コーラルをでる、何も手配してなかった。
コーラルを立つ日が来た。俺は不覚にも全く寝れなかった。なんか遠足前の小学生みたいで恥ずかしい。けど仕方ないだろう。王都がどんなところか気になるし。
「クラヒト大丈夫なのよ?目の下のくまが凄いのよ。」
シャーリーが覗き込むように俺の顔を見つめて心配してくれる。そのシャーリーだが服装はモリアさんの救出に向かった時と同じで腕に手甲をしている。シャーリーの戦闘スタイルは拳闘士というらしい。
「あぁ、楽しみで寝れなかったんだ。ダメだよな、これから10日ぐらいかかるんだろ?。歩く自信ないなぁ。」
徹夜で1日歩き続けないといけない。日本にいる頃なら無理だっただろうがそれなりに鍛えた今なら…なんとかなるといいなぁ。情けない姿は見せたくないし。
「…?…。何のことなのよ?。歩いてなんていけないのよ。途中町に泊まれれば良いけど無理な時もあるのよ。その時どうするつもりなのよ?。一般的には馬車を借りるものなのよ。」
おっと、ここで早くも想定外のことが起こりました。でも冷静に考えればそうだ。これだけの荷物を持って歩いていくなんて中々現実的じゃない。…どうするんだろうか…因みに発案者の俺は何も手配してないんだけど。
「…そんな心配する必要なんてないのよ。アリアちゃんが用意してくれているのよ。一人で王都に向かってたら寝込みを襲われて死んでたのよ。」
俺が戸惑っているのを理解したシャーリーが説明してくれる。アリアさんが手配してくれているらしい。マジで経験者と同行出来て良かった。一人で魔物が出る道に着の身着のまま寝るのは不可能だ。
「…おーい、こっちだ!。クラヒト、シャーリー‼︎。」
俺とシャーリーを呼ぶ声が聞こえる。アリアさんが大きく手を振っている。その隣には…
「…え、…馬車なのは分かるけど…デカくない?。」
アリアさんの隣には確かに馬車があった。だけど俺の想像と違う。馬車って馬が一頭でなんか箱みたいなやつを引っ張ってるイメージだったんだけど。馬が二頭いるし、引っ張っているのは普通にワンルームみたいな広さの箱だし、車輪もめっちゃしっかりしてる。…映画の貴族が乗ってたやつより大きいかもしれない。この世界ではこのくらいが普通なんだろうか。
「…アリアちゃん、本気なのよ。」
シャーリーが何か言った気がするが聞き取れない。シャーリーにしろアリアさんにしろ偶に言った言葉を聞き取れない時がある。俺の注意力不足が原因だろう。兎に角俺とシャーリーは荷物を持ってアリアさんのもとへ向かう。
「…うわっ、…マジででかい。…」
アリアさんのもとへ辿り着いて改めて思う。でかい。でもこれなら旅も想定より大分楽になると思う。
「クラヒトは王都に行ったことがないと言っていたから勝手に馬車を用意したが…良かったか?。」
「うん、勿論。ってか俺馬車を用意するなんて知らなかったから本当に助かったよ。」
アリアさんが手配してなかったら多分今日出発出来てなかっただろう。そうなると気まずいことになる。あれ?王都に行ったはずなのに…なんでいるんだ?、みたいな。
「アリアちゃんわざわざこの馬車を用意したのよ?。この子達までセットなんて…気合が入っているのよ。」
シャーリーが馬車の周りを一周し馬達を見ながら言う。
「…ん?わざわざって…この馬車普通では使えないか?。」
「この馬車はアリアちゃんが個人で所有している馬車なのよ。だからここに…サクスベルク家の紋が刻まれているのよ。この馬車なら王都に着いた時の検問も素通り出来るのよ。」
個人所有の馬車!。…車を持っているみたいなものか。そして多分高級車。
「普通の馬車では体が痛くなってしまうからな。冒険者は移動も多い。その時の疲労などを考えると自分だけの物を用意した方がいいんだ。」
アリアさんが馬を撫でながら説明してくれる。一流冒険者ならではの考えだ。俺は感心しながら馬に手を伸ばそうとする。撫でてみたい。
「…あ、待つのよ!。…クラヒトはまだやめといた方がいいのよ。」
シャーリーから待ったがかかる。それによって伸ばしていた手を引っ込める。え、なんで…馬を撫でようとしただけなのに。
「その子達はセイバーホース、Bランクの魔物なのよ。」
聞いて納得。Bランク⁉︎。
「セイバーホースは基本的には温厚な性格なんだ。だが自分の縄張りを荒らされたり認めた者以外が近づくと一気に戦闘態勢に入る。クラヒトはまだこの子達に力を示していない。だから触れない方が賢明だ。まぁ、わざと触れて直接認めさせる手もあるが…お勧めはしない。」
…この温厚そうな馬にそんな危険な一面があるとは。
「…えーと触るにはどうしたらいい?。」
「この子達はセイバーホースの中でも人に慣れている。不躾に触れなければ怒ることはない。だから.少しずつ距離を縮めていくといい。餌をやったりブラッシングしたりだな。」
親密度を上げていけば触れるようになるらしい。ブラッシングでも直接肌に触れるのはダメのようだ。因みに名前はソーラとイルだそうだ。
「ソーラとイルは普通の馬とは比べものにならない速度で走る。それに野宿する時もその警戒能力は高い。私の大切な家族なんだ。」
アリアさんが鬣を撫でるとソーラとイルが嘶く。
「先に夜、野宿することになった場合の警戒の説明をする。夜は1人2時間交代で見張りをすることになる。残りの2人は中で横になる。ソーラとイルも交代で起きていてくれる。だから基本的に魔物の襲撃は想定しなくてもいい。街道にいる魔物は精々Cランクだろうからな。偶にだが夜盗が出るからそれだけに気をつけていればいい。まぁ夜盗もソーラとイルには敵わないだろうが…この子達も一頭ずつ見張りをするから退屈してしまう。見張り中にブラッシングなどをしてやってくれ。」
2時間交代か。って事は睡眠時間は多分4時間。でも日中馬車が走っている時にも寝れると考えれば妥当だろう。
「コーラルから王都まで普通なら10日はかかるだろうが…6日で着くぞ。だから見張りも頑張ってくれ。」
「6日なら4時間睡眠でも我慢出来るのよ。これからよろしくなのよ。」
シャーリーもソーラとイルを撫でる。どうやら初対面ではないようだ。…俺の目標は決まった。王都に着くまでに俺に心を開かせる。毎日2時間みっちり俺のことを知ってもらうぜ。