王都にはギルドが二つ、大丈夫そっちには行かない。
【悲報】シャーリーがBランクでした。俺氏死亡
頭の中にこんな文章が浮かんだ。いや、なんだよ死亡って。落ち着け、いいか、一度大きく息を吸うんだ。ほら、どうだ?落ち着いただろ。さぁ、もう一度やり直そう。………
「ぇぇぇぇぇ‼︎、シャーリーBランクだったの⁉︎。」
何の意味も有りませんでしたね。今の1分ぐらいを返して欲しい。
「そ、そんなに大きな声を出すのを止めるのよ。昔の話なのよ。」
若干顔を赤らめたシャーリーが俺の口を押さえようとする。だが今の俺の興奮は収まらない。
「昔って言ってるけどシャーリーは歳はいくつ!。俺より歳下じゃないの?。」
ずっと聞くのを躊躇っていた年齢についてシャーリーに聞く。この機会じゃないとチャンスはもうない。俺の僅かに芽生えた冒険者としての勘が今だと告げている。
「…19なのよ。…冒険者は3年前までやってたのよ。」
俺に対して少し罪悪感でもあるのかシャーリーが素直に答えてくれる。
「19⁉︎…本当に?。……」
素直に教えてくれたのはいいが…信じられない。どう見ても…小学校の高学年から中学生だ。それが俺と2歳しか変わらないなんて。でも待てよ…そうすると…冒険者をしていたのは16歳の時ってことになる。いやいや、いくらなんでも若すぎる。その事をシャーリーに言うとポカンとした表情をされる。おっとこれは久し振りに異世界ギャップに直面したか?。
「冒険者には15歳からなれるのよ。私は15歳までサポーターとして冒険者に付き添って経験を積んで15になったら直ぐに冒険者になったのよ。」
…中卒で働くみたいなもんか。この世界では日本よりも学問が重要視されていない。それよりも手に職をつける方が優先されている。冒険者もその1つってわけか。
「でもシャーリー、Bランクだったのにこの前のアグナドラゴンの時負けてたじゃん。」
「あ、あれは三年ぶりだったのよ!。それに…アグナドラゴンはBからA。つまりBランクのパーティで討伐推奨なのよ。その上変異種だったから私が遅れをとっても何の不思議もないのよ!。」
ふと思い出してこの前の事を言う。するとシャーリーはプンスカ怒りながら言い訳する。少し涙目になっている。可愛い。
「そうだぞ、クラヒト。3年も一戦から退いていれば腕は落ちる。いくら現役時代『壊腕』と言われたシャーリーでも仕方ない。」
アリアさんがシャーリーのフォローに入る。デモ更に聞き捨てならないワードが飛び出している。
「…へぇー、壊腕か。なんか…厳めしいね。でも二つ名持ちになるくらい強かったのに…なんで受付に…」
「…それは秘密なのよ。クラヒトがBランクになったら教えてあげてもいいのよ。」
…中々先が長い話だった。でも考えようによってはシャーリーが俺がBランクになるまで一緒に居てくれるって事だから悪くない条件だ。あ、そうだ、話の流れでアリアさんの歳も聞いておこう。
「アリアさんの歳も聞いていい?。」
「ん?言ってなかったか?。私は21だ。」
同い年じゃん。これは想定外。アリアさんしっかりしてるから少し上かと思ってた。…待てよ、
「ならなんでシャーリーはアリアさんの事をちゃん付けで呼んでんの?。」
「それは特に理由はないのよ。アリアちゃんが初めてギルドに来た時に私が担当したからその時の名残なのよ。もう…2年前になるのよ。」
「…2年、…でAランクってなれるもんなの?。」
「普通は無理なのよ。でもアリアちゃんにスキルがあったし元々鍛錬を積んでたから一気に駆け上がったのよ。」
「あぁ、私は冒険者になる前から家で剣や魔法の訓練をしていたし旅もしていたからな。その時の経験があって人より早くランクを上げられたんだ。」
まぁあの家で育てば自然と強くなるだろう。お姉さんの方は魔法が得意みたいだし。アリアさんの才能と相まって万能型になったんだろうな。なんて納得していると受付の女性がおずおずと話しかけてくる.
「…あの、王都でのギルドの仕組みについて説明させていただいて宜しいでしょうか?。」
そう言えばシャーリーのBランク発言のせいで説明が途中だ。でもギルドで受ける説明なんて…どこも一緒なんじゃないだろうか。
「ここ王都には冒険者ギルドが二つ御座います。」
初っ端から聞いといて良かった内容だ。二つもあったから混乱してしまう。
「まずは今居られるこのギルド。そしてもう一つは中央街に御座います。」
中央街の意味が分からなかった俺はシャーリーに小声で聞く。中央街は王城の近くで侯爵や公爵の屋敷なんかがある王都の中心らしい。
「こちらのギルドではBランクまでの依頼が提示されております。そして中央街のギルドに入ることが許されるのはAランク以上の冒険者の方のみ。依頼もそれに相応しい高難易度のものとなっております。」
受付城の話を聞いてここに入った時からの違和感の正体に気がついた。アリアさんはAランク。普段こないアリアさんが来たからあれだけざわついていたんだ。それと…俺の六芒星が反応しなかった。王都はレベルが高いって聞いてたから六芒星が浮かび上がると思っていたけどなかった。それはこの場に俺の命に関わるほど強い人がいないからだ。
「今のところアリア様以外のお二人は該当されませんので今後もこちらのギルドをご利用ください。何かご質問はございますか?。」
「いや、特に…」
結構分かりやすい説明だったから質問なんて無かったけどシャーリーはあるようだ。
「…もしAランクに満たないのに中央街のギルドに入ったからどうなるのよ?。依頼は受けられるのよ?。」
なんでそんな質問するの?。ほら、見て周りからの視線。当然だよね。いきなりAランクの冒険者に付き添われてきた見たことない奴らがいきなり自分達を飛び越えて依頼を受けようとしてるんだもん。腹立つよね。
「無事に依頼書を受付まで提示して頂ければ問題はございません。ただしその場合は命の保障はしかねますのでご留意ください。」
認められず中に入ったらAランクの人たちに目をつけられるんだろう。皆んながアリアさんと同じ
強さだとすれば命がいくつあっても足りない。
「冗談なのよ。ゆっくり体を鍛え直すのよ。」
「そうは良かったです。…ではもう質問もないようですので失礼致します。」
受付の女性が去っていく。
「おいおい、シャーリー。君は…中々冒険者だな。」
ほんとそれ。寿命が縮む。
「聞いてみただけなのよ。聞くのはただなのよ。でも情報は有益なのよ。」
「そんな情報使うことないから。…お腹が一気に空いた。」
一瞬の緊張と安堵のコンボで俺の腹は限界だ。
「そうだな、それじゃあご飯にしよう。」
こうして俺たちはギルドをあとにした。…悪い印象持たれてませんように。俺に出来るのは祈ることだけだ。