特訓の成果、俺は強くなった。
「よし、クラヒト!神速を使ってこい!。…天眼!。」
「…神速発動。トップを80に…レディー…ゴー!。」
特訓が開始してから1ヶ月が過ぎていた。今日は俺のこの1ヶ月の成果を試す日。造匠、神速、魔法、それぞれアリアさんとシャーリーがテストをしてくれることになっている。神速のテストは天眼を発動した状態のアリアさんの背中にタッチすること。背後をとることは戦闘において限りなく勝利に近いからである。因みに魔法の使用も許可されている。何故なら俺の魔法はそれだけで使っても効果が薄いので併用を前提としているからだ。スキルと魔法が同時に使えて良かった。
「…直線的では私の…!疾い!。…緩急か!。」
俺はまず神速を8割で発動する。そしてアリアさんの目の前で10割を解放。その緩急でアリアさんの意表をつく。だけどアリアさんはすぐにその場で地面にうつ伏せに倒れる。それによって俺は一瞬でアリアさんの上を通過してしまう。
「…まだだ!。…」
通過した俺は最初についた足を軸に方向を切り返す。足にはかなりの衝撃がくるがシャーリー特製のトレーニングのおかげで踏ん張ることができた。そのまま背を上に向けたまま地面に伏しているアリアさんに迫る。
「…良くついてきた。だが…行動が短絡的だぞクラヒト!。」
アリアさんがこちらを見ることなく後ろ蹴りを放ってくる。的確に俺の顔面を狙って放たれた蹴りをなんとか顔を反らし回避する。だが一瞬視界からアリアさんを離してしまった。その瞬間辺りに黒煙が発生する。俺の視界を潰す為にアリアさんが撒いた物だろう。
(…まずい、俺の視界はゼロ。でもアリアさんには見えている。それに…時間も迫っている。)
緩急の習得と同時に神速の発動時間も増えた。だけどそれはアリアさんも知っている。だから煙幕を張ったんだ。だけどそれは俺の速度を脅威に感じていることの裏返しでもある。なら俺は…隠し球を使おう。俺がこの1ヶ月の間に習得した魔法は3つ。その中のひとつだ。
「…『サンライト』‼︎。…神速…マックスアクセル‼︎。」
俺の手から明かりが漏れる。サンライト、洞窟などで明かりを灯す魔法だ。普通に使っても意味はないだろう。だけど今アリアさんは天眼で俺を見ている。注視している。そこにいきなり光源が現れたら?。当然…一瞬視界がぼやける。その隙をつく。
「…ぐおっ…サンライトか。いつの間に…さてはシャーリー…」
アリアさんの動きを封じた後は神速のスペック任せだ。能力を解放して周囲全てを駆け回る。優雅さなんてカケラもない泥臭い作戦だ。だけど俺にはこれがあってる。当然何度も切り返すことになるので体が悲鳴を上げる。だけどまだ保つ。
「…はぁ、はぁ、アリアさん、タッチです。」
「…良くやったクラヒト、合格だ。目潰しに加え私の想像を超える速度。手段はスマートじゃないが悪くない。」
遂にアリアさんを探し当てた俺は背中にタッチする。勿論、本来のアリアさんなら魔法を使うし、武器も使う。だから実戦とは違う。けど俺は神速を使いこなせるようになったと思う。アリアさんも認めてくれている。
「次は造匠だが…いけるかクラヒト?。随分無理をしていたようだが…」
「全然大丈夫。シャーリーにしごかれたから結構体に筋肉ついてるみたい。」
本当は結構キツかったけど格好つけておく。それぐらい男なら当然だろう。
「なら私に一太刀入れてみろ。私に当たれば合格とする。当然…私も全力でいくぞ。」
アリアさんが腰の剣を二本とも抜く。更に目も天眼のまま。アリアさんの完全戦闘スタイルだ。まぁ実際はこれに魔法が加わるわけだけど。
「…対個人、相手は二刀流、…そして広範囲の視界、…一瞬を作り出す。なら…『震波』。」
頭の中の六芒星を回す。この行動にも慣れたものだ。そしてそれと同時に名前を叫ぶ。名前をつけたつけたことによりイメージが簡略化され想像通りの剣を呼び寄せることができるようになった。俺の手には幅の広い剣が出現していた。斬馬刀の刀身が短い物をイメージしている。
「なんだあの剣は…。鋭さがない。…だが、クラヒトが無駄なことをするわけがない。それにも意味があるのだろう。さぁ、来い!。」
両手に持つ剣を構えるアリアさん。俺はそれに飛びかかる。アリアさんは回避を選ばず交差させた剣で受け止める。その時点で俺の8割勝ちだった。剣が触れた瞬間俺は自分から手を離す。それに驚愕の表情をみせるアリアさん。着地の勢いそのまま屈み込みアリアさんの懐に潜り込む。
「…剣を⁉︎…だけど…⁉︎。…」
アリアさんも剣を構え直し迎撃しようとしたんだろう。だけどそれは叶わない。剣は俺の震波と触れたままの状態で固定されているのだから。通常ではあり得ない状況に反応が遅れるアリアさん。剣を捨てる決断までの僅かな時間、それが俺の勝ち筋だった。モリアさんに作ってもらった剣を抜きアリアさんに向ける。それと同時に空中に固定されたアリアさんの二本の剣と震波が地面に落ちる。
「…ふぅ、…俺の勝ちでいいですか。」
「…あぁ、見事だ。」
俺の成長を確かに示す事ができた。