剣を手に入れた、普通じゃないみたい。
「お、クラヒト待ってたぞ。お前の剣はもう出来ている。ちょっと待ってな。」
シャーリーと連れだってモリアさんの武具屋に行くと剣がもう出来ていることを告げられた。…いやー、この世界に来て結構経ったけどその中で上位の楽しみだ。俺の為の剣か、一緒に強くなっていきたい。
「…あ!お兄さん!。」
まだ見ぬ剣に想いを馳せていると可愛らしい声と共に腹部に衝撃が走る。完全に油断していた俺は勢いに負けて尻餅をついてしまった。だが飛び込んできた子だけはしっかり抱きとめているけどね。
「…ミリアちゃん、今度から飛びつく前に一旦止まってもらっていいかな。俺じゃあ支えきれないかもしれないから。」
「えー、…じゃあお兄さんが強くなればいいんですよ!。それだったら私が飛び込んでも問題ないですよね!。」
情けない俺の提案に否定の声を上げるミリアちゃん。そして逆に提案してきたのは中々鬼畜なアイデアだった。子供の成長速度は速い。それより速く俺の体を鍛えろと宣ったのだ。笑顔付きで。勿論俺はその提案を…
「そうだね、俺が頑張ればいいんだもんね。ミリアちゃんが飛びついてきても倒れないように頑張るよ。」
全力で受け入れた。こんな美少女の笑顔の為に努力出来ない男は生きている価値はないだろう。それに…ミリアちゃんもいつまでも俺に懐いてくれるとは限らない。ならその限られた時間、一緒に笑いたい。そう決意したのだがさっきから何故かシャーリーが怖い。いや、顔は笑っている。笑っているのだが…怖い。冒険者をやってるからその辺の感覚は研ぎ澄まされてきている。理由はわからないけど。
「…待たせたな!。これがお前の剣だ。」
しばらくシャーリーからのプレッシャーとミリアちゃんの体温の板挟みにあっているとモリアさんが一本の剣を持ってくる。おぉ、なんかかっこいい。鞘は赤色だ!。腹に乗っていたミリアちゃんも引き際は弁えているのか素直に退いてくれる。こういうところも可愛いよね。
「どうした?持ってみないとわからんだろう。」
モリアさんに促される。そうだけど、なんか緊張する。
「そうなのよ。早くするのよ。ここで無駄に時間を使っても何の意味もないのよ。この時間素振りにでも使った方が有意義なのよ!。」
シャーリーらしい実に合理的な意見だ。俺は素直にその言葉に従うことにした。
「…あっ、軽い。…うん、それに長さもいい感じだ。…ん?この柄の部分に空いてる穴は一体…」
鞘から剣を抜く。この何気ない動作も始めは戸惑ったけど今ではスムーズになっている。出てきた刀身は銀色で滑らかに光っている。振ってみた感じ今までの剣より軽い感じがする。これから魔物を斬る時の速さも上がるだろう。柄の握りを確認している時俺は柄にいくつか小さな円形の穴が空いていることに気がついた。
「お、気づいたか。その穴にはマジックメタルを埋め込むことが出来る。今はまだシャーリーの許しがないからダメだが許可が出たら持ってこい。その剣はお前に合わせて強くなるんだ。」
「え、そんなの聞いたことないのよ。」
「そりゃ当然だ。この剣が初めてだからな!。今までの剣はマジックメタルを後付け出来なかったからな。その剣は合計3つまでマジックメタルかレアメタルを組み込むことが出来る。クラヒトの戦い方の変化に対応出来るってわけだ。間違いなくこれからの常識を変える剣になるぞ。」
かなり凄い発明だったみたいだ。考えてみれば剣に練り込むはずのマジックメタルを後から付与できるって凄いことだよな。
「俺にそんな剣を渡していいんですか?。もっと有名な冒険者に使ってもらった方が売り上げに繋がりますよ。」
「なに、問題はない。お前は強くなるんだろう?。その時駆け出しの頃から使っていたってなった方がインパクトがある。」
投資、みたいな感じだろうか。そこまで言われると強くなりたいって気持ちが強くなるな。
「…もう、モリアさんは馬鹿なのよ。この剣の構造を然るべきところに発表すれば大金持ちなのよ。今までにない画期的な剣なのよ。」
「金なんて命あってのものだ。そんでクラヒトとシャーリーには金より大事な命を救ってもらったからな。俺も金より良い物を返さないと筋が通らないだろ。」
「…ありがたく使わせてもらいます。支払いはいくらですか?。」
「うーん、そうだな。その剣にはレアメタルの『浮金石』と『強斬石』を練り込んである。…石だけで金貨5枚ぐらいだったから…」
金貨5枚、日本円で50万か。高く感じるけどこれだけの性能だし、命を預ける武器と考えれば高くない。
「…金貨1枚だ。この剣は金貨1枚でお前に売る。」
「…え、それじゃあ材料代も出ないんじゃ。」
「良いんだよ、その代わりマジックメタルの埋め込みはしっかり工賃取らせてもらうぜ。なにせうちでしか出来ないんだからな!。」
モリアさんはこう言ってるが多分今度レアメタルを埋め込みに来てもぼったくったりなんてしないだろう。それだけはわかった。
「だから今回は金貨1枚だ。どうする?現金か?カードか?。」
俺はカードで支払うことにする。
「よし、そんじゃあその剣はクラヒトのものだ。しっかり使ってやってくれよ。」
こうして俺は俺だけの剣を手に入れた。