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ホーベンス邸にて、娘を想う父と出会う

 セレナさんの訪問のあった翌日。本当なら冒険者稼業を再開しようと思っていた日。俺は立派な邸宅の前に来ていた。付き添いはアリアさんとシャーリー。どうやら迷子になった件で俺の信用は失墜したらしく暫く1人での外出は禁じられてしまった。まぁ、今日に関しては元々ついてきてもらうつもりだったが。だって…


「…クラヒト、その顔はなんなのよ。昨日の勇ましさはどこに行ったのよ。」


「だって…アリアさんの家ですると思うだろ。それが…セレナさんの家でだなんて。緊張するよ、俺が人見知りなのシャーリーなら知ってるだろ。」

 もし今日1人で来ていたら途中でお腹を壊していただろう。緊張で。だっていきなり招待されたんだぞ、侯爵様に。アリアさんの家族はまだ辛うじていけたが昨日初対面の人の家族って。それはもう他人じゃん。アリアさんの家は広いし庭も立派だから少し力を借りようかと思っていたのに。…いや、待てよ、あの立派な庭から生命力を借りて花が枯れるような事があれば…マーベルさんに殺されるかもしれない。


「ねぇ、アリアさん。セレナさんの家族ってどんな人?。いきなり男が行ってぶん殴られない?。」

 まだ貴族というものが分かってないけど…俺みたいな奴が貴族の令嬢に近づいて大丈夫だろうか。父親から一発ぐらい殴られるかもしれない。…一発ですむかな。


「心配しすぎだ。ホーベンス侯爵は身分によって差別などなされない立派なお方だ。それにセレナ様を心から愛していらっしゃる。そのセレナ様を救うかもしれないクラヒトを無下に扱うはずがない。それに…忘れているようだがお前だって位でいえば貴族なんだぞ?。」


「…え、…あ!あー、そう言えば…前にローゼリア様から…貰ったな。…なんでしたっけ。」


「…はぁ…騎士だ。貴族位としては最下位だが、れっきとした貴族なんだ。それにその騎士のくらいを授けたのは王家の方だ。功績もちゃんとある。お前が心配するような事が起こるはずがない。」

 すっかり忘れていた。何せ魔族との初めての戦いだったしスキルも初使用だしで色々情報が多すぎたんだ。決して俺が馬鹿だからじゃない。


「お待ちしておりました。どうぞ中へ。」

 なんて話をしていると大きな門が開き中からメイドさんが出てくる。屋敷の庭にはメイドさんと執事さんがずらっと並んでいた。いや、皆さん自分の仕事をしてください。と言いたかったが怖いのでやめた。


「…歓迎されているのよ。それだけ侯爵様がクラヒトに期待しているってことなのよ。しっかりやるのよ?。」


「しっかりやるって言われても……環境は大丈夫っぽい。これだけ木とか芝があれば。あ、でも池の中の魚は避難させといた方がいいかもです。」

 シャーリーの言葉に気が重くなるが俺は自分の役目を果たす為、天癒を使う場となるホーベンス邸を見て回る。俺の後ろにはメイドさんが何人か着いて来ていたのでその人にそう告げる。メイドさんは特に質問もせずに魚の避難に取り掛かってくれた。どうやら俺のスキルのことはみんな知っているっぽい。


「…あとは…俺がスキルを使う時は離れてください。具体的には…どれくらいだろ。」

 うーん、…アリアさんを治した時は半径5メートルぐらいの地面がひび割れて草が萎れていた。アグナドラゴンと戦っている時のシャーリーを治す時は3メートルぐらいか。多分天癒は治す対象の状態の悪さに応じて徴収する範囲が決まる。問題はセレナさんの現在の状態。それを確認しないことには決めかねる。そう伝えると、とりあえず使用人は全員建物の中に入っておくと言われた。


「なら大丈夫かな。あとは俺の能力次第ってことかぁ。…頑張ろ。」

 これで言い訳は出来ない。俺は自分の出来ることをやり切るんだ。そう決意した。


「…確認終わったのよ?。なら先ずは挨拶に行くのよ。」


「そもそも先に挨拶を済ませるべきだったのだがな。まぁ、お前の我儘ということで見逃されているんだろう。」

 え、俺いきなりマナー違反してんの?。印象最悪じゃない?。誰も止めてくれなかったよね。


「ご主人様よりクラヒト様の要望には応えるようにと仰せつかっております。また、貴重なスキルを使用して頂くのですから懸念を晴らしていただくのは当然。挨拶が遅れることなど些事と考えます。」

 俺についてくれている執事さんがそう答える。いや、些事って。…この人偉い人なんだろうか。


「そうですか、それなら良かったです。でもあまり待たせるのも良くないので挨拶にいきましょう。なるべく早く楽にしてあげたいですから。」

 いくら容認されていると言っても印象は大事だ。それにもうするべきことはない。それなら早く試して少しでも楽にしてあげたい。自分に迫る死が形として見えるなんて精神的負担が半端ないだろうし。俺がそう言うと執事さんは畏まりましたと頭を下げたあと俺たちを屋敷に案内してくれる。


「おぉ、貴方が…クラヒト殿ですか!。初めまして、セレナの父、カリヤ・ホーベンスです。本日はわざわざご足労頂き誠にありがとうございます。」

 屋敷の入り口には壮年の男性が立っていた。もしかしてと思うと自分から名乗ってくれる。やはりセレナさんの父親だった。


「どうぞ、中へ。…娘のことをどうかお願いいたします。」

 そして中へと自分でドアを開けて招き入れてくれるが我慢しきれないように俺の手を両手で握り込む。そして懇願するようにそんな言葉を吐いた。その言葉には僅かな可能性にでも縋りたいという想いが感じられる。だから俺はその両手を包み返す。


「俺に出来ることを全て尽くします。」

 可能性では終わらせない。絶対に成果を残してみせる。

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