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激痛の鬼ループ、助かる為ならなんでもする

 頭の中が赤く染まる。直感で分かる、この力もリスクがあると。そりゃそうさ、これだけ質量差のある相手の攻撃を受け止めてるんだから。甘んじて受け入れる。今は…シャーリーと2人と生き残ることが最優先だ。


「…どうしたんだ、シャーリー、そんな鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をして…。」


「あんた…どうやって…」


「アリアさんが言ってただろ。雰囲気が変わるって。それは俺のスキルなんだよ。頭の中に歯車みたいなのがあって切り替わるんだ。」

 この世界に来て初めて自分の能力について他人に話した。少しは自分の力のことがわかってきたのもあるし、何より…


「そんで悪いけど、ここから2人で生きて帰れる方法を考えてくれ。因みにもうこの膂力しか使えないから。」

 俺よりも情報も経験もあるシャーリーに任せないと助からないと本能が告げていたからだ。既に天癒、神速は使い切り、造匠は何故か失敗。俺の手札は全部切った。


「な、⁉︎…馬鹿なのよ⁉︎。…アグナドラゴンは頭が悪いけど怪我をすれば逃げるのよ。だから…なんとかダメージを与えればなんとかなるかもしれないのよ。」


「…ダメージか、…ぐっ…キツイな。」


『ゴウフッ‼︎。ギャアアアーゥ‼︎。』

 俺に耐えられていることに腹が立ったのか更に上から体重をかけて潰そうとしてくる。


「…ぐっ…くそが。…重い…んだよ。…」

 俺の足元の地面が陥没する。それによって更に上からの圧力が増す。支えている腕が震える。いくら力が増そうが元の俺が日本産の凡人である以上、たかが知れてるってわけか。


「シャーリー!まだか!。なんか…」


「そ、そんなこと言われても…まずいのよ!。」

 意識を後ろのシャーリーに向けて打開策を考えついたか尋ねる。だが結果は思わしくないようだ。多分頭の中では俺だけを逃すことと自分も助かることを天秤にかけているのだろう。いつもの冴えがないのがその証拠だ。そしてシャーリーが叫び声を上げる。


「…は…?。…な…んだよ…それ。…反則だろ‼︎。」

 目の前のアグナドラゴンの体表の色が変わっていた。緑から赤に変わったその見た目は更に荒々しくなっている。変化はそれだけじゃない。身体中から突起が突き出したのだ。そう、今まさに俺を潰そうとしている拳からも。


「…クソ、くそ、糞!。…馬鹿痛ーっ‼︎。」

 手のひらに穴が開く。滴り落ちる血が前腕、上腕を伝い足元に落ちる。


「…く、クラヒト、あんただけでも逃げるのよ!。そのアグナドラゴンは変異種なのよ。」

 この後に及んでシャーリーは俺だけに逃げろと言ってくる。…俺はいい加減腹を立てていた。


「…ごちゃごちゃうるせー!。はぁ、はぁ、くそ、…お前が今することは俺の…心配じゃねーんだよ!。この場から俺とお前が助かる方法を考えることだ。それ以外のことを考えるな。次にお前が何かを言うまで死ぬ気で俺は耐えてやる。一緒に死ぬか、一緒に助かるかだ!。」

 俺は今思っていることをはっきりと伝える。そもそも俺の頼みでシャーリーは一緒に来たんだ。なのにそいつを1人残していけるはずがない。なんでそれが分からないんだ。怒りと共に飛び出た言葉は偽らざる俺の本心だった。


「……………」

 俺の言葉にシャーリーの返事はない。それで良い。自分のやるべきことをやってくれ。俺は…


「…ぐっ…このくそ恐竜を釘付けにすることだ。…我慢比べだ。離さねーぜ!。」

 アグナドラゴンの手を離さないように手のひらが貫かれたまま渾身の力で掴み続ける。


『グラァ‼︎。…グリャアアアア‼︎。』

 俺の態度に更に激昂したアグナドラゴンが俺だけに殺気を飛ばし押し潰そうとしてくる。その剛力を凌ぐ俺の腕はプシュっと音を立て鮮血が迸る。


「…がっ…まだまだ…俺は…潰れねーぞ、…」

 言葉で虚勢を張る。そうすることで自分にもまだまだやれると言い聞かせるのだ。俺はまだ…折れてない。


「…クラヒトは私のことを信じてくれるのよ?。」

 背後からシャーリーの声がする。こちらを伺うような声色だ。違うだろお前はもっと自信たっぷりに俺を罵倒してなきゃ駄目だ。


「あぁ⁉︎…勿論だ。何か思い付いたんだろ!。言ってみろ!。」


「…私のスキルのことは話したのよ?。」


「…ぐっ…1分前に…戻すとかいうやつか?。」


「そうなのよ。…それをクラヒトにかけ続けるのよ。アグナドラゴンは馬鹿だから自分の力に溺れるのよ。だからいずれ自らの筋肉が出す熱で焼け死ぬのよ。それまで…保てばこっちの勝ちなのよ。…でもこの方法は…」


「シャーリー!…早くやれ。俺にスキルをかけろ。1分前の状態に戻るんだろ?。そんで耐え続ければ良い。…シンプルな作戦だ。」

 シャーリーの言いたいことは分かった。そして躊躇する理由も。俺の精神的なことを心配してくれているんだろう。だけど舐めんな、こっちは冥土で1年漫画を読み続けた男だ。耐久力には自信がある。


「…でもクラヒトの痛みは続くのよ。それに…人にこのスキルを使ったこともないのよ!。」


「俺はお前の全て信じる。だからお前も俺を全部信じろ!。」


「…いくのよ。頑張って。」

 シャーリーが俺の背中に抱きつく気配がする。そして体に変化が起こった。噴き出した血が作る水溜りの量が減った。俺の腕の裂けた部分が減った。俺のやる気に火が付いた。…さぁ、俺の心が折れるのが先か、アグナドラゴンが自滅するのが先か。俺の勝ち以外認めない持久戦を始めよう。














「…終わっ…た…のか……」

 俺は勝った。1時間15分前と同じ姿で。目の前には所々から出血するアグナドラゴン。出血の原因はオーバーヒートだろう。


「…倒した、倒したのよ!。クラヒト!…倒したのよ!。」

 俺の背中に頭を擦り付けくるシャーリー。震えているのが分かる。


「…ごめん、立って……られない。」

 膝をつく俺。体の損傷よりも精神的なものが大きい。


「私の命にかえても街まで守りきるのよ。」


「…それじ…ゃあ…意味…ない。」

 俺の最後に見た光景は笑顔で涙を流すシャーリーだった。

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