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ヤバい奴と出会った、だけど許せないことは許せない。

「アリアさんは王城に行ってるしシャーリーも説明した後どっか行っちゃったし…退屈だな。魔法の練習でもするべきか?。」


「…いや、散歩しよ。折角王都に来てるのに俺引き篭りすぎだろ。それじゃあいつまで経ってもシティーボーイになれない。」

 明日から冒険者稼業に戻ることになるし開き直って今日はゆっくり散策をすることにする。実際王都についてからはアリアさんと昼食を食べに行った時以外この家を出ていない。全く知らない土地なので若干の不安はあるが俺も立派な21歳。迷子になんかなるはずない。俺はサクスベルク家のメイドさんに散歩に出かけることを伝えると意気揚々と散策に出かけた。






「…ここ…どこ?。」

 1時間前の自分を殴り飛ばしたい。何故お前は一人で見知らぬ土地の散策なんかしたんだ。ぼっちのお前には向いていないことぐらい分かっていただろ。あと心配したメイドさんが1人付き合いましょうか?と聞いてくれた時何でカッコつけたんだ。何が『大丈夫です、土地勘はあるので』だよ。今の惨状を見ろ!。持ち金なし、ギルドカードなし、迷子、よく知らない土地でやっていけない事の役満だ。


「…確か王都の中心は王城で…中心に行くに従って偉くなっていく。アリアさんの家は伯爵家だから…ってそれだけじゃ何もわからない!。」

 王城からの大体の距離は分かるけどそんなの円周全部を回らないといけないし現実的じゃない。あてもなく彷徨う俺。もしショッピングセンターとかならこんなアナウンスが流れるんだろう。


『迷子のお知らせです。玉地蔵人君と仰る21歳の青年が仲間をお待ちです。心当たりのある方は王都、冒険者ギルドまでお越し下さい。』

 …恥死するかもしれない。


「…仕方ない。こうなったら…神速で一気に街中を駆け回るしか…」

 俺のスキルもこんな使い方をされるとは思っていなかっただろう。だが代償の代わりに使用制限のないこのスキルは今の状況を打破するのに最適だ。後でシャーリーにエグいぐらいお小言を言われるだろうが甘んじて受け止めよう。


(…廻れ…神速!。)

 次の瞬間俺の視界は激変する。流れるように過ぎ去る景色。


(…取り敢えず一度中心に近づこう。)

 王城付近から順番に回っていく足で稼ぐ刑事のような戦法を採用。一気に中心へ向かう。


(…あれが王城の城門か。なら…この辺で…)

 眼前に大きな門が見えてその周囲を高い壁が覆っている。間違いなく王城に到達した。それを見た俺は方向転換して外周を回ろうとする。


(この辺は大きい家が大きい。いや、アリアさんの家も大きいんだけどこの辺は更にって感じだ。公爵とかが住んでるのか?。)

 と考えているとこっちに向かって歩いてくる人?がいた。まだまだ先だが俺の今の速度なら一瞬だ。だからこっちが進路を変えないといけない。あんなに長いフードを被っていたら前が身いないだろうし。俺は左を走っていたのを少し右にずれる。これでぶつかる事はない。そう思ってその人の事は意識から消していた。だがそんな俺の背筋に悪寒が走る。


「…面白いわ。凄い速度…」

 言葉が聞こえる。…待ってくれ。俺は今神速を使っている最中だぞ⁉︎。それなのに聞き取れる言葉。俺はギョッと声のした前方を見る。するとフードに隠れていた顔が現れ、その人物と目が合っていた。


(…嘘だろ…アリアさんでさえ目では追えなかったのに…)

 先程の言葉が聞き間違えでは無かったことを理解した俺はその人物の異常さにも気がついた。


「素通りなんて酷いわ。…止まって。」

 次の言葉が届くと同時に俺の足に何かが引っかかりつんのめる。直進する速度が高ければ高いほど転けた時も前に飛んでいってしまうわけで俺はヤバイと思っていた。だが俺はすぐに何か柔らかいものにぶつかり事なきを得る。


「…これは…草?。…これで衝撃を吸収したのか。」

 柔らかいものの正体、それは道幅いっぱいに展開された草の壁だった。どうやら俺はこの草によって受け止められたらしい。


「…ふうん、速さは凄いけど…消えてる訳じゃないのね。」

 草の壁に突っ込んだままの俺の背後から声がかかる。その声は神速を発動している時に聞いた声と同じだった。次の瞬間俺が絡まっている草が一斉に萎びて枯れる。そしてそこに草の壁があったなんてわからないほど何の物質も残さず消えてしまった。


「……くふっ…あなた…おもしろいわね。中身と体が全然釣り合ってない。ただの蟻に…龍の魂を込めたみたい。おもしろいわ。」

 俺はその声の主へと振り返る。俺は唖然として声が出なかった。何故か?目の前の人が美しすぎたからだ。白い肌、白い髪、圧倒的な白の中映える燃えるような紅い瞳。整いすぎて逆にこちらが不安になるような気持ち悪さも同時に感じていた。


