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なんでもない日常への奇跡

「……うっ…。…あ、そっか俺気絶したのか。…何日ぐらい経っているのか。」

 俺が目を開けると見たことのない部屋に寝かされていた。サクスベルク邸に借りている部屋でもないし…此処はどこだ?。それに倒れてからどれぐらい経ったのか気になる。俺はモゾモゾと上体を起こしながら考える。気絶経験豊富な俺の私見とすれば…そんなに経ってないな。空腹具合がそう言ってる。…喉渇いたな。


「クラヒト目を覚ましたのよ?。あんたはいっつも気絶するのをやめた方がいいのよ。頑張りすぎなのよ。普通は気絶する前に躊躇うものなのよ。」

 部屋に入ってきたシャーリーが開口一番小言をくれる。でも俺には分かっている。これはシャーリー流の「心配してたんだからね。」アピールだと。


「…気絶してどれくらい経った?。」


「冷静すぎるのよ。…たっく…、気絶してから1時間ぐらいなのよ。侯爵様が治癒師を呼んでくれたから回復が早くなったのよ。全く…いきなりアリアちゃんが飛び出した時はびっくりしたのよ。」


「ごめん、ごめん。最後の最後で俺の体力を突っ込むしかなかったんだ。ってそうだ!セレナちゃんは?。…ちゃんと治ってたか?。」


「…今治癒師が看てるのよ。でも多分…大丈夫だと思うのよ。」

 シャーリーの言葉を聞き安心する。気絶する前に痣が消えたのは見えた。だけど本当に消し切れたかは分からなかったから。またやる事になったらあの痛みを繰り返す事になる。シンプルにごめん被りたいしセレナちゃんへの負担がデカすぎる。


「…噂をすればなのよ。まだ気が動転してるから優しくしてあげるのよ。」

 シャーリーの耳がピクピク動いたかと思うとそんな言葉を残して部屋を出て行ってしまう。…しまったな、出て行く前に飲み物を頼みたかったのに。


「…あの、…失礼します。」

 なんて思っているとおずおずとセレナちゃんが入ってくる。声が小さいのは俺がまだ寝てる可能性があったからだろう。うん、良い気遣いだ。


「…あ、お目覚めになられていたのですね。クラヒト様、…この度は本当にありがとうございました。」

 俺が上体を起こしていることを確認したセレナちゃんはベットに近づき頭を下げてくる。


「…いやいや、俺がした事はきっかけを作っただけだよ。あの痛みに耐えたのはセレナちゃんだ。それに今まで諦めずに生きてきたのもね。」


「…ぐすっ…正直申し上げますと、完全に治癒するとは思っておりませんでした。これまで幾人もの治療を受けてきましたから。本当に痣が後退しただけで奇跡だったのです。…ですから…まだ信じられません。…その…ご覧になってください。」

 セレナちゃんが勢いよく服をめくり上げる。そして露わになる腹部。そこには痣があった形跡も残っておらず綺麗な状態だった。


「…あ、あまりまじまじとは…。」

 痣が残っていないかつぶさに観察しているとセレナちゃんが顔を真っ赤にしながらそう訴えかけてくる。状況を整理しよう。室内には男性21歳と少女13歳。少女はお腹を露出させ男性がそれを観察。顔を羞恥に染めた少女がやめるよう懇願している。うむ、…誰かに見られれば社会的死は免れない。俺は慌ててセレナちゃんに腹を仕舞うよう伝える。


「…私自身初めてだったのです。物心ついた時から痣はお腹にありましたから。」

 セレナちゃんがお腹を撫でながら言う。先天性って言ってたもんな。なんでもないはずの当然がセレナちゃんにとっては奇跡だったんだ。


「それとクラヒト様にはもう一つ感謝しなければいけません。」


「…ん?…もう一つ?。」

 なんだろうか。既に病気を治したことは礼を言われたけど。


「…実は魔法を使えるようになったんです。治癒師の方が私は普通の人よりも魔力が多いって。…だから私は…夢を叶えることが出来るんです。」

 セレナちゃんの夢。これまでは病気のせいで叶う見込みがなかったそれは今はしっかりと願うことが出来る。努力することが出来る。今まで我慢し続けてきたこの子なら絶対に夢を叶えるだろう。


「…そっか。…そりゃ良かった。…なら俺との約束を果たせる日も近いかもね。」


「はい!…お母様も私に魔法の適性があると知って…大変喜んでくれています。これからはお母様に師事し立派な魔導師を目指します。」

 セレナちゃんが今日一番の笑顔を見せる。これまで周りの為に自分を騙し偽りの笑顔を浮かべていた少女の心からの笑顔はとても眩しかった。その笑顔だけで俺は報われた。

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