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2人組の冒険者、本当に強いのは。

「…お前はDランクのくせにこの私を揶揄ったのか!。」

 大きな叫び声を上げた後ジゼルさんが俺たちのいたテーブルの席に座った。いきなり座ってくるなんて…なんて非常識な人なんだと非難の視線を向けると更に怒ってくる。ヤカンみたいな人だな。沸点が低い。


「そ、そんな目をするな!。そもそもお前らが私を揶揄ったのがいけないんだ!。反省しろ!。」

 席に着いたジゼルさんは俺の前にあったフライドポテトを食べながら怒る。いや、待って。ナチュラル過ぎるけど怒りたいのは俺だよ?。絶対にそんな事出来ないけど。だって…このジゼルさんを見た瞬間から頭の中に勝手に六芒星が出てる。それはつまりこの人が今日あった中で1番強いということだ。い、一応天癒を使えるようにしておこう。


「いや、私の記憶が正しければ事の始まりはお前がクラヒトをみくびっていた事だ。それまでは特に問題はなかった。」

 アリアさんが正論で反論するとジゼルさんはモソモソとポテトを食べ続ける。俺の前にあったポテトは駆逐された。


「…すまない、ジゼルにも悪気があった訳じゃないんだ。ずっと話してたアリアと会えたから嬉しくて変な絡み方になったんだと思う。どうか許してやってくれないか!。」

 それまで殆ど話して無かった巨漢の男がアリアさんに頭を下げる。ジゼルさんが椅子に座った後も後ろに立っていたから部下かと思ったが違ったようだ。


「…な、おい!イベルカ。そんな勝手な…」


「いいか、ジゼル。今回非があるのはこちらだ。非を認めることが出来なければそれは人として成長が止まる。…それにこのままだと…大事な友を失うことになるぞ?。」

 当然モヤモヤしたままのジゼルさんがイベルカさんを止めようとするがそんなジゼルの肩に手を置き宥める。その言葉の一つ一つが確かな重みを持ってその場に流れる。


「…わ、分かったよ。………私が言いすぎた。……ごめん。」

 イベルカさんの言葉に反省したのかジゼルさんが俺の方を向き僅かに頭を下げる。俺だってそこまで心が狭い訳じゃない、みくびったことは許してやることにする。実際スキル無しだったから弱いし。だがポテトの大半を貪り食ったことは許さん。


「俺は別に構いません。…俺初めて王都に来て2人の事を知らないんで色々聞いてもいいですか?。」

 ポテトの事を口に出すと明らかに器の小さな男お見なされるのでそれは言わない。取り敢えずこの2人の事を聞いておくことにする。暫く王都にいるつもりだし知っておいて損はないだろう。


「…いいだろう!私の名前はジゼル。ジゼル・オーゲスト。オーゲストの名前ぐらいは聞いたことあるだろ!。」


「………………?。」

 威勢を取り戻したジゼルさんが意気揚々と名乗りをあげる。だが残念ながら俺にそんな知識はない。黙秘しているとジゼルさんのこめかみに青筋が浮かぶ。


「な・ん・で知らないんだ!。ハートラルク王国の伯爵家だぞ!。」


「あぁ、アリアさんと一緒か。幼なじみって言ってたしね。家とか近いの?。」


「…まぁ、隣ということになる。私とアリアは生まれた年も同じだったから自然と一緒にいるようになったんだ。私は15から冒険者になってコツコツランクを上げてたのに…アリアはすぐに追いついてきたけどね!。」

 …アリアさんが追いついたって事は…ジゼルさんのランクは…。


「ジゼル・オーゲストの名前は聞いたことがあるのよ。スキル持ちの魔法使い、…様々な属性の魔法を使い分ける戦い方から『夢幻の砲台』の二つ名で呼ばれているAランクの冒険者なのよ。」

 これまで騒動に一切関与せずホットケーキを食べていたシャーリーがジゼルさんの情報を話す。キリッと格好をつけたつもりのようだが残念ながら口元に蜂蜜が付いている。俺はこっそりとジェスチャーでシャーリーにそれを教える。気付いたシャーリーは慌ててフキンで口元を拭っていた。


