表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/136

これが修羅場…、………2度とごめんだ。

「……あの、マーベルさん。…起き上がらないといけないので頭を離してもらっていいですか?。」

 びっくりするぐらい冷たい目をしたアリアさんがシャーリーを呼びに部屋をあとにする。俺が今するべき事は2人を土下座で待ち構える事だけだろう。それで場の空気を呑んで怒りが収まればそれで良いし、最悪の場合でも命は助かるはず。その為にはまずガッチリと俺を膝の上に固定しているマーベルさんの腕を退かさなければいけない。


「あら、どうして?。ここに居ればいいんでしょう?。私的には特に問題もないし…クラヒト君はこんなおばさんに膝枕されるのは嫌い?。」

 俺の発言に対して不思議そうな顔をしてマーベルさんが返してくる。おばさんなんて言っているがその見た目ははっきり言ってアリアさんの姉で通用するレベルである。ただし手は全く動いてないし、追加で俺も嫌とは言えない質問が返ってくる。質問に質問で返すなんて…やるな。


「いや、そんな嫌とかじゃないんですよ?。お陰でなんか疲れがとれましたし。けど今は…」

 何とか当たり障りのない回答で早く解放してもらおうと思っていたが…人生はそこまで甘くない。膝枕なんて人生の中でもレアなハッピーイベントの後には当然デスイベントが待ち構えている。


「…クラヒト?…何をしてるのよ?。」


「クラヒト、そこからは離れていろと言った筈だが。」

 アリアさん、お早いお帰りですね!。マジで1分ぐらいじゃない?。お陰様でいまだに俺の頭はマーベルさんの膝の上。だから体も固定されていて2人の視線が突き刺さりまくりですよ、はい。


「…待ってくれ。俺に事情を説明する時間が欲しい。」


「ならさっさと起き上がるのよ。いつまで伯爵家の婦人の膝に頭なんか載せてるのよ。不敬罪で死刑になるのよ。」

 俺の提案に対してシャーリーは吐き捨てるようにそう言う。ねぇ、俺とシャーリーの間は結構縮まったと思っていたんだけど気のせいだったのかな?。


「いや、俺は起きようとしてるんだよ⁉︎。…だけど…」


「あら、そろそろ主人との約束の時間だわ。お邪魔したわね、クラヒト君。…またお話させてね。」

 だけどマーベルさんの腕の力が強すぎて起き上がれないんだ!と言おうとした瞬間、ふと体が自由になる。俺の頭をゆっくりとマーベルさんが持ち上げると優しげな笑みを残して部屋を出て行ってしまう。もう一度言う、部屋から出て行ってしまう。つまり今この室内には俺、アリアさん、シャーリーの3人だけということになる。


「…お、お茶でもだそうか?。」


「いや、いい。」


「それよりも何かいいかけだったのよ?。聞いてあげるから言うと良いのよ。」

 場の空気を和らげようとする俺の目論見は完全に無意味だったようだ。俺は可及的速やかにカーペットの上に正座した。


「そうだ、俺は起きようとしてたんだけどマーベルさんの力が強すぎて起き上がれなかったんだよ!。」


「嘘をつくにしても、もう少し現実味のある嘘をつくのよ。あんな細い腕で抑えられるほど柔な鍛え方をさせた覚えはないのよ!。」

 俺の言葉はシャーリーの逆鱗に触れたようだ。どうやら俺が嘘をついていると判断されたらしい。確かに客観的に見ればシャーリーの言う通りなので俺はうっと、言葉に詰まる。


「本当のことを話すのよ。…というよりそもそもなんで膝枕なんて状況になるのよ!。一から話すのよ!。」

 俺を見下ろすシャーリーが俺に詰め寄りながら尋ねてくる。気分は道端でヤンキーに絡まれた時みたいだ。俺は正直にこれまでの経緯を説明する。ゆっくり時間をかけて説明したからかシャーリーのボルテージも少しは下がったようだ。


「…アリアちゃんどう思うのよ?。」


「…うむ、…挙動に不審な点は見られなかった。だからクラヒトが常習的に嘘をつく男でない以上、本当のことを話していることになる。」

 アリアさんが黙っていると思ったらどうやら観察されていたようだ。完璧な役割分担がなされていた。俺の信頼…。


「……本当なのよ?。」


「本当だって。俺がシャーリーに嘘なんてつくわけないだろ?。」


「…ふん、…許してあげるのよ。ねぇ、アリアちゃん。」


「あぁ、母上が強引に膝枕をさせたようだしな。母上は私や兄上よりも強い。クラヒトが体を動かせなくなっても不思議ではない。」

 どうやら俺にかけられた嫌疑が晴れたようだ。まぁ、そもそも全くの冤罪だった訳だから当然なんだけど。安心した俺は正座を崩して立ち上がろうとする。いやぁ、足が痺れだしてたんだよね。


「…待つのよ。まだ立って良いとは言ってないのよ。」

 だが俺の肩をシャーリーに押さえられる。それだけで俺はまたカーペットに舞い戻る(3秒ぶり、2回目)。


「な、なんだよ。膝枕の件はマーベルさんがやったことで俺にはどうすることも出来なかったって事は証明されたじゃないか。なのになんで…」

 俺は突然の理不尽に抗議の声を上げる。だってそうだろう、今までは膝枕をされているという現行犯のような感があったが今は俺は無罪のはずだ。なのに立たせてもらえないのはおかしいではないか!。立てよ国民、理不尽を許してはならない!。俺は断固として戦うぞ!。


「あぁ、その件は別にもういい。だが他にも問題がある。…お前が鼻の下を伸ばしていた事だ。人の母親に対してあのような態度。…やはりクラヒトは母上のような女性がいいのか!。」


「クラヒトは胸の大きな女性が好みなのよ?。あ、あまり大きいと冒険の邪魔になるのよ。適度がいちばんなのよ。」


「…すいません。おれも男なんですいません。」

 俺の断固は団子より柔らかい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