笑顔の価値、ドキドキお宅訪問。
「お兄さんバイバイー!。」
元気に俺を見送ってくれるミリアちゃん。微笑ましい限りだ。でもあんな子でも、もう少し大きくなれば俺になんか見向きもしなくなるだろう。…悲しい。
「…どういう顔をしてるのよ?。何で悲しそうなのよ。」
しみじみとミリアちゃんの今後について考えているとシャーリーが下から顔を覗き込んでくる。どうやら顔に出ていたようだ。
「いや、ミリアちゃんも大きくなったらJKみたいに可愛げがなくなるのかなと思って。…」
女の子は化粧を覚えることで外面は良くなるが内面が純粋さをなくす。俺も高校生ぐらいから女の子と喋るのが怖くなったんだよな。喋り方とか威圧してくる気がして。
「じぇーけー?。なに言ってるか分からないのよ。でも、あのぐらいの女の子はすぐに大きくなるのよ。そんな女の子から変わらず笑顔を向けてもらえる確実な方法なら私知ってるのよ。」
「え、…マジで!。教えてくれ!、いや、教えてください。」
そんな方法があるのか!。くそ、俺も日本にいる時にその方法を知ってれば…!。悔やまれる。
「あの店でいっぱい買い物をすればいいのよ。そうすればミリアちゃんも仕事だから笑顔を向けて接客してくれるのよ。」
「…違う、違うんだよシャーリー!。俺が言いたいのはそんな汚い笑顔のことじゃないんだよ。」
シャーリーが無い胸を張って言った内容は日本で言うパパ活みたいなもんだった。日々実の娘から無視される可哀想な父親が一時の癒しを求めて利用する行為だ。この世界でもその考えの根幹があることに驚いたが俺がミリアちゃんに求めているのはそれとは対極のものだ。…いや、でも本当にそれで成長しても俺に笑顔を向けてくれるんなら…。無垢な笑顔と対価を支払った笑顔。その表現に差はあれど本質は同じなんじゃなかろうか。…女の子の笑顔が見たい。その神聖なる行為を止める者などいるだろうか、いやいない(反語)。
「違うのよ?…中々難しいのよ。でもどうでもいいのよ。それより早くアリアちゃんの家に行くのよ。私今日まだ晩ご飯食べてないのよ。」
俺の人類の心理に到達するような崇高な思考はシャーリーの前では晩ご飯に劣るようだ。この食いしん坊のケモ耳め。なでなでしてやろうか。
「でもアリアさんは待ってろって言ってたけど。」
「大丈夫なのよ。私はアリアちゃんの家を知ってるのよ。」
「…じゃあいいか。アリアさんもわざわざここまで来るのは面倒くさいだろうし。」
家が何処かは知らないけど一旦家に帰ってから外に出るのは色々と面倒くさい。ゆっくりしたいだろうしシャーリーが知ってるならこっちから出向く方がいいだろう。
「…なぁシャーリー、本当にこの辺なのか?。俺場違いじゃないか?。」
「勿論場違いなのよ。ここはコーラルの中でも1番な高級住宅街なのよ。住んでいるのは大きな商会の幹部かAランク近くの冒険者、後は貴族の別荘があるのよ。」
「…やべぇ、日本で言う芦屋とか田園調布みたいな感じかよ。」
芦屋ではすれ違う車は全て外車と言われている。そんな場所に俺みたいな庶民が紛れ込めば…死は免れない。
「またよく分からないことを言ってるのよ。さぁ、着いたのよ。ここがアリアちゃんのコーラルでのお家なのよ。」
「…デカイ。…待って、コーラルでのって言った?。」
到着したのは日本でいうペンションみたいな建物だった。お洒落な建物に大きさ前庭。1人で所有していて良い大きさではない。何LDKですか?。…そしてシャーリーの言葉が引っかかる。そういえばアリアさんも拠点って言ってた。まさか…
「アリアちゃんは伯爵の令嬢なのよ?。勿論王都にサクスベルク家の本邸があるのよ。それに確か後2つぐらい拠点があるって言ってたのよ。」
その設定忘れてました。伯爵令嬢か、それにアリアさん自身もAランクの冒険者だ。大層稼いでいるはず。
「…マジパネェ。…でもさ、こんなに広い所に1人なの?。」
「違うのよ。アリアちゃんは冒険者になれなかった女の子をメイドとして雇っているのよ。冒険者ギルドとしてもとてもありがたいことなのよ。」
なんと冒険者のセカンドキャリアの形成にも一役買っているとは…アリアさんは凄いな。
「中に入るのよ。」
「勝手に入って良いのか?。怒られない?。」
インターホンは見当たらない。普通に入っていくシャーリーの後を追いかける。これがこの世界では普通なのか?。庭で清掃しているメイド服の女の子を見つけた。特に止めてくることはなかったから良いようだ。
「アリアちゃん?来たのよ!。」
建物の入り口の前に到着してシャーリーがドアをノックする。するとドアが開き中から又もやメイドさんが出てくる。さっきの子より歳上っぽい。
「ようこそいらっしゃいました。誠に申し訳ありませんがアリア様は自室の清掃の為もう暫く時間を要するようです。少し中でお待ち頂けますか?。」
メイドさんが丁寧な口調で主人の秘密を暴露する。部屋の片付けか。その為に急いでる帰ったんだな。
「やっぱりなのよ。結構時間が経っているのにまだ終わってないのは普段片付けしてないからなのよ。」
シャーリーは初めから察していたようだ。そのシャーリーの言葉にメイドさんが笑っている。どうやら結構フランクな主従関係のようだ。
「ではこちらへどうぞ。お茶とお菓子をお持ち致します。」
メイドさんに中を案内される。そこには大きなテーブル、ソファ、そして調度品が並んでいた。けどなんか…んー、なんだろ。
「…物が少ない?。…部屋の大きさに対して装飾品が…」
「えぇ、アリア様はインテリアにこだわりが御座いません。こちらに置かれている家具も私達メイドが用意した物でございます。進言しなければ一つの部屋しか使わないような方なので。」
最低限の物はあるけど無駄な物がない。アリアさんの性格が出ているのだろうか。だけど…部屋は片付いてないんだよな。よく分からないな。
「いやー、やっと部屋が片付いたよ、シスリー。流石に男を始めて招くのに汚い部屋を見せるのは私の精神が持たないからな。…待っているだろし迎えに出てくる。出迎えの用意を頼むぞ。…あと、一応部屋のチェックだけしといてくれ。換気はしたが…自分では気づかないかもしれないからな!。…それと…」
部屋のドアが勢いよく開きアリアさんが入ってきた。俺たちには気付いてないようだ。あ、そろそろ気付いて。結構喋りすぎてる。秘密を暴露してるよ。メイドさんも早く言ってあげて!。笑ってないで。
「…ん?シスリー、どうし…た…。…⁉︎…クラヒト!何でここに!。」
やっと笑顔のメイドさんの異変に気付いたアリアさんがこっちにも気付いた。固まるアリアさん。
「…来ちゃった。」
「…………聞いてたか?。」
アリアさんの綺麗な目から光が消える。それと同時に俺を悪寒が襲う。まずい、この答え次第では俺の命が危ない。
「ぜ、全然何も聞いて…」
「勿論、聞こえているに決まっているのよ。」
シャーリーィィィィィイ‼︎。
「…う、…うわあぁぁぁぁぁぁぁ‼︎。」
アリアさんが走り去ってしまった。俺はこれからどうすれば良いんだろうか。