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マーベルさんの訪問、膝枕しゅごいよぉ

 酒場で王都初の食事を楽しんだ俺たち。途中で面白い人と出会ったがその後は存分にご飯を楽しんでサクスベルク邸に帰ってきていた。


(…思ってたより疲れてたみたいだ。……今日はこの後特に予定もないし………寝ちゃおう……)

 ベッドに沈み込むと体から疲れが溶け出すのがわかる。特に魔物の襲来とかは無かったけどやっぱり1週間馬車での移動は車社会に慣れ親しんだ俺にはキツかったんだ。頭の中でこの後何も予定がないこと確認した俺は静かに意識を手放そうとしていた。


『コンコン』

 だが意識がなくなる寸前部屋のドアをノックする音が聞こえる。完全に眠っていたら仕方なかっただろうが今はまだ意識がある。勿論無視も出来たが世話になっている身でそれは何とも心が痛む。


「…はい…、すいません、少し待ってください。」

 一度眠ろうとした体は容赦なく俺をベッドに押さえつけようとするが何とか払い除け立ち上がる。それにしても一体誰だろうか。アリアさんか、シャーリーか。


「…え…⁉︎…マーベルさん?。」

 ドアを開けるとそこにはアリアさん…のお母さんのマーベルさんが立っていた。こうして至近距離で見ると改めて思う。本当に母親ですか?。


「すいません、クラヒト君。お休みでしたか?。」

 マーベルさんがその整った顔を曇らせて尋ねてくる。その蒼い瞳に吸い込まれそうになる。


「いえ、そんな。全然大丈夫ですよ。どうされたのですか?。」


「ふふっ、少しお話をしたいと思ったの。コーラルでのあの子のことを聞きたいわ。あの子、家では自分のことを全然話してくれないの。少しお時間いいかしら?。」

 俺が大丈夫だと告げるとぱっと表情が明るくなり笑顔で目的を話す。どうやらアリアさんのコーラルでの暮らしが気になるようだ。親なら仕方ないのかもしれないな。勿論断る理由なんてないので了承するとマーベルさんは部屋に入ってくる。


(…待てよ。…伯爵家の御婦人が見知らぬ男と部屋で2人きりになってもいいのか?。…俺が気にしすぎだろうか。この部屋は一応俺に与えられているものだし尋ねてきたのもマーベルだ。…大丈夫だと思うことにしよう。)

 頭の中に懸念が生じたが既に嬉しそうに部屋に入っているマーベルさんを今から断りのは憚られる。


「…あら…ベットが…クラヒト君、本当は寝てたんじゃないの?。私、起こしてしまったのね。」

 鼻歌を歌っていたマーベルさんだったが俺がさっきまで身体を預けていたベッドに視線をやると少しシュンとしてしまう。その仕草も一々可愛らしい。この人は本当にアリアさんの母親でこのサクスベルク家の最強の人物なのだろうか。


「少し体を横たえていただけですよ。王都の人の多さに戸惑ったのかもしれません。」


「…そう?…あ、そうだ。クラヒト君、ちょっとこっちにきてくれる?。」

 マーベルさんがベッドに腰掛けその隣はパンパンと叩く。いいんですか?そんなに近くに男を寄せて。…あ、はい。一つの回答に行き着きました。マーベルさんは強い。だからだ!。俺など何か手を出そうものなら瞬殺されるに違いない。つまり強者ゆえの余裕。危ない、危ない。勘違いする所でしたよ。


「失礼します。」

 言われた通りにマーベルさんの隣に腰掛ける。ふわっとマーベルさんから良い香りがする。心が安らぐ香りだった。


「頭はこっちよ。…」

 マーベルに頭を抱き抱えられる。そしてそのまま体ごと引き寄せられ俺の頭はマーベルさんの膝の上へランディングした。マーベルさんの真意が知りたくて横目で見ようとしたがそれは叶わない。アリアさんとも、シャーリーとも違う非常に豊かなある部分に遮られて顔が見えなかったのだ。


「…え……………」

 頭の中が真っ白になる。…状況を確認しよう。…膝枕…なのか?。経験がないので確認しようがない。


「…疲れているのね。目を閉じて。」

 マーベルさんの声がする。言われた通り目を閉じると体が暖かくなるのを感じる。感覚的には天癒を使っている時のような感覚だ。


「…どうかしら?、体は楽になったかしら?。」


「…はい。えーと今のって何かのスキルですか?。」


「違うわ、ただの優しさよ。人の体は優しさで癒されるのよ。」

 そんなことを宣うマーベルさん。明らかに違うがまったりとしてしまった俺は反論を封じられていた。体を起こそうにも頭の上に置かれた腕がびくともしない。起き上がれる気がしないので俺はそのままコーラルでのアリアさんとの出会いから話し始める。マーベルさんはそれを楽しそうに聞いている。


「…ふーん、あの子がそこまでするなんてね。クラヒト君はアリアにとって大事な人なのね。」


「…ぶっ⁉︎…いや、そんなことないですよ。アリアさんは面倒見がいいから俺の世話を焼いてくれているだけです。」

 なんてやり取りをしていた。いつの間にか俺の体にあった倦怠感は消え、体に力が漲っているのがわかる。…絶対に優しさだけの力ではない。話もそろそろ終わりに差し掛かった時、ドアにノックが響く。


(…!…まずい。今の俺の状況は現在この家にいる誰に見つかっても致命的だ。…何とか居留守を使うしか…)

 ノックの音に対して俺は一瞬でそこまで考えていた。恐らく知らず知らずのうちに神速を発動していたのだと思う。それだけ俺が命の危機を感じていたことがわかる。高速化した思考で考えついたアイデアを実行すべく俺は息を潜める。


「はい、どうぞ。…あ、ごめんなさい。いつもの癖でつい…」

 俺の居留守大作戦はマーベルさんの手によって打ち砕かれた。


「…クラヒト、何故ここから母上の声が…」

 不思議そうな顔をしながらアリアさんがドアを開ける。そして目の前の光景を目にするとその表情は引き締まり目が仄かに光を帯びる。


「…クラヒト、シャーリーを呼んでくるからそこから動くなよ。…いや、そこからは動け。母上、クラヒトを離してください。」

 アリアさんは冷徹な瞳で用件だけ伝える。肝が冷えて命が縮み上がる感覚だ。だって頭の中に六芒星が浮かんでいる。神速は既に黒くなって使えない。…唯一逃走に向いている能力なのに。


「…いいか、私はいつでも視てるからな。」

 アリアさんはその言葉を残し部屋から出ていく。ダメだ、天眼を発動している。俺に逃げ場はない!。俺の命を救うことが出来るのはマーベルさんだけだ。

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