やっと剣を作る、それでも基礎を重んじる。
アグナドラゴンを倒してDランクになってから3週間が過ぎた。その間俺は主にEランクの魔物を狩って生活の糧を得て1日に一匹だけDランクの魔物に挑む。その生活の中で大きな変化があった。六芒星を任意のタイミングで発動出来る様になったのだ。と言っても個別の能力を発動出来るわけではない。検証の結果いつでも使えるのは神速と造匠。天癒と大虎は使えなかった。
「…神速は使用時間に応じてその肺にダメージがくる。長時間の使用は厳禁だ。造匠は具体的なイメージが定まってないと創れない。…メインがこの2つだからもっと考えないとな。」
神速を継続的な戦闘で使うのは自殺行為だ。敵から逃げる時や一撃離脱の時に使うことにする。造匠は何度も失敗してやっと仕組みがわかった。初めて使った時は一振りだけでいいからどんな敵でも倒す力が欲しいと願っていた。2回目はただ剣が欲しいと願っただけだった。造匠発動の条件は明確な意思を込めること。その意思に応えてくれる剣が生成させる。期間は1日だけ。込めた願いが強大であればある程時間は短くなる。
「…どうしたのよ?そんなに顔をしかめて。お腹でも痛いのよ?。」
真剣に自分の能力の運用を考えているとシャーリーが今日の分の報酬を計算してカードに入金してくれる。最近では1日に銀貨20枚ほど稼げるようになっている。なので最近は週5勤務だ。シャーリーも適度に休むのは長く続けるコツだと言っている。カードを返却してくるシャーリー。その時ついでに例の美味しいジュースも出してくれる。これ、本当に美味しい。
「いや、俺って強くなったのかなって思ってさ。少しづつだけど蓄えも出来ているし安定してるけど、もし長期の怪我とかしたらって。…だから上を目指したいんだ。」
「Cランクを目指すのよ?。確かにCランクになれば一回の依頼で金貨1枚とかになるけどその分長くしんどい依頼になるのよ。そもそもあんたでは技術的にまだまだ足りないのよ。…咄嗟の力は認めてのよ?。」
実はシャーリーには俺の能力を見せている。使用条件の解明にも一役買って貰っている。だから俺の能力に制限がついてあることも1日に一回しか使えないことも知っている。だからその忠告はもっともな内容だ。
「そうだよな、アリアさんに技術とか習う前にアリアさん長期依頼に行っちゃったしな。あ、そういえば剣作ってもらってないじゃん。その為にモリアさんを訪ねたのに。」
なんだかんだで忘れてた。俺はまだシャーリー曰くクソの剣のままだ。よし、今日行こう、俺の記憶にあるうちに。
「まだ作ってなかったのよ⁉︎。既に結構日が経ってるから当然もう作ったと思っていたのよ。…今日の仕事はもう終わりだから一緒に行ってあげてもいいのよ?。」
シャーリーが同行してくれるそうだ。モリアさんはシャーリーと懇意らしい。割引とかしてくれるかもしれない、それにミリアちゃんとシャーリーが並ぶと大変可愛らしいので一石二鳥だ。断り理由がない。二つ返事で了承する。
「…それじゃあ用意するから待ってるのよ。」
「お兄さんお久しぶりです!。中々来てくれないから私から行こうと思っていたんですよ!。」
モリアさんの店に入るとミリアちゃんが飛びついてくる。この前は怪我していたから受け止められなかったが今は違う。俺は万全を期して受け止めた。そして抱き抱える。
「ごめんごめん、忙しくて来れなくてさ。…今日はモリアさんはいるかい?。」
「おぉ、待っていたぞ。確かクラヒトだったか。俺の命の恩人よ。」
店の奥からモリアさんも出てくる。あの時の怪我もしっかり癒えているようでよかった。
「私もその時一緒にいたのよ!。」
「知ってるさ、ありがとうシャーリー。」
シャーリーの頭を撫でるモリアさん。…俺はまだ頭を撫でさせて貰ったことはない。…羨ましい…!。
「えーと、今日は武器を作って貰いたいんだ。…見ての通り剣がボロボロだから。」
