冒険者ランクの番外、強敵特化の人達らしい。
「…………すまない少し取り乱したようだ。…忘れてくれ。」
叫び声を上げて走り去ったアリアさんが戻ってきたのは10分後。息を乱し、髪も解れてしまっていた。シスリーと呼ばれたメイドさんがその髪を丁寧に梳いている。それは別に眼福な光景なのだが一つ言っておきたい。あれは少し取り乱したの範疇ではないと思う。それと多分俺は忘れることはない。
「忘れるのは無理なのよ。脳裏に焼き付いているのよ。」
どうやらシャーリーも同じ意見のようだ。それを聞いてアリアさんは、ぐぅぅと呻き声をあげる。
「…し、仕方ないのだ。私は依頼でこの家を空けることも多い。だから!部屋が多少散らかるのは道理なんだ!。」
「アリア様は依頼の度に部屋中の物をひっくり返してから出発なさいます。私たちは私室に入ることは出来ませんので…そのままになっているのです。」
「普段から散らかしてるから物が何処にあるのか分からないのよ。だから探す為に散らかす、…完全に悪循環なのよ。」
やめてシャーリー、アリアさんのライフはもうゼロだ。呆然としてしまっている。その状態でも着々と髪型が整えられているのが面白い。あの側頭部を綱みたいに編み込む髪型なんて言うんだろうか。女子と話すことがなかった俺にはその知識はない。
「…アリアさんその髪型似合ってますね。いつもと大分印象が違って新鮮です。」
この場のなんとも言えない空気をなんとかすべく取り敢えずアリアさんの髪型について感想を言う。っていうかメイドさんが後ろからこっちにアイコンタクトをしてたから言ったんだけど…正しかったんだろうか。
「…そ、そうか?。…まぁ普段からは出来ないが偶の休みぐらいわな。私だって女なのだから、お洒落に気を使うんだ。クラヒトが気に入ったのなら今後気が向いたらこの髪型にしてやろう。」
アリアさんは復活して嬉しそうに言う。後ろでメイドさんがニヤニヤしてるけどどうしたんだろうか。
「さっさと今日の用事を済ませるのよ。クラヒト、早くスキルについて説明するのよ。」
さっきまで楽しそうにアリアさんのライフを削っていたシャーリーが一転して事務的に急かしてくる。特に従わない理由もないので俺は天癒、神速、大虎、造匠についてアリアさんに話す。
「…4つの力を持つスキルか。しかもそれぞれが単体で状況を変えれるほどの力を持つ。聞いたことがないな、それだけのスキルは。明かされているスキルの中でだけだが。」
「だがそれぞれに条件か。…うーん、汎用には向かない能力。…あれを目指すのも一つの手か。」
俺の説明を聞いたアリアさんが凛々しさを取り戻し色々考えてくれる。さっきまでのも可愛い系で良かったが今のもカッコ良くて良い。
「…あれって…まさかあれなのよ⁉︎。だけどあれは強さの方向が普通とはかけ離れているのよ。それにランクが最低でもBランクないとダメなのよ。」
アリアさんの呟きにシャーリーが過剰な反応を示す。俺置いてけぼりである。
「その規定は原則だろう。例外ならある。例の嵐鬼はランクを持たずに任命されたじゃないか。」
「あれはほんの一部の例外なのよ!。あれは普通じゃないのよ。クラヒトとは違うのよ!。」
「それを決めるのはクラヒトだ。私はこの道ならクラヒトが通常より早く大成出来ると信じている。」
置いてけぼりになっている間にアリアさんとシャーリーがヒートアップし始めた。信じられるか?当の本人は何も分かってないんだぜ?。じゃなくて止めないと。
「ちょ、ちょっと待って。話の内容が全く分からない。2人はなんの話をしているんだ?。」
「冒険者のランクには通常のものとは違う番外があるんだ。」
「…番外?、…普通とは違うって…」
「番外は通称『特記』と呼ばれるのよ。普通の冒険者では難しい依頼や、弱点を明確に突かなければならない魔物の討伐などが任せられるのよ。特記に選ばれる冒険者の特徴は一点豪華な力。つまりオンリーワンかつナンバーワンなこと。」
「…俺にそれを目指せと?。…」
普通の冒険者とは違う道筋か。…確かに俺はスキルを使わないと良くてDランクぐらいしか倒せない。その特記になればスキルを使って強い魔物を倒せるかもしれない。そうなったら一気に生活は変わるだろう。
「でも特記は裏道なのよ。普通に強くなれるんなら普通にあげればいいのよ。…因みにアリアちゃんでも特記には選ばれてないのよ。」
「私の天眼はそこまで尖ってないからな。どちらかというと特記の逆、究極の凡庸スキルだ。周りを生かすスキルだからな。」
「その特記を目指すメリットは何?。」
今の所リスクが目立つ。団体戦が苦手な奴を強い個人に当てる…みたいな印象だ。俺の能力は対個人の方が良い能力が多い。けどそれだけ危険もあがるってことだよな。
「特記になれば自動的にランクはAにあがる。依頼も王都からのものや指名依頼が多くなるだろう。…まぁ今すぐに決める必要はない。特記になるには恐らく今のままのクラヒトの力でも足りないだろう。強くなりながら考えればいい。選択肢を持つのは大切なことだ。」
「そうなのよ、まずはちゃんと自分のスキルと向き合うのよ。それから決めるといいのよ。でも決めたらちゃんと言うのよ?。」
「…頭の中には入れとく。でも今は最低限の強さを手に入れたい。」
悩んだけど後に持ち越すことにする。基本的にBランク以上じゃないとダメみたいだし最低限の戦闘力は必要なんだ。…だけど選ばれるランクになったらアリアさんと横に並べる。その事は凄く魅力的に思えた。