っていないのよ。」
…実質無理ってわけか。…いや、諦めるな、俺はこの世界では後悔しないように生きると決めたんだろ。強欲になれ、その袋も目標に加えるとしよう。
「買うのに必要なのはお金じゃなくて情報なのよ。その魔道具を作れるのはこの国に1人と言われているのよ。王家ですらその正体が分からず持っている人はその作成者から直接譲り受けている。その魔導具は本人以外が物を入れればただの袋となり、作成者について語ってもダメ。」
「…取り上げてもダメってことね。ならその持ち主達はどうしてるの?。」
「何人かは国に雇われているのよ。多量の物資を運ぶのにそれ以上の適任はいないのよ。でも魔導具を持っている人の決まりで救済の為だけに使うらしいのよ。戦争とかでは使わないらしいのよ。」
その魔導具を持っている人達は中々素晴らしい心を持っているようだ。普通なら国からの依頼だと、ぼったくって私財を蓄えるとかしそうなのにな。…いや、だからこそその魔導具を作った人に選ばれたのか。
「…ま、チャンスがあれば欲しいなぐらいに思っておくか。シャーリー、お代わりたべるか?。」
「食べるのよ!。」
「それじゃあまずは私から見張りをするのよ。と言ってもこの辺にはそんなに強い魔物はいないから大丈夫だと思うのよ。」
晩ご飯を食べた後シャーリーから見張りについて教えてもらった。炎を焚いて明かりを確保する。俺たちの拠点の周りに鈴をつけた紐を張っているから音が鳴ったら直ぐに起こす。見張り中は寝ないようにこまめに体を動かす。
「2人でも交代でキツイのに1人だとヤバいよな。そういう時はどうするんだ?。」
「それぞれが対策を取っているのよ。アリアちゃんだと魔導具でやっているらしいのよ。」
「また魔導具か。魔導具って高いからなぁ。」
「く、クラヒトには私がいるから大丈夫なのよ。そんな魔導具必要ないのよ。」
「…そうだな。それじゃあ先に寝かせてもらうわ。お休み。」
俺はテントの中に入り横になる。体から疲労が溶け出す。天癒で怪我とかは治したけど疲れはとれていない。ぐっすり眠れそうだ。起きれるか不安だけど。
「…クラヒト、クラヒト…起きるのよ。」
俺を呼ぶ声が聞こえる。
「…あれ?シャーリー?なんで…俺の部屋に。…トイレの場所分からなかった?。」
「何を寝ぼけているのよ。…何か気配がするのよ。」
シャーリーの言葉に一気に目が覚める。こういう切り替えの速さは冒険者になって身についたものだな。
「…気配って…どういうこと?。」
「まだ鈴が鳴る範囲まで来てないのよ。でも…感じるのよ。何か…巨大な物が近づいているのよ。」
テントから出て炎で照らされたシャーリーの顔は真剣そのものだった。それだけ確信しているのだろう。
(…もう日付けは変わっているか。…なら足手纏いにはならない筈。)
俺はまず頭の中中に六芒星を思い浮かべる。それぞれの頂点の中に黒くなっているものはない。つまり日付けが変わりリセットされたということだ。
『…ズ…ズズズ……ズサ…。…ズズ…』
何かを引き摺るような音が響く。それと同時に地面の揺れも伝わってくる。確実に何かいる。
「…クラヒト、あんたのスキルは温存なのよ。どんな敵か分かってからじゃないと効果が薄いのよ。」
「分かった。だけど…もしシャーリーが危なくなってら俺は迷わず能力を使う。神速はいつでも発動出来るようにしておく。」
シャーリーのいうことはわかる。俺の能力は1日に一回ずつしか使えない以上無駄打ちは厳禁だ。だからシャーリーが前に出て敵を探るつもりなのだ。俺はシャーリーのその覚悟を無駄にしない。
『…リンッ!。……プッ……』
鈴が鳴りそして糸が切れた。
「…でかい、のよ。…それにこいつは…」
遂に敵が正体を現す。
「…昼間の貝…なのか?。…いや、それにしたって…デカすぎる。」
目の前にはランガル貝。だがそのサイズが桁違いだ。昼間の個体は大体50センチぐらいだった。だけどこいつは…俺3人分よりデカい。
『…キシシシシ…、…キシャァァァァァア‼︎。』
ランガル貝が音を発する。それだけで俺は威圧される。
「…ぐっ…なんて音を…」
「…昼間の違和感の正体はこれだったのよ。こいつがいたから他の魔物に食われずに数を増やしていたのよ。」
「なら俺たちはこいつにとって家族を殺した憎い奴らってことか。…上等だ。」
俺は腰から剣を抜く。モリアさんに打ってもらった剣だ。スキルを温存する以上こいつを抜かないと丸腰になってしまう。
「…私も本気でやるのよ。危ないからクラヒトは私の拳に近づいたらダメなのよ。」
そういう時シャーリーが籠手同士をぶつける。すると籠手から火花が散った。
「これが私の籠手『緋桜』の真の姿なのよ。」