「そうそう、良く分かってるじゃない!。まぁ、私ぐらいになると当然だけどね。」

 シャーリーが自分を知っていたことで自信を取り戻したのか元気になるジゼルさん。


「…でこっちは私の相棒のイベルカ。見ての通り私の前衛を引き受けてくれてるの。小言が煩いけど…経験も豊富だし…私の事を護ってくれる。」


「イベルカだ。俺の仕事は魔法を発動するまでジゼルを守ること。それと常識知らずのお嬢さんに道理を教えることだ。武器はこの大剣と今は持っていないが盾も使う。よろしく頼む。」

 イベルカさんはやはり常識人のようで簡潔に自分の事を話した。この人と仲良くしたい。隣の沸点の低いジゼルさんよりも。


「…どちらかと言うとイベルカ・タクスマグナの方が有名なのよ。」

 シャーリーが予想外の事を言う。Aランクのジゼルさんより有名。そんな事あるだろうか。


「絶対的な肉体と鋼の精神力を持つ武人。何故かBランクから上を目指さない。本当ならAランクになれるはずなのに昇格を断り続けている男。」


「いくつか嘘のような逸話を残しているのよ。1番有名なのが7日間不眠不休で魔物の大群と戦い続けて街を守った事なのよ。その功績によって王家から『不撓』の二つ名を授かったのよ。更に王国騎士団にも推挙されたけど…それも断ったのよ。」


「俺は不器用な戦いしか出来ない。そんな奴は現場で駆け廻るのが似合っている。騎士になれば自由とは縁遠い存在になってしまう。俺は自由に戦いたい。」

 シャーリーが語った内容はマジで眉唾ものだったが一言も否定の言葉は入らない。本当なのだとしたら俺の六芒星が反応していたのはこの人なのかもしれない。だってコーラルの街の冒険者が全員で何とか3日間魔物を抑えるのが精一杯だったんだ。アリアさんもいて。それをこの人は単騎で1週間。俺なんかには想像もつかない。


「そうか、お前がイベルカだったのか。名前だけは聞いていたが…会う機会がなかったからな。噂は聞いていたし、同じAランクの者がイベルカを差し置いて上に上がった事を気にしていた。…だが何故ジゼルと組んでいるんだ?。これまでパーティを組んだ事はなかった筈だが。」

 イベルカさんの名前はアリアさんも知っていたようで握手を求める。アリアさんが気になっていた事を聞いてくれた。1人で無双出来る人がパーティを組む理由はない筈なのだ。


「オーゲスト家には以前命を救われた。その恩を返すためだ。ジゼルの能力は前衛がいて初めて十全に発揮される。ジゼルに良い前衛が見つかるまで俺が仮のパーティを組むことにしたんだ。」

 アリアさんの質問に答えるイベルカさん。ただその答えを聞いて俺はある事を思った。シャーリーの方を見るとどうやら同じことを思ったらしい。


(…イベルカさん以上の前衛なんて早々いないから、他の奴見つかる可能性ないんじゃね?。そもそも探す気にならないだろ。)


「まぁ、私の強さに惚れたら本当のパーティを組んであげても良いけどね。魔法使いがパーティにいると依頼をこなすのが楽になるもの。1人でいるよりずっと良いはずさ。」

 どうやらジゼルさんもイベルカさんと正規のパーティを組みたいようだ。


「…?…そうなのか?。すまんが今まで特に気にしたことがなかった。」

 イベルカさんの発言に肩を落としているけど。


「…んんうん!。…アリアは暫く王都にいるのよね。なら同じ依頼を受けることもあるかもね。その時は強くなった私をみせてあげる!楽しみにしてなさい!。」

 ショックから立ち直った(早いな)ジゼルさんが颯爽と去っていく。その後を追うイベルカさん。イベルカさんは俺とシャーリーにも軽く会釈してくれた。人格者でもあるようだ。ジゼルさんには是非見習ってほしい。


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