ソアラさんが帰ってきた、変人と天才は紙一重なんだよ。
夕食の時間になった。俺は緊張でガチガチだ。だってわざわざ俺に会いに帰ってきたソアラさんがほぼ魔王であることが確定しているのだから。
「…ってあれ?まだお姉様はいらっしゃらないのですか?。」
夕食のテーブルに着く。メンバーは俺とアリアさん、シャーリー、それとマーベルさんだけだった。ヘルガさんとクルトさんはそれぞれ用事があるらしい。なので時々マーベルさんは1人でご飯を食べるらしい。だからかマーベルさんはニコニコしながらテーブルに座っている。その嬉しそうな顔にさっき修羅場に置き去りにされたことは許してしまう。
「えぇ、少し遅れているみたいね。待つのもあれだし…先に…」
マーベルさんがテーブルの上のベルを振ろうとする。このベルはメイドさんを呼ぶ物である。
「すいません、お母様。少し遅れました。」
1人の女性が入ってくる。全身を覆う衣装…確かローブだったと思う。を着たその女性はマーベルさんに頭を下げたあとこちらに目線を向ける。その瞬間ドキリとする。理由はその美貌に加えて髪型が独特だったからだ。ロングヘアの毛先が階段のようになっている。後ろに行くほど長くなっているようだ。
「貴方達がアリアのお客様ね。ごめんね、本当はもっと早く帰ってきてちゃんとした服にするつもりだったのだけど…珍しい魔物を見つけたから遅くなったわ。」
女性…確実にソアラさんなのだが、ソアラさんは身に纏っていたローブを脱ぐ。その下にはなんとも奇抜な服があった。まず右と左で長さの違うズボン。右はちゃんと踵まであるのに左は太腿の辺りまでしかない。上半身にはブラウスを着ているのだが襟と袖にくしゅくしゅした物がついてる。明らかに普通ではない服なのだがソアラさんという1人の人間として見たとき、不思議なことに調和がとれているような気がする。美人は服の着こなしが上手いようだ。アリアさんがそんな着飾っているところ見たことないけど。
「改めて私の名前はソアラ・サクスベルクよ。今は王国魔導院に勤めているわ。宜しくね。」
ソアラさんが手を出してくる。握り返すとヘルガさんやクルトさんとは違う綺麗な手だった。
「クラヒトです。これから暫くお世話になることになります。よろしくお願いします。」
「えぇ、宜しくね。それでこちらがシャーリーさんね。とても可愛いらしいわ。」
「よ、宜しくなのよ。」
俺と握手した後ソアラさんはシャーリーとも握手する。その際シャーリーの頬を撫でていた。シャーリーは若干びっくりしてようだがなんとか平静を保ったようだ。
「それじゃあソアラも帰ってきたことだし、ご飯にしましょうか。」
にこやかに見ていたマーベルさんはそう告げるとベルを鳴らす。メイドさんが料理を一つ一つ運び込んでくる。なんだか申し訳気持ちになる。だけど聞いた話ではこの家ではメイドさん達も同じ物を食べるらしい。それどころか偶にマーベルさんと一緒に食べるのだとか。
「ではご飯の後に君の魔法適性を調べさせてもらうわね。」
ソアラさんはそう言い一つ空いていた席に着いた。俺はその時あることに気がついていた。ソアラさんが断壁と呼ばれる理由かも知れないことに。理由の一つはソアラさんが防御魔法の達人だということだろう。だがもう一つの可能性、ソアラさんが二つ名を呼ばれてキレる原因は多分…その、…アリアさんもそれなりにあって、マーベルさんは大変豊かなあるモノがソアラさんは絶壁なのだ。具体的にいうと…胸部。…俺は誓う。今気づいてしまったことを記憶の奥底に封印し2度と掘り出さないことを。だって俺の命が危ない。その後は和やかに食事が進んだ。ソアラさんからは結構興味深い話を聞けた。物理に対して絶対的な防御力を持つ魔物とかがいるらしい。俺が出会ったらまず逃げるしかない。
「あら、それじゃあリビングでやるといいわ。私だけ仲間外れになると寂しいから。」
食事が終わりソアラさんとこの後のことを話しているとマーベルさんがそんな事を言う。予定では俺の部屋でやるつもりだったんだけど。…でも別に見られて困るものでもないし。
「では、お邪魔じゃなければ。」
俺が了承するとみんなが立ち上がった。どうやらすぐに移動するようだ。連れ立って歩き大きなリビングに到着する。そこにあるコの字型のソファセットに腰掛ける。俺の隣にはシャーリー。対面にはアリアさんとソアラさん。マーベルさんが1人で座っている。
「手を出してくれるかな?。うん、そう右手で大丈夫よ。」
ソアラさんから手を出すように言われる。俺が右手を出すとその前腕をソアラさんの右手が掴む。
「クラヒト君も私の腕を掴んで。そして目を閉じて…ゆっくり呼吸をするの。」
ソアラさんに言われるままに腕を掴み目を閉じる。するとソアラさんから何かが流れ込んでくるのがわかる。
「…うーん、魔力の流れが良くないわね。でもこれは…、だとすると…ねぇ、クラヒト君。君、スキルを持っているかしら?。」
ぶつぶつと独り言を言っていたソアラさんが突然訪ねてくる。だけどこの質問は冒険者にとっては失礼になるものだったはずだ。無論アリアさんのお姉さんだから教えることに抵抗はないけど。
「姉上、その質問は…」
「アリアは黙ってなさい。これはクラヒト君と私の会話なのよ。もし答えてくれるなら君の魔法について教えてあげられるわ。」
アリアさんが止めに入るがその言葉が途中で途切れてしまう。ソアラさんの一喝の後隣にいるシャーリーが少しビクッとしたから何かあったのだと思うけど目を瞑っているのでわからない。
「…はい、その通りです。スキルを持っています。」
「やっぱりそうなのね。そのスキルは魔法系の能力?。」
俺の答えに納得したようなソアラさん。更に質問を重ねてくるがなんとも答えにくい。
「それが…その…実は…」
俺は自分のスキルが多岐に渡ること。まだ発現していない能力があることをソアラさんに話す。
「…凄いわ、そんなスキル聞いたこともない。6つに派生するなんて。…もう目を開けてもいいわよ。」
「はい、…ってうわっ⁉︎。…アリアさん⁉︎。」
ソアラさんに言われて目を開けると衝撃の光景があった。アリアさんが透明な板で囲まれていたのだ。アリアさんは中で拳を叩きつけているがびくともしない。これが…ソアラさんの防御魔法。
『パチッ』
「…姉上!いきなりは酷いです!。」
「アリアが割り込んでくるからでしょう?。」
ソアラさんが指を鳴らすとアリアさんを囲んでいた板が消えてアリアさんの声も聞こえるようになる。どうやら俺が目を瞑っている間に壁を張ったようだ。妹に対して容赦なさすぎだろ。などと頭の中で考えていたが…
「じゃあ単刀直入に言うわよ。クラヒト君、君は魔法が使えるようになるわ。」
ソアラさんのその言葉にかき消された。