「…ねぇ、あなたお名前は?。」


「…く、クラヒト。…あんたの名前は…」


「私?…私の名前…。久し振りに聞かれたわ。…私の名前はフィーネ。フィーネ・キリシア。」

 目の前の人はフィーネさんというらしい。だけど名前を言う時に少し間があった。その理由はなんだ?偽名、それとも普段名前で呼ばれないのか?。


「さっきのはあなたのスキルね。移動速度を速めるスキル…。面白いわ、…でも…それだけじゃないのよね?。」


「…っ⁉︎……そ、それは…」

 スキルの事を見抜かれている。突然のフィーネさんの発言に動揺する。


「あぁ、いいのよ。答えなくて…。その代わり…」

 突如頭の中に六芒星が浮かび上がる。そして勝手に回転。大虎が発動する。


「…あら?…潰れてない。これはあなたの筋力?…それともこれもスキルなのかしら。」


「…な、何を…‼︎。…こんな街中でいきなり…。」

 フィーネさんが殴りかかってきていた。その手は今植物で覆われて巨大な腕となっている。その腕を振り下ろしてきたのだ。六芒星が発動していなければ多分俺は死んでいた。その事実に背筋が凍る。それにここは道だ。つまり普通に歩いている人がいる。なのに構わず俺を攻撃してきていた。当然、打撃の衝撃で吹き飛ぶ人がいる。その中には小さな女の子もいた。


「…だって気になったの。…でもへぇ、力を上げるスキルね。これで2つ。あなたの能力はこの二つ?。」


「…ぐっ…ぐぐ…そうですよ。俺の能力は身体能力の上昇。高速移動もこの膂力もそのスキルの範疇です。」

 自分を殺そうとした人物に本当の事を教える気にはならない。周りの人が逃げる時間を稼ぐ為俺は取り敢えず今出している能力二つを関連づけてそれらしく答える。


「そう、…それだけ?。…なら…もう用はないわ。」

 俺が答えると満足したのか植物を引っ込める。一息ついた俺はさっきの行動に対する怒りが湧き上がってくる。


「あんた…俺を殺すつもりだったのか?。」


「いやよ、そんなつもりはなかったわ。ただ試しただけよ。」


「…っ、だけど!もし俺が膂力を高める能力じゃなかったら!。発動が間に合わなかったら?その時はどうするつもりだったんだ!。周りにいる人の事は考えていたのか!。」

 実際、俺は反応できていなかった。スキルが勝手に発動しなければ俺は死んでいた。目の前の女がそれについてどう思っているのか尋ねた。


「そんなの知らないわ。死ぬんじゃないの?。私には関係ないもの。」

 返ってきた答え。それはあまりにも自分勝手で他人をなんとも思っていない答えだった。そして表情からも言っていることが本心であるとわかる。既に俺を見る目がその辺の虫を見るような目になっていたのだから。つまりもう俺に対する興味は失っていた。と道の先から兵士が続々とやってくる。当然だ、だってここは普通の街中、それも貴族街なのだから。


「…思っていたより…つまらないわ。兵士もいっぱい来たし…めんどくさいわ。…」

 それを見たフィーネは俺に背を向けて立ち去ろうとする。自分が引き起こした周りの惨状に目もくれずに。俺の中で何かが切れた音がした。


「…来い、『造匠』。俺にあの女を…斬る力を!。」

 俺は許せなかった。俺が殺されそうになったことじゃない。人の命を軽視するその姿勢にだ。俺の手に剣が現れる。この剣は前もって名前をつけていた剣じゃない。だけど…俺はそれを…投擲する。


「…あら?…やっぱりまだ隠していたのね。…剣を召還するする力?。…ふふっ…まだまだ………え、…」

 俺の動きに気づいたフィーネが草の壁を発生させる。さっき俺を受け止めた時の物と同じだ。どうやら剣の投擲を防ぐつもりらしい。だけど…それは叶わない。何故なら俺が造匠に込めた願いは対植物特化。俺の投げた剣は草の壁を突き破りフィーネに向かう。


「…なんなの…くっ……これも⁉︎…ぐっ…痛い…ふふっ…ふふっ….ふははは!。」

 フィーネは腕を植物で覆い剣を防ごうとするがそれも無駄。遂に剣はフィーネの肩に突き刺さる。傷口を触るフィーネ。そして流れ出る血を指で掬い笑い声を漏らす。


「…覚えたわよ、クラヒト君。…あなた…おもしろいわ。」

 そのままフィーネは再び背を向けこの場を去った。


「…っ、…はぁ、はぁ…なんなんだよ、あいつ。ってそうだ、それよりも…」

 俺は周りにいて危害を被った人達の元へ駆け寄る。幸い大きな怪我はないようで良かった。だけど一応念の為一箇所に固まってもらって天癒を使う。実は天癒は誰にでもに使える能力だった。効果はだいぶ弱くなるけど。今はそれで十分だ。治療を終えると少女がお礼を言ってくれた。その笑顔だけで心が癒される。…さて、


「では状況のご説明を願いますかな。」

 俺の周りには兵士さん達がずらり。これから大変そうだぞ。

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