サクスベルク家の人達
「…君がクラヒト君か。アリアから話は聞いているよ。魔族の侵攻を退け更には娘の命を救ってくれたと。親として礼を言わせてほしい。」
アリアさんの父親のいる部屋に入った俺とシャーリーとアリアさん。そして中に初めから部屋にいた3人、多分アリアさんの父、兄、姉だろう。例の規格外のお母様は不在のようだ。少し安心する。父親は整った顔つき、短い金髪、青い瞳、口元の髭が洒落ている。貫禄のある貴族といった感じだ。そのひとがいきなり頭を下げてきたのだから当然テンパる。
「あ、頭を上げてください。俺に偶々丁度いい力があったからそれを使っただけなんです。俺自身はそんな大した者じゃ…」
「如何に優れた力があろうともそれを使う者が未熟ではどうにもならない。君にそれだけの力があったことに感謝せねばならんな。」
今度はお兄さんが言葉を継いで称賛してくる。その家族は俺を誉め殺しにする気なのだろうか。因みにお兄さんは父親を若くした感じだが髪が長髪で後ろで束ねていて顔つきが少し柔らかい。優男っぽい。これも貴族っぽい。
「…こら、2人とも。クラヒトさんが困っていらっしゃるわ。まだ名前も名乗っていないのに…申し訳ありません。」
アリアさんのお姉さんが2人を嗜める。俺がテンパっていることを感じて場を整えてくれたようだ。父親とお兄さんは一瞬ビクッとした後大人しくソファに座り直した。…なんだ今の反応。何か引っかかる。
「そうだな、すまなかった。先ずは自己紹介からさせてもらうべきだった。私はアリアの父、ヘルガ・サクスベルクだ。今はサクスベルク家の当主をしているがその前には王国騎士団の団長をしていた。」
ヘルガさんが右手を差し出してくる。握り返すと手の表面がゴツゴツしていた。これが剣を握ってきた手なのか。全員に名前を名乗るのもおかしい感じがしたので取り敢えず全員分の自己紹介を聞かせてもらうことにする。シャーリーも何も言ってこないし間違ってないのだろう。
「アリアの兄のクルト・サクスベルクです。妹の命を救ってくれてありがとう。僕は現役の騎士団副団長なんだ。だからもし力になれることがあったら遠慮せずに言ってほしい。」
アリアさんのお兄さん、クルトさんはその優しい顔つきに違わぬ温厚そうな話し方だった。でも握手の手はヘルガさんと同じような感覚だった。優男の見た目で多分めちゃめちゃ強い。…いかん、非リア充としてメラメラと炎がつきそうだ。
「アリアの母のマーベル・サクスベルクです。先程は主人が申し訳ありませんでした。アリアから話は聞いています。王都に滞在する間どうか自分の家だと思って寛いでくださいね。」
「…え?…。」
それまで大人しく聞いていた俺だけど看過できない発言があったぞ。
「…?…自分の家だと思ってください…?。」
「いえ、そこではなくて…」
俺の疑問符を聞いたマーベルさんがもう一度言い直してくれる。だけど俺が疑問に思ったのはそこじゃない。その前なんだ。
「…えーと、マーベルさんは…アリアさんのお母さん何ですか?。お姉さんじゃなくて?。」
「あら…うふふ、…褒めても何も出ませんわよ。あ、お茶菓子を新しいのを持ってきましょうね。」
マーベルさんの見た目は若すぎるんだ。それこそアリアさんの姉で通るくらいに。それと褒めても何も出ないって言ってだけど新しいお茶菓子が出ました。
「…母はその体の魔力が膨大な為、人より老化が遅いらしい。…まさか…クラヒト、母のことを…」
隣に座るアリアさんが小声で説明してくれる。何故か焦っている気配がするけど。俺のことをなんだと思っているのか問いただしたい。
「よろしくね、クラヒト君。」
マーベルさんが俺の手を握ってくれる。柔らかくてそして…暖かい。
「今日は姉上はいないのですね。」
「あぁ、あの子は今日は仕事でね。なんでも魔物の群生についての調査らしい。」
一先ずサクスベルク家の方々の紹介は終わった。そこで俺は自分のこととシャーリーのことを話す。って言ってもそんなに話すことはなかったし面白い話なんて出来なかったけどサクスベルク家の人達は興味深そうに聞いてくれた。俺みたいな平凡な男がかえって珍しいのかもしれない。うちの娘にはお前のような男は友として相応しくないとか言われたらどうしようかと思っていたけどそんなこともなさそうだ。良かった、良かった。