フィーネの正体、マジヤバな破綻者
「…成る程…つまりクラヒト君はサクスベルク家に世話になっている冒険者で散歩中迷子になっていたと。その時突然フィーネ・キリシアと名乗る女性から襲撃を受けたということで良いですね。」
街中でいきなり戦闘に突入した俺。なんとか無事に済んだが俺に絡んできた奴が何処かへ姿をくらましたので俺が状況を説明することになった。この歳で迷子になったと言うのは恥ずかしかったが仕方ない。
「…いやぁ、悪いね。君が被害者側である事は分かっているんだ。多くの目撃者もいるし、侯爵様のご令嬢が証言者として名乗り出てくれているからね。…君は侯爵家とも繋がりがあるのかい?。」
俺の事情聴取を担当してくれた兵士さんがそんな事を言う。この人は兵士の中でも結構上の方の人で名前をユリウスさんという。みんなから敬礼されていた。服装も少し豪華であれかもしれない、王国騎士団みたいな。でも…はて?…俺の王都での知り合いと言えばアリアさん達サクスベルク家の人達とジゼルさん、イベルカさんだけなんだが。俺が心当たりがないと伝えると
「君が保護していた少女だよ。セレナ様は侯爵家の子なんだ。どうやら君に恩を感じているらしいね。」
ということらしい。
「あ、あの時の子か。…怪我とか大丈夫でした?。」
「それはクラヒト君が治したんだろ?。セレナ様は君のことを案じていた。だから証言を買って出てくれたんだ。そのおかげというわけでもないが君に疑いはかかっていない。ただそのフィーネという人物だけは特定しないとね。」
本当にすぐさま特定してほしい。スキルが発動している時はなんか勇気が湧いてくるから最後にやり返したけどシンプルにやばすぎるだろ。野放しにしていい人格じゃないと思う。
「そのフィーネとやらの名前以外の特徴は?。」
「えーと、めっちゃ美人でした。髪も肌も白くて目だけ赤色で。魔法…いや、スキルかな、植物を操る能力で…」
「なんだって⁉︎。」
俺が植物を操ると言った瞬間ユリウスさんが顔色を変える。
「え、…俺何かやばいこと言いました?。」
「本当に植物を操っていたんだね?。」
「は、はい。腕に植物を生やしたり、何もない所から植物を生やしたりしてたんで。」
「…おい!今すぐ冒険者ギルドに行って嵐鬼の書類を持って来い。あぁ、俺の名前を使って良い。高ランク冒険者によって王都の治安が乱された可能性がある。」
ユリウスさんは近くにいた兵士に命じて色々とさせている。なんだか一気に物事が動いたみたいだ。…って嵐鬼?…どこかで聞いた覚えが…。
「クラヒト君、君は嵐鬼と戦闘をして人々を守ってくれたのか。…改めて礼を言わせてくれ。…感謝する。」
ユリウスさんがおらに深く頭を下げる。それに習って周りの兵士も頭を下げてくる。おれは状況が飲み込めない。
「…え、あの、頭をあげてください。一体何が…」
「君の証言によって話が変わったのだ。これまでは冒険者同士の諍い…ぐらいだった。街の人々の命にまで危害が及ぶレベルではないと考えていた。だが…嵐鬼が相手なら話は別だ。…奴なら無感情に人々を殺していた可能性がある。人が死ぬことが実際に有り得たのだ。君はそれを防いでくれた。」
どうやら俺が戦ったフィーネは既にマークされている人物らしい。…でも名前を言った時はそんな反応じゃなかった。寧ろ誰だか分からない感じだったのに。
「俺は不勉強なので…その嵐鬼っていうのは…」
「1人の冒険者の二つ名だよ。特徴は常に体全体を覆うローブを被っていること。…そして植物魔法をアースハイドでただ1人扱うことが出来ること。」
…思い出した。コーラルでアリアさんとシャーリーから嵐鬼について聞いたんだ。
「…確か…特記戦力、ですよね。」
「あぁ、そうだ。史上最速でAランクに登った冒険者。だがその本質はあまりにも自己中心的。自分以外への配慮など一切ない、狂人。特記でなければ…死罪になっていてもおかしくはない。」
ユリウスさんが苦々しい表情でフィーネの情報を教えてくれる。名前を言っても身体的特徴を言っても直ぐに分からなかったのは顔を見せないし、二つ名が有名すぎて本名を誰も知らないからだったのか。
「…お待たせしました!。こちら嵐鬼の登録表です。」
使いに出ていた兵士が戻ってくる。その手には一枚の紙。そこにフィーネのことが書かれているんだろう。
「…っ…フィーネ・キリシア。…私とした事が二つ名だけしか確認していなかったとは。…伝令だ!今容疑者を追っている者は直ちに追跡を中止。この件は王国騎士団が引き継ぐ。直ちに伝えろ、下手をすれば無駄に命を散らすことになる。そんな事は私が許さない。」
書類を見て確証を取れたのだろう。ユリウスさんが兵士に追跡の中止を伝える。身元が分かった以上無駄な追跡は寧ろ兵士達を危険に晒す事になる。多分その判断は正しいと思う。
「…ふぅ…国王に進言せねばなるまい。嵐鬼は確かに強い。単身で龍殺しを為せるその強さは重要だ。だが…あまりに精神が破綻している。」
龍殺し!。…多分それが特記に選ばれている理由なんだろうな。…ってか俺、良く生きてたな。
「…なんで俺って殺されなかったんだろ。多分殺そうと思えば俺なんて…」
「それは恐らく嵐鬼の琴線に触れたのでしょう。あの者は自分の興味が惹かれた者に執着する。クラヒト君の潜在能力を嗅ぎ分けたのかもしれない。」
全く嬉しくない情報ありがとうございます!。何その究極のヤンデレみたいなの。
「…うん?なんだ?…あぁ、…分かった。…クラヒト君、君にお迎えが来たようだ。今日はもう返ってもらって構わない。だけどもしかしたらまた話を聞くことになるかもしれないがその時はよろしくお願いするよ。」
兵士が部屋に入ってきてユリウスさんに耳打ちする。どうやら俺が迷子だから誰かに連絡していてくれたらしい。…迷子だったこと思い出して恥ずかしい。
「えぇ、それは構いませんよ。…その時はえーとどうすればいいんですか?。」
「恐らく遣いの者をやることになると思います。あ、そうですね。私とした事が名乗っただけで所属も言っていませんでした。私は王国騎士団副団長兼第二部隊隊長の役職についています。第二部隊は主に王都内での警邏を担当する部隊となっています。何か困りごとがありましたら私の名前を兵に言ってもらえれば融通が効くとおもいます。」
…偉い人だとは思っていたけど想像の3倍ぐらい偉い人だったな。…副団長ってことはアリアさんのお兄さんと同じ役職だ。その事を言うと騎士団には3人の副団長がいてそれぞれ部隊を統括しているそうだ。…て事はこの人も強いんだろうな。
「それでは…この件とは別でまたお会いしたいですね。」
最後に握手を交わしユリウスさんと別れた。因みに迎えに来ていたのはマーベルさんで俺は土下座する勢いで謝罪するのだった。