王国騎士団団長エルマという男
「そこまでにしてもらう!。嵐鬼、ここは王城だ。それ以上の振舞いは看過出来ない。」
大広間に厳格な声が響く。それと同時に広場に騎士が駆け入り列を成す。そして出来た道の中央を1人の男が歩く。白髪、白髭の男でその頭には王冠を戴いている。つまりこの王城の主、王であった。王はゆっくりと道を進みそして広間の中央に立つ。
「…初めて見たわ、王様。…悪くないわ。」
その威厳ある歩みを見た嵐鬼はコレットを拘束していた樹木を解除する。役目を終えた樹木は細々に砕け風に乗り消え去っていった。
「…ごほっ⁉︎。……てめぇ、……」
解放された時は気絶していたコレットだが回復魔法を受け意識を取り戻す。意識を取り戻したコレットは再び嵐鬼に食ってかかろうとするが制止の声が入る。
「やめておけ、炎鎌。」
その声は王が放っていた。
「しかし、王!。この者は王城での礼儀を弁えず…」
「良いのだ。…その者はそれを許可されている。お主ならそれがどういう意味かわかるな。」
「…っ、…出過ぎた真似をお詫び致します。」
王の言葉の意味。貴族でさえ身分と正体を明かす為に顔を覆う装飾が許されない。だが嵐鬼は許される。つまり嵐鬼に貴族よりも権限を与えられる程の実力を持っていると言うことになる。その事を理解したコレットは静かに頭を垂れる。
「うむ、では早速本題に入ろうと思う。ここに集まった者たちは皆時間を無駄にする気はないであろうからな。知っている者もおると思うが実は最近各国で魔族の発見の報告が上がっておる。ここアースハイドでもコーラルで発見された。その時はAランク冒険者天覧のアリア及び元Sランク冒険者ゴードンの活躍により事なきを得たが国としては更に警戒を強めたい。よって諸君らには滞在地への報告義務を負ってもらいたい。戦力となるAランク以上の冒険者の所在を常に明確にすることが護国の第一歩じゃ。そして救援要請があった場合駆けつけて貰いたい。勿論報酬は支払わせてもらう。」
「…救援要請と言ってもそんな連絡を伝達で聞いてから向かっても遅いのでは?。」
「無論、その対策は取ってある。…エルマ、中へ。」
「はっ!。」
1人の冒険者の質問に対し王が大広間の外に声わやかける。その呼びかけに応じて三十代ほどの偉丈夫が入ってくる。その騎士は他の騎士と違い帯剣しておらず無防備に見えた。だがその騎士の登場で広間の空気は一つ引き締まる。この場にいる者は彼が何者が知っているのだ。
「…良い男ね。…遊びたいわ。」
それは嵐鬼も同じだった。コレットとの時とは打って変わり入ってきた騎士に興味を惹かれている。
「こちらをご覧ください。この小さな物は古代の遺跡から発掘された物を第一王女マーガレット様が改良した物です。これを一つ握り潰すと近くにある物が音を鳴らす仕組みになっています。またこれ魔力を込めて潰すという意志の元握らなければ潰れない。これを全員に配布します。もし魔族と対敵した時は即座にこれで連絡をして頂きたい。」
エルマと呼ばれた騎士は淡々とその手に持つ魔導具について説明する。この魔導具はいわば一方通行の使い捨て無線機なのだ。
「その範囲はどれくらいなんだ?。いくら連絡が来ようとも距離が離れていたら意味がないんじゃ…」
「大体1日で移動出来る距離だと聞いています。皆様のお力があればそのぐらいは持ち堪えることが出来るとのお考えのようです。」
「…異論は無いようじゃな。なに、普段は持っているだけで構わない。それだけで年間金貨100枚を払う。」
王の言葉を皮切りに冒険者たちが次々とその魔導具を受け取りにエルマの元へ向かう。アリアとジゼルもエルマの元へ並ぶのだがその顔には少し緊張が見られる。
「はい、…おや、アリア様、そしてジゼル様。お久しぶりで御座います。」
「お久しぶりです、エルマ殿。…何故今日はこのような事を?。城の中で何か?。」
アリアの質問の意味。実はエルマはこの大広間に入ってきた時から辺りに威圧感を放っていたのだ。その理由をアリアが尋ねたのである。
「いえ、今日も王城は平和そのものです。まぁ、マーガレット様の魔導具開発の失敗を除けばですが。…今日お会いするのは皆一流の冒険者の方々。王に何かあってはいけないので…少しスキルを使わせて頂きました。大体…半人分ぐらいですね。」
アリアの問いにエルマが答える。その時後ろから嵐鬼の声、そして魔力が迸る。アリアは隣のジゼルの体ごと横っ飛びに回避する。その回避した場所を異常な速さで何かが通過する。もし、アリアが回避しなければアリアかジゼル、どちらが貫かれていただろう。
「…あぁ、やっぱり噂は本当だったのね。この国の騎士団長はものの重さを自在に操り、常軌を逸した重さの剣を使うと。この体の重さは錯覚ではなく本物。…遊びたいわ。」
「…今は場所とタイミングが悪い。機会があればいつでもお相手致しますよ。」
アリアが視線を向けるとそこには対面するエルマと嵐鬼。エルマの足元には木の実が潰れていた。
「…ふふっ、私の魔法より発動の速いスキル。…面白いわ。…いつか全力で…遊びましょうね。」
それだけを言うと嵐鬼は魔導具を受け取り大広間から出ていく。通常王が同じ空間にいる場合王より先に退出することは許されない。だが嵐鬼は気にしない。お気に入りが増えた事を喜び去って行った。
(…今、私達ごと攻撃を当てるつもりだった。それに…私が動けたのは私の意思じゃない。恐らくエルマ殿のスキルの力だ。重さを変化させる力とモノを引っ張る力。単純だが強力なスキル。…ふっ、クラヒト、この国は化け物揃いだぞ。)
一方床に投げ出されているアリアはその身に起こった事を一つ一つ分析していた。突然体が横に引っ張られた。その直後元いた場所を高速で何かが通過した。その物体は一直線にエルマへと向かったがエルマに到達する直前に地面に叩きつけられた。目の当たりにした嵐鬼の異常さとエルマのスキルの強さ。
「…アリア様、申し訳ない。咄嗟だったもので強引になってしまいました。」
「いえ、お気になさらず。此方こそ命を助けて頂きました。」
「…え?ねぇ、アリア。なにが起こったの?。嵐鬼が何かしたのは分かったけど…」
「何でも有りませんよ、ジゼル様。今日も王城は平和です。」
平和だったの一言で騒ぎを無かったことにするエルマ。
「それでは解散としようかの。エルマ、行くぞ。」
「はっ!。」
こうして高ランク冒険者たちの王との謁見は終了した。