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報酬はお勧めの料理屋で。

「クラヒト君!君には本当に感謝している!。娘に希望を与えてくれてありがとう!。」

 セレナちゃんに連れられ俺は最初に案内された応接室に通される。そこでは待っていましたと言わんばかりカリヤさんが待ち構えていた。俺はカリヤさんに熱い抱擁を受ける。…ちょ、今意識を取り戻したばかりだから…キツイ。


「あなた、落ち着いてください。クラヒト様は今お目覚めになったばかりなのです。セレナの為に自らの体力まで使ってくださったのですよ。」

 シリアさんがカリヤを止めてくれる。解放された俺は少しふらついたがセレナちゃんが腰を抱いて支えてくれた。


「あ、あぁ、そうだったな。すまないクラヒト君。どうも我を忘れてしまったみたいだ。お恥ずかしいところをお見せした。」

 すぐに我を取り戻したカリヤさんが謝罪してくれる。


「いえ、全然気にしてませんよ。」

 これは本心だ。だって俺に抱擁したカリヤさんは少し震えていたんだ。それにカリヤさんもシリアさんもターニャちゃんも眼が赤い。多分いっぱい泣いたんだろう。


「ささ、座ってくれ。治癒師の話では普通ではあり得ないほど体中のエネルギーが枯渇していると聞いた。是非食べて欲しいものがある。」

 俺は勧められるがままにソファーに着席する。俺の隣にはセレナちゃんと何故かターニャちゃんもいた。セレナちゃんはわかる。俺を支えてくれていたからそのまま流れで隣に座ったんだろう。でもターニャちゃんは明らかに俺が座ってから隣にやってきた。なんならスペースをこじ開けて座ってきた。


「お姉様を助けてくれてありがとうです。……クラヒトお兄様って呼んでも良いですか?。」

 ターニャちゃんがそんな事を言う。答えは決まっている。


「勿論、構わないよ。でもお兄様はちょっと固いかなぁ。…お兄ちゃんでどう?。」

 幼女のお願いを断れる人間がいるだろうか、いやいない。


「はい、分かりました!クラヒトお兄ちゃん。」

 …なんだろう、心がムズムズする。これが父性というやつなのだろうか。ミリアちゃんといい、俺はロリコンではない筈だから父性に違いない。


「これはロイヤルビーという魔物から取れる蜜を使ったお菓子です。それと妖精の寝床の葉から抽出した紅茶。2つとも体力の回復に抜群の効果のある食べ物なんです。」

 メイドさんが俺の前に盆を置く。そこには透明な飴のようなものと湯気が出る紅茶が乗せられていた。言葉に甘えて一口いただく。


「…あ、美味しい。…それに…染み渡る。」

 一口食べると甘味が口いっぱいに広がる。そして体の中にエネルギーが染み渡るのを感じる。凄い食べ物だ。そして紅茶はそのエネルギーの循環を滑らかにしてくれている。妖精の寝床というワードが気にかかるがありがたくいただいておいた。


「クラヒト様、大分顔色が戻られましたわ。」

 隣に座るセレナちゃんがそう言う。なんか体がポカポカしてきた。


「…それじゃあ改めて礼を言わせてもらおう。クラヒト君、セレナの病を治してくれてありがとう。この恩は一生涯忘れない。もし、君が何か厄介ごとに巻き込まれたら言ってくれ。ホーベンス家が君の後ろ盾になる。」

 カリヤさんが居住まいを正し頭を下げてくる。


「それと望むものを言ってほしい。我が家の伝手を使い必ず用意する。」


「いや、俺はそんなつもりでセレナさんを助けたわけじゃないんで…。」


「だが…、…礼をしなかったとあれば我が家の恥になってしまう。」

 俺としては何かあった時に後ろ盾になってくれるだけで十分なのだが貴族的には違うらしい。


「それなら美味しいご飯屋さんを教えて欲しいです。俺、食べるのが好きなんで。シャーリーもああ見えてたくさん食べるし、味に煩いんですよね。」

 王都ではまだ飲食店の開拓が進んでいない。是非とも美味しい店を教えて欲しい。


「…本当に欲がないんだな。殿下に聞いていた通りだ。」

 カリヤさんが呟く。…殿下?。


「君のことはローゼリア殿下から聞いていたんだ。面白い男の子と会ったってね。本来なら子爵の位を与えられ程の功績を残したのに最低限の騎士としての位だけを貰ったらしいね。」

 …あー、あの時か。騎士の位を貰った後子爵までなら叙位出来るって言われたんだよな。でも騎士の位さえあれば問題ないから断ったんだ。それにあの功績を俺だけが受け取るのは違う気がしたし。


「…まぁ、凄い。一代で子爵位に叙位となると何をしたのかしら?。」

 シリアさんの興味を引いたようだ。元魔導師としてはその意味が分かるんだろう。


「言ってもいいかな?。」

 カリヤさんが尋ねてくる。もし俺が嫌だと言ったら説明を終えてくれるんだろう。でも…別に隠すようなことじゃないしこの家の人達なら無闇に言いふらすことはないだろう。俺は頷いておく。


「コーラルの街に現れた魔族を撃退したそうだ。一人で1000の魔物を斬り裂き、目にも止まらぬ速さで魔族を攻撃、癒しの力でアリア嬢を助けて援軍が到着するまで街を守ったんだって。ローゼリア様が彼がいなければ我が国は優秀な冒険者達の多くを失うことになっていたと仰っていた。」

 おっとこの言い方だと少し内容が違っている。訂正しないと。


「俺がスキルを使えるようになったのは最後だけです。それまではコーラルの冒険者達が死ぬ気で街を守ってくれていた。俺だけが街を守った訳じゃないですよ。寧ろ彼らがいなかったら俺も死んでた。だから俺は子爵も断りました。」


「…あれほどの治癒の力を持ちながら戦闘系のスキルもお持ちなのですね。」


「お兄ちゃん、強いの?。」


「ううん、まだ俺はそんなに強くないよ。でも強くなりたいからここに来たんだ。」


「お兄ちゃん、かっこいい!。」


「…わ、私も素敵だと思います。」

 ターニャちゃんは思い切り、セレナちゃんは遠慮気味に俺に体を預けてくる。


「実を言うと君が例え我が家の爵位を望んでも差し出すつもりだったんだ。それでセレナの命が助かるなら安いものだと思っていたしね。」


「だが君は…セレナの命を無私の心で救ってくれた。そんな君を私も気に入ったよ。…君からの依頼は引き受けた。この王都でお気に入りの店をいくつか紹介する。そして…君と仲間の飲食代は我が家が持つ。それぐらいはさせて欲しい。」


「…えーと、じゃあそれでお願いします。」

 カリヤさんの提案はこちらとしても嬉しいことなので有り難く受け取らせてもらう。これで話はひと段落したかな。あとは帰るだけ、と思っていると


「…お兄ちゃん、また来てくれる?。」

 ターニャちゃんが寂しそうにそう言った。俺の服をツイツイと引っ張っている。


「こら、ターニャ。クラヒト様は忙しいから。」

 そのターニャちゃんをセレナちゃんが嗜める。でもセレナちゃんも俺の服を掴んでいる。俺としては気に入られているのは悪い気はしない。たまに遊ぶくらいなら問題はないんだけどこれは俺だけの問題じゃない。カリヤさんの許可がないと。


「…私からもお願いしたい、クラヒト君。ターニャとセレナと仲良くしてやってくれないか?。2人とも君を好いているようだからね。」

 と逆にお願いされた。なら問題ないな。


「わかりました。…本業が冒険者なので不定期になりますが時間が出来たらこちらに寄らせていただきます。」

 俺がそう言った時ターニャちゃんとセレナちゃんが笑顔になった。

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