貝を討伐する、聞いてたより数が多いんだけど。
「…さてとそろそろ行くか?。」
「用意は万端なのよ。ぶっ潰してやるのよ。」
俺たちはテントの中で少し休んだ後ランガル貝の討伐を行うことにする。この以上後にすると暗くなる可能性がある。拠点から20分程行くと明らかに地質の違う場所が見える。あれが沼地か。
「沼地での戦いの基本はヒットアンドウェイなのよ。足場が緩いから踏ん張りが効きにくいのよ。だからあまり深追いはしちゃダメなのよ。」
成る程…、足を取られたら命取りだよな。もしそこが底なし沼なんかだったら笑えない。肝に銘じることにする。
「…あれ?でもそれだと魔物が出てこなかったどうする?。何体もやられたらそれこそ引き篭もるだろ。」
「それは大丈夫なのよ。それぞれの種類の好物があるのよ。それを置けば出てくるのよ。沼地は基本的に餌が少ないから魔物も飢えてるのよ。」
そう言いシャーリーが小袋を取り出す。その中に餌が入っているようだ。
「…じゃあ覚悟はいいのよ?。…ぽーい!なのよ。」
その中に手を入れたシャーリーが中から一つの塊を沼地に向かって放り投げる。
「…あ、なんかブクブクいってる。…思ったよりデカい。」
沼地に気泡が浮き出て魔物が出てくる。見た目はオウム貝みたいな感じだ。なんかウジャウジャと触手が動いている。ランガル貝はノソノソと餌に近づいていく。…いけるか?。
「…こい、『破砕』。」
俺は造匠を発動させる。右手に現れる剣。その剣を居合のように腰に構え静かにランガル貝に忍び寄る。あの形状だと横は死角のはず。ある程度近づいた俺は一歩右足を踏み込み下から上に斜めに斬り上げた。
「…硬っ⁉︎、…だけどお前はもう…死んでいる。」
剣が触れた瞬間腕に衝撃が走り痺れたが剣を通して中に伝わったのが分かった。
『…ゴボッ…』
ランガル貝から大量の液体が溢れ出してくる。それと同時に触手は萎れてしまった。
「良い感じなのよ。それじゃあ群が全滅するまで張り切っていくのよ。」
…スパルタ過ぎる。
「うわっ、続々と上がってきてる。これじゃあこっそう一撃大作戦は使えないっ⁉︎。」
新たに陸に上がってきたランガル貝が俺を見るなりその触手を伸ばしてくる。その動きはさっきの餌におびき寄せられた奴のものとは大違いだった。なんとか破砕で断ち切ることに成功する。
「ぼーっしてる暇はないのよ。依頼内容よりも数が多いのよ。ガンガン潰していくのよ。」
シャーリーはその拳を振るいランガル貝に叩き込んでいた。一撃では駄目でも連打で悉く砕いている。…今の連打、目に見えなかったんですけど。
「…取り敢えず…俺の秘密兵器を見よ!。…『ブラインド』!。」
俺は待望の魔法を発動する。実はこっそり練習していたのだ。まだ効果は一瞬だけど移動速度自体は遅いランガル貝には有効だ。シャーリーもそれに気づいたらしく大胆に迫って拳を叩き込んでいく。俺も手当たり次第に破砕で内部破壊を行う。
「これなら…あああ‼︎。…あっぶねぇ。…そういえば使えるって言ってたな。」
ランガル貝が突然水を吹き出したのだ。勢いよく発射されたそれは地面を切り裂きながら迫ってきていた。ギリギリ躱せたけど肝が冷える。
「陸地に上がったランガル貝は一度しか魔法を使えないのよ。でも結構威力は高いから出来るだけ口元の射線に居ない方がいいのよ。」
「その情報最も早く言って欲しかった!。でも視界を潰しといて正解だったな。この数で狙われたら俺ならやばかった。」
今のは適当に撃った魔法が偶々俺の方を向いていただけみたいだ。…ブラインドが解けないうちに倒してしまおう。
「…はぁ、はぁ…終わった?。…疲れたぁー。」
結局出てきたランガル貝は数にして50ぐらいだった。途中からは腕が痺れて一撃じゃ倒せなくなっていた。体には傷も出来てきて軽く血も出ている。これ以上は危なかったかもしれない。
「…ま、まったくなのよ。この依頼を査定したやつは覚えているといいのよ。」
俺と同じように息を乱したシャーリーが悪態をつく。あの連撃を見た俺としては若干可哀想な気がするが甘んじて受け入れてほしい。
「…ふー、…シャーリー、こっちに。」
一息ついた俺はシャーリーを呼び寄せる。シャーリーは怪訝な顔を見せたが大人しく応じてくれた。
「…なんなのよ?…って…きゃ⁉︎…」
こっちにきたシャーリーを抱きしめる。
「い、いきなり…なのよ。…今は…汚いから…」
「天癒。」
シャーリーが何か言っているが構わず天癒を発動する。シャーリーを抱きしめたのは範囲を限定するため。下手に広げて生き残ったランガル貝に作用するのは避けたい。自然の力を徴収して傷が癒えていく。
「…え、あ、…天癒なのよ。…びっくりしたのよ。」
「よし、これで傷も治った。疲れたし…拠点に戻ろうぜ。」
「…そうするのよ。」
こうして俺の初の遠征はなんとかやり遂げた。