ミリアちゃんを下ろして剣を渡す。
「ふんふん、…これはまた…よくこれで戦えたな。…これじゃあDランクでも斬り損ねるだろ。何で竜種を倒したあんたがこんな剣を使っている?。」
俺が渡した剣を見たモリアさんは一眼で剣がもう使い物にならないことを理解したようだ。
「それはクラヒトがまだDランクだからなのよ。」
「おいおい、シャーリー。いくら甘えたいからって冗談はだめだぞ。そんなわけ無いじゃないか。Dランクの男に竜種が倒せるわけない。」
「クラヒトは特別なのよ。スキルを持っているのよ。そのスキルと私のスキルを混ぜわあせて倒したのよ。」
「…スキル持ちか。…それなら…無くはないか。って事はそのスキルは限定条件付きのスキルって事だな。だから普段は剣が必要と。」
「正解なのよ。」
「…良し、クラヒトは俺の命の恩人だからな。俺の持てる技術を注ぎ込んでやる。どんな武器が良い?。」
「…基本的には今の剣と同じで良い。斬れ味さえ有れば、…あ、でも重さは出来るだけ軽くして欲しい。」
店の奥、座敷になっているところに案内され腰を下ろす。どうやらここで剣について詰めていくようだ。だがあぐらをかいた俺の膝にミリアちゃんが乗ってくる。…凄い幸せ感。ロリコンの気持ちがわかる。
「…まぁ、貧弱だしな。丁度レアメタルが入ったんだ。そいつを混ぜれば強度と軽さが両立出来るぜ。…マジックメタルは入れないのか?。」
「それはまだ早いのよ。先ずは普通の剣で技術を身につけるのよ。」
俺の希望を聞いたモリアさんが絵で書きながらアイデアを出してくれる。貧弱とか言われたけど間違いではないので否定できない。…聞きなれない単語が出たな。レアメタルとマジックメタル。
「ほぅ、本気でクラヒトを気に入ってるんだなシャーリー。」
「そ、そんな事ないのよ!。…ただクラヒトにはモリアさんを助けてもらったし…アグナドラゴンに立ち向かう姿はかっこい…なんでもないのよ!。」
何故か俺の剣について意見するシャーリー。それにモリアさんがからかうような言葉を返す。…知ったかぶりはよくないな。聞くのは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ。
「レアメタルとマジックメタルって何。」
「…あぁ、知らんのか。まぁこんなの遠使っていたらそれも無理ない。レアメタルは特殊な製法で作られた金属で様々な効果を及ぼす。硬度をあげたりするのは勿論、逆に粘度を上げることも出来る。重いレアメタルもあるし軽いレアメタルもある。その配合で剣の質感を決める。珍しいレアメタルでは熱が加わると変形する物などあるらしい。マジックメタルは魔法の力が宿った鉱石を加工して作られたものだ。剣に練り込むと剣がその属性になる。斬る時に属性を纏うことも出来るし風などは飛ぶ斬撃も可能になる。」
…すげぇ、じゃあアリアさんの剣も凄いレアメタルとかだったのかな。借りたやつ斬れ味凄かったし。
「マジックメタルはまだまだクラヒトには早いのよ。早くから使っちゃうとそれ頼みの応用が効かない雑魚になるのよ。だからだめなのよ。」
「カッコいいのになぁ。」
飛ぶ斬撃とか1度は憧れたものだ。それに燃える剣とか。…欲しいなぁ。
「まぁ、そう言うなって。シャーリーはクラヒトにきっちり成長して欲しいから止めてるんだ。今は従ってやんな。それに強くなれば自ずとマジックメタルを使うようになるさ。」
「…基礎はしっかりしてる方がいいのよ。」
「分かった、ならそれでいい。マジックメタルはもっと強くなってからにする。」
「…それなら大体1週間ぐらいで作れるな。それぐらい経ったらまた来てくれ。」
シャーリーの忠告に従い今回はレアメタルだけにする。Bランクぐらいになったらマジックメタルの剣を作りたい。
「…すぅ…、すぅ………」
因みにミリアちゃんは俺のひざの上で寝てました。可愛いね